(続)過去問ひとり答練 旧司H19刑法第2問 | ついたてのブログ

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弁護士一年目です。ついたての陰から近況をつづります。

第1 甲の罪責

1 Xにうそを言った行為に、①Xに対する偽計業務妨害罪(233条後段)が成立しないか。

(1) 「業務」には、強制力を行使する権力的公務以外の公務も含まれる。

本件では、妨害されようとした公務は、警察官が交番で業務日誌を書く事務である。同事務は、非権力的公務であり、強制力を行使する権力的公務ではないので、「業務」に当たる。

(2) 上記行為は、Xを偽もうするものであり、「偽計」に当たる。

(3) Xは事故現場に急行するため交番から出て行っており、上記事務の遂行に支障が生じたので、「妨害した」に当たる。

(4)                        よって、①の罪が成立する。

2 Xの制帽と業務日誌を持ち出した行為について

(1)                        ②Xに対する窃盗罪(235条)の成否

ア 同制帽と業務日誌は、Xが占有するXの所有物であり、「他人の財物」に当たる。

イ 上記行為は、同制帽と業務日誌をXの意思に反してその占有を侵害し自己の占有に移転させる行為であり、「窃取」に当たる。

ウ 甲に故意がある。

エ ②の罪の成立に不法領得の意思が必要であり、その内容は、(ⅰ)権利者を排除して他人の物を自己の所有物と同様に(ⅱ)その経済的用法に従いこれを利用し又は処分する意思である。

本件では、甲には返還意思があった。しかし、Xにとって同制帽と業務日誌は常時使用する物であり、1日間利用できなくすることは、相当程度利用可能性を侵害する。よって、(ⅰ)の意思がある。しかし、甲はXを困らせるために持ち出したにすぎない。Xが困ることによる甲の満足は、同制帽と業務日誌から直接的に得られる効用ではないから、(ⅱ)の意思がない。よって、②の罪は成立しない。

(2)                        ③公用文書毀棄罪(258条)の成否

同業務日誌は、公務所である交番において使用中の文書であるから、「公務所の用に供する文書」に当たる。上記行為は同業務日誌の効用を害する行為であり、「毀棄」に当たる。よって、③の罪が成立する。

(3)                        ④Xに対する器物損壊罪(261条)の成否

同制帽は「他人の物」に当たる。上記行為は、同制帽の効用を害する行為であり、「損壊」に当たる。よって、④の罪が成立する。

3 同制帽を後に売るために自宅に保管した行為に、⑤Xに対する遺失物等横領罪(254条)が成立しないか。

(1) 同制帽は、占有者であるXの意思に基づかずに占有を離れた物で、委託信任関係に基づかないで甲の占有に帰属した物であるから、「占有を離れた他人の物」に当たる。

(2)                        「横領」

同制帽を後に売る意思は、同制帽につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思に当たる。上記行為は、同意思が発現する行為であり、「横領」に当たる。

(4)                        よって、⑤の罪が成立する。

4 以上より、甲には、①③④⑤の罪が成立する。そして、④と⑤は、同一被害者の制帽所有権を侵害する罪であり、時間的・場所的に近接して行われたので、包括一罪となる。また、③と④は観念的競合(54条1項前段)となる。そして、①と③④とは併合罪(45条前段)となる。

第2 乙の罪責

1 甲に対し、「警察官の制帽なら高く売れるよ」と言った行為は、⑤の罪の実行を甲に決意させる行為であり、教唆行為に当たる。同行為により、甲は⑤の罪の実行を決意して実行している。よって、⑥Xに対する遺失物等横領罪の教唆犯(61条1項、254条)が成立する。

2 Xに対し、「この業務日誌・・・返してやる」といった行為に、⑦Xに対する恐喝未遂罪(250条、249条1項)が成立しないか。

(1) 「恐喝」とは、相手方の反抗を抑圧するに至らない程度の暴行又は脅迫をいう。

本件では、上記行為は、生命・身体に対する危険性がないので、Xの反抗を抑圧する程度に至らない。そして、マスコミに業務日誌紛失という不祥事が知られて報道されると、Xは不利益処分を受けるおそれがある。よって、上記行為は、Xを畏怖させるに足りる害悪の告知といえる。したがって、上記行為は「恐喝」に当たる。

(2)                   Xは乙の要求に応じておらず、畏怖していない。

(3)                   よって、⑦の罪が成立する。

3 以上より、乙には⑥と⑦の罪が成立し、併合罪となる。

(1686字)

 

※第1.2(2)(3):利用所分意思がないという理由で窃盗罪が否定された場合、次に、毀棄罪成否を必ず検討することが重要である(「受験新報」2017年2月号P.117)。

※第1.4:制帽について器物損壊罪が成立しても、遺失物等横領罪が成立するか否かの検討は省略できない。両罪の構成要件該当性が否定できない以上、両罪の成立を認めたうえで罪数処理をしなければならない(「受験新報」2017年2月号P.117)。

※第2:盗品等運搬罪も検討する場合:「同業務日誌を交番まで持っていった行為に、Xに対する盗品等運搬罪(256条2項)が成立しないか。

同業務日誌は、器物損壊罪により取得した物である。同罪は領得罪ではない。よって、同業務日誌は「財産に対する罪に当たる行為によって領得された物」に当たらない。したがって、Xに対する盗品等運搬罪は成立しない。」