第1 DのBに対する請求
1 原状回復請求権(545条1項本文)に基づく代金返還請求
本件売買契約の目的物たる甲は、Cの所有物である。よって、同契約は他人物売買(560条)である。そして、Cは、Dに対し甲を返還するよう求めている。よって、Bは甲「を取得して買主に移転することができない」(561条前段)。したがって、Dは同契約を解除できる(同条前段)。以上より、同請求は認められる。
2 増加代金分の費用支払請求
(1) Dは、甲がCの所有物であることを知っていた。よって、561条後段に基づき同請求をすることはできない。
(2) 履行不能による損害賠償請求権(415条、416条1項)に基づく請求
ア Bは、甲をCから取得してDに移転する債務を負う(560条)。同債務は、上述のように、社会通念上履行不能(415条)となっている。そして、Bは、Cに無断で甲をDに売却している。よって、Bに帰責性がある。
イ Dは印刷業者であり、甲を取得できなければ代替として甲の同等品で稼動可能な乙を540万円で購入することは通常である。よって、増加代金分は通常損害(416条1項)に当たる。
ウ したがって、同請求は認められる。
3 有益費償還請求権(196条2項)に基づく価値増加分の支払請求
甲の修理費用30万円は、故障した甲を稼動できる状態にし、甲の価値を50万円増加させた。よって、同費用は、有益費に当たる。しかし、Bは「回復者」(同項)に当たらない。よって、同請求は認められない。
4 Bの主張
Bは、甲の所有者ではなく、甲の使用利益相当額25万円の損失がない。よって、BがDに対し同額の不当利得返還請求権(703条)を有するとのBの主張は認められない。
第2 DのCに対する請求
1 請求の当否
Cは、「回復者」(196条2項)に当たる。よって、DはCの選択に従い、甲の修理費用30万円又は甲の増加額50万円の有益費償還請求ができる(同項)。
2 Cの主張の当否
甲の所有者Cには甲の使用利益相当額25万円の損失がある。Dの同25万円の利得には、Cとの関係で法律上の原因を欠く。よって、CはDに対し25万円の不当利得返還請求権を有する。同請求権を自働債権として、上記有益費償還請求権と対当額で相殺する旨の意思表示をし、対当額で上記有益費償還請求権が消滅(505条1項)したとのCの主張が認められる。
(969字)
※第1.3:「価値増加分」という問題文の文言をヒントに、196条2項を思いついて欲しいところである(内藤講師:「問題と解説」P.37)。
※第1.4:買主の他人物売主に対する使用利益の原状回復義務を認めた最判S51.2.13を意識した論述までは必要ないであろう(内藤講師:「問題と解説」P.37)。