2時40分。俺は改札についた。
特に変な様子もない。
いつもと変わらぬ日曜日だ。
「よっ!」
加藤が改札の向こう側から声をかけた。
時間は3時ぴったり。
「いゃぁさぁ、明日からギターのセールやるって聞いたから、昨日唾だけ付けて帰ってきたんだ。」
よっぽど楽しみにしていたのか、声がいつもより大きかった。

ここから電車で15分。湯吞沢ところに楽器店が多く立ち並ぶ。
「あぁこれこれ!昨日は16万だったのに10万まで下がってるよ!やっぱ1日待って正解だったなぁ。あははははは。このギターすごいんだぜ!? 超特殊なカーボンナンタラって素材使ってて、ダイナマイトでも壊せないんだぜ!またこのボディーと歪系エフェクターの共鳴っていうか、震える感じがまじたまんねぇ!んでなここのピックアップが…」
加藤は、昨日店員に聞かされたような話をさっきよりも大きい声でしゃべり続けた。
その店は新春学生応援セールと題して学生証の提示で割引販売をしていた。
加藤は今までため込んだ金で、黒いギターとオレンジ色のアンプ、黒いエフェクターを買った。
「うわー重てぇな。マジ持って帰るのめんどくせぇ」
加藤はニタニタしながら皮肉を言った。
「白石ー。腹減ったし、なんか食って帰るか。」
加藤と俺は近くのファーストフードに立ち寄った。

さすが湯吞沢。店内はギターケースを持っている人たちがたくさんいた。
「何食う?」
俺は何か変な感じがした。
周りの文字が消えていくような感覚がしてとても嫌な気分になった。
「なぁ何食うんだよ?」
「え、っあ、俺?トリプルチーズバーガー。」
なんだこの胸騒ぎは。
“定期メンテナンスとアンチウィルスの更新日”
ふと彼女の言葉が浮かんだ。


そしてメンテナンスは始まった。


俺一人を残して。
地球は止まった。
加藤も他の客も、店員も誰一人動かない。
そして彼らに文字はなくなっていた。


けど前にもあった…この光景。
どこかで見た。
奥へ奥へと追い込んでいた記憶が思い出される。
ベットの下から両親が殺されるのを見た日と同じだ。

すると、外に爆音がとどろいた。
「またテロか!?」
急いで外へ出ると、やはり外も全てが止まっていた。
ただ砂埃だけが動いていた。

すると砂埃の奥から大きな銀色の騎士4体が現れた。

この騎士は俺を助けに来た。
なぜか分からないがその時はそう思った。
俺と銀色の騎士はお互いに近づいた

騎士は立膝をつき、地面に右手を差し伸べた。
これに乗れってこと?
マンガの世界に入った気分だった。

そして俺がそのやさしい手の平に乗った瞬間。

騎士の胸部から針のようなものが出てきた。
騎士の胸は、銀、どす黒い赤、そして光を発するほどの灼熱の赤に一瞬で変わり、騎士そのものを溶かそうとした。

そして後ろには燃え盛るような色の長い尾をもつ逆光を浴びた騎士がいた。

恐ろしくなって思わず後ずさりをした。

残りの3体の騎士は一斉に赤いサソリのような騎士を目掛け攻撃した。

赤い騎士はその攻撃を軽く避け、俺を目掛けて突進してきた。

「え、俺死ぬ?」

そう思った瞬間、目の前に金色の騎士が現れた。

金色の騎士は盾で俺を守ってくれた。

しかし、その盾はみるみる溶けていった。


この隙に逃げればいいものを、足がすくんでビクともしなかった。
そしてついに盾は液体となり、金色の騎士は真っ二つに切り裂かれた。

俺はもう終わった。
そう確信した。

そして金色の騎士の上半身はさっきまでいたファーストフード店を押しつぶした。

「出るなって言ったろクソガキが!」

聞き覚えのある声があの悪魔のような騎士から聞こえた。
その拍子に足の震えが止まった。
なぜかこの時、とても安心をした。


「ガキはどっかすっこんでろ」

そういうと赤い騎士は俺を投げ飛ばした。
何が何だか分からないが、俺は死にたくない一心で逃げた。
決して振り返らずに。
騎士が見えないくらい。
遠くへ遠くへ。
ただただひたすら逃げた。

ここまで逃げれば大丈夫だろう。そう思い振り返ると、遠くに3筋の光と1筋の闇が見えた。
何なんだよあれは。
すると大きな爆発とともに光が1つまた1つと消え、やがて最後の1つも消えた。
…加藤…そうだ加藤は!?

急いで戻った。
逃げるときは何も思わなかったが、止まっている人をよけて歩くのはとても難しかった。
「はぁはぁはぁ。」
ファーストフード店、楽器屋はどこにもなくなっていた。
あるのは髭面と、きれいな女の人、誰かの体の一部、そしてネックが折れたギターだけだった。
もう、どうしていいかなど全く分からなかった。
「おい!お前何勝手なことやってるんだよ!」
髭面が思いっきり殴りかかってきた。
「勝手なことってただ遊びに来ただけだよ。」
俺は泣き崩れながら言った。
「お前みたいなガキが何でゼロなんだよ…お前がいれば何とかなるんじゃねえのかよ!?俺らはこれから何回戦えばいいんだよ!なぁ教えてくれよ…俺らは…」
髭面も俺の胸倉をつかんだまま膝をついて泣き崩れた。

するときれいな女の人が髭面をやさしく抱きしめた。。
「ほらセキト行くわよ。終わったのよ。大丈夫だから。あなたも、ハチの言う事を守りなさい!」
俺にはとても厳しい目で言った。
「おし…帰るぞ。」
さっきまで子供のように泣いていた髭面は立ち上がり俺をにらみつけた。
「お前、いいか、ちょっと家来い。」
「でも友達がこの中に!!」
「大丈夫だからこい。」
すると髭面目を閉じ力強く眼を見開いた。
ハチがあの男性の記憶を書き換えるときと同じような眼だった。ただ色は赤かった。
そして吸い込まれそうな闇とともにさっきの赤い騎士が目の前にあらわれて、この止まった世界を駆け抜けた。



「ちょいとコンビによるぞ。」
そう言うと例のおんぼろアパートの近所のコンビニで大量に酒をかごに詰めだした。
「お、お金払わないの!?」
「バカ野郎誰が見てるって言うんだよ。こいつらは今OFFの状態だ。」
「OFF ってなんだよ。とにかく犯罪だよ。」
「まぁいい。あとで教えてやる。お前も好きなの選べ。」
俺も喉がカラカラだった。
いけないこととは思ったが、謝りながらコーラを頂戴した。
そしてコンビニのかごのままアパートに帰った。
ベッドではハチがすやすや眠っていた。
プシュッ
「プハー!仕事の後のビールはうまい!」
仕事って。この人は一体何をしているんだ。
「お前何も知らないんだろ。ハチから聞いたよ。お前にこの世界のことを教えてやる。ほんとはこっちが聞きたいぐらいなんだがな。なんか聞きたいことはあるか!?」
「聞きたいことはって言われても、そんなの多すぎて分かんないよ。」
「いいから何でも聞け、俺で答えられる範囲なら答えてやる。」
「えっと…じゃあ…この文字は何なの!?何で俺には文字がないの?どうやって変身したの!?なんでみんな止まっちゃったの!?なんで俺らは動け…」
「はいはいはい分かった分かった!分かったから!っせえガキだ!」
聞けって言ったのはそっちじゃないか。
大人は自分勝手だ。
「フタバ。紙とペンかせ。」
するときれいな女の人は髭面に言われたものを渡した。
「いいか、お前が見ている文字はな…んーまぁ簡単に言うとプログラムだ。」
「プログラムってパソコンとかの?」
「そうだ。このプログラムは、人間の構成する原子だったり、生まれてから死ぬまでの行動とか、思考とか…まぁいろいろ書いてある。」
「ってことは人間はロボットなの?」
「いぃや人間は人間だ。」
「プログラムって言ったのがいけねえのか…なんだぁあれだ。運命。そう運命!人間は生まれながらにして運命が決まってる。この地球にある全てがそうだ」
「じゃあ何で俺には何も書いてないんだよ!?」
「だからお前を探してたんじゃねぇか。なんで俺たちは文字が見えるかわかるか?俺たちには共通点がある。」

その時ハチとの会話を思い出した。
「遺伝子に欠陥がある…から?」
髭面はご機嫌で言った。
「御名答!だから俺たちは文字が見える。まぁ一種のバグってやつさ。」
だが一瞬でご機嫌は斜めになった。
「見えるだけならいいんだよ。だが俺らはそのプログラムを書き換えられちまう。」
「書き換えられると何がいけないの?」
「バグならまだいいんだよ、けど俺らはいわばウィルスだ。勝手に書き換えて違うものを造り出しちまう。創造主は世界にただ一人なんだよ。」
話しが飛躍しすぎてよく理解できなかった。
「あの時の銀色の騎士は何なの?」
「あれはワクチンだ。あいつらは俺らを見つけて破壊する。」
「けど金色の騎士は俺を守ったよ。」
「そりゃお前が必要だからさ。」
「必要?なんで?」
「まぁ詳しいことはハチに聞け。」
そういうと気持ちよさそうに寝てるハチを指差した。
「こいつは創造主とほぼ同じ力を持っている。そしてすべてを知っている。話してくれないがな…奴らはハチ公を殺すためにワクチンを作っている。」
「奴らって?」
「創造主さ。」
よく分からなかった。けど深く聞いても理解できるような単純な話ではなさそうだった。
「あっそうだ!なんで髭面は変身できたの?」
「だーれが髭面だ!てめぇのプログラムぐらい変化させられて当然だろ!」
「見てろ。」
そういうと髭面は人差し指を出して目を閉じ、また開いた。
「ほら出ただろ」
すると彼の指から火が出た。
「俺は酸素に関するプログラムを書きかえられる。まあ簡単なところだと酸化結合プログラムとかだ」
「はい?え、ちょっと待って!文字が書いてあるのは人間とか動物とか物とかだけじゃないの!?」
「バカ野郎!さっき言っただろこの世界のすべてがプログラムだって。」
「そんなこと言われたって、じゃあ今吸っているこの空気もそうなの?」
「だからそうだって言ってるだろ!ま、せいぜい俺みたいなやつはぜいぜい操れても1原子だけさ。」
すると髭面は例の動作を始めた。

「はぁはぁはぁ…」
なぜか急に息苦しくなった。
「な、分かったろ?今お前の周りの酸素をギリギリまで薄くした。」
ニタニタ笑いながら髭面は赤い眼を続けた。
「くる…じ…」
意識が飛んだ――――――――――――。
目が覚めるとハチが上から見ていた。
「うわぁ!」
「シロっちなんでここで寝てるの?」
俺は今日一日のことを思い出した。
加藤と湯吞沢に行って…
「そうだ加藤は!?加藤が死んじゃったんだ!」
すると彼女は笑いながら言った
「大丈夫だよ。もうメンテナンス終わったし。へへ。」
「大丈夫なわけあるもんか!だって町が吹き飛んだんだぞ!」
すると彼女はテレビをつけた。
「今日のヘッドライトです。本日人気アイドル歌手の柳田良子が婚姻届を…」
「ねっ。何も起きてないでしょ?」
たしかにそのニュースは今日一日何事もなかったかのように伝えていた。
台所にいたきれいなお姉さんはこう俺に教えてくれた。
「メンテナンスする前にバックアップとっておいてあるから大丈夫よ。」
バックアップってパソコンじゃないんだから…
「次のニュースです、町岡市にあるコンビニ全店が現金、たばこ、酒がなにものかによってぬすまれました。警察では犯人の目撃情報を捜索していますが…」
「ねぇ、これってさっきの…ってあれ?髭面は?」
「ヒゲヅラ?あぁ、赤にぃならお仕事に行った。もうすぐ帰ってくるんじゃない?」
お仕事…。
どうもあの人のまともな仕事をしているようには思えない。
このニュースたぶんあの髭面の仕業だ。
「夕飯食べていくでしょう?」
きれいなお姉さんはやさしく声をかけてくれた。
テーブルにはこの家と不釣り合いな料理が並んだ
「いっただきまーす!」
ハチは元気よく食べだした。
「あっ、あのぉ、いいんですか?ホントに僕も…」
「あら遠慮することないわよ。あと、あたしのことは双葉って呼んで。」
「ところでなんで、ハチはここにいるの?」
「ほふ?はんえっふぇほほがあはひほいへははら。」
「こらハチ!口にものを入れながら話すのやめなさい。」
ハチは思いっきり飲み込むと
「ここあたしん家だよ。」
そして双葉さんも
「そうよ三人で住んでるの。」
ん、どういことだ?
俺の頭の中で最悪な家系図が浮かんだ。
「ってことは双葉さんはハチのお母さん!?」
「んーまぁそんなところかしら。ふふ。」
「ってことはあの口の悪い汚い髭面がハチのおやじ!?」
「んーん、あれはお兄ちゃん。あ、赤にぃおかえりー。」
…お兄ちゃん。
なんであんな奴がよりによってお兄ちゃんなんだ…
するとおれのからだは宙に浮いた。
「だれが口の悪い汚い髭面だってぇ!?」
やばいまた殴られる。
髭面はこぶしを作り大きく振りかぶった。
思わず目をつぶってしまった。
すると額に指をあてた。
あれ?と思い目をあけると…髭面の眼は赤かった。
「あっちいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
「あ、お前に渡すもんがあるんだ。」
「お前あのカレンダー見えるか?15日は何曜日だ?」
生まれたときから視力のあまり良くない俺は答えられなかった。
「やっぱりな。フタバの言ったとおりだ。じゃあこれを付けてみろ。」
というと白い石が入ったバングルを渡した。
すると急に世界が透き通って見えるようになった。
「なんで?なにこれ?」
「これはなぁ、えーっと…ま、なんかのお守りだ。これをつけると、文字が見えなくなる。これで邪魔な気体プログラムも消える。」
「気体プログラム…?っていうか、なんかのお守りって適当だな。」
「しょうがねぇじゃねぇか忘れちまったもんは!」
そうしゃべる髭面や、後ろで笑うハチ達にはもう文字は見えなくなっていた。


―――
「今日は勝てると思ったんだけどなぁ。」
「へへーン!あたしの方が強いんだよ。いい加減ザコじゃなくて本気出してかかってきなよ。