第1 設問1
1 本件神社は宗教法人であり、宗教的行事等を行うことを主たる目的としている団体であるから、「宗教上の組織若しくは団体」(89条前段)に当たる。そして、本件工事により本件参道の通行の便がよくなる。よって、本件支出は、同団体の便益のための公金の「支出」(同条)に当たる。
2 政教分離原則は、国家と宗教を分離することにより信教の自由(20条1項前段、2項)の保障を確実にするための制度である。もっとも、福祉国家(25条以下)の下では、厳格な分離は困難である。そこで、同原則の趣旨は、国家の非宗教性ではなく、国家の宗教的中立性にある。よって、国家と宗教とのかかわり合いが相当とされる限度を超えた場合、具体的には、行為の目的が宗教的意義をもち、その効果が宗教に対する援助又は圧迫になる場合にのみ89条前段に違反する。
本件では、本件参道を2倍に拡幅して舗装することにより、氏子が本件神社に参拝することが長期にわたり容易となる。工事費用として100万円を支出したのだから、立派な参道となったと考えられ、便益の程度も大きい。一般人は、本件神社が特別な存在であるから本件支出がされたと意識する。A市の意識も、同様といえる。よって、本件支出は、上記場合に当たり、89条前段に違反する。
第2 設問2
1 A市側の反論
A市は、市営汚水処理場という迷惑施設の建設について地元住民の理解を得るという世俗的目的で本件支出を行っている。また、本件社務所は、平素から地区住民の集会場としても使用されていたのであり、本件参道を拡幅することにより、すべての地区住民にとって便益となる。そうすると、本件支出の効果は、すべての地区住民の便益にあり、本件神社の宗教的行為の助長にはない。
2 私見
(1) 原告が主張するように、本件支出は、「宗教上の組織若しくは団体」の便益のための公金の「支出」に当たる。
(2) 原告が主張するように、上記場合にのみ89条前段に違反する。
本件では、原告が主張するように、本件参道拡幅が本件神社の便益となる程度が大きい。
A市側は、本件支出の目的が世俗的であると反論する。しかし、地元住民の理解を得るには、地元住民のための集会所を建設する等、より世俗的な選択肢がある。
また、A市側は、本件参道の拡幅が、すべての地区住民の便益となると反論する。しかし、同社務所は、本件神社の事務所として用いられるのが本来の用法であり、同集会場としての用法は付随的なものである。よって、すべての地区住民への便益は付随的な便益にすぎない。特に、同処理場建設により地元住民全体が不利益を被るのに対し、本件参道の拡幅により利益を受けるのは主として氏子である。よって、氏子か否かによって享受する利益の程度が異なる。したがって、本件支出は、氏子及び氏子が信仰する本件神社を優遇しているという印象を一般人に与える。以上より、本件支出は上記場合に当たり、89条前段に違反する。
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