第1 1について
1 Aの甲社に対する損害賠償責任の追及(423条1項、847条1項3項)
(1) 3000万円の交付により甲社が資金繰りに窮している。よって、同交付は、甲社の規模に比して多額の金額の交付といえる。したがって、同交付は「重要な財産の処分」(362条4項1号)に当たる。以上より、Aは同交付に際し取締役会の承認を得なければならない(同項柱書)。Aは同交付を独断で行っており、同承認を得ていない。よって、Aに任務懈怠が認められる。
(2) Fは行方不明となっており、同3000万円の回収は困難となっている。よって、甲社に3000万円の損害が生じた。
(3) 取締役会の承認を得ていれば、手付金額を減らす等の適切な措置を採ることにより、同損害を回避できたといえる。よって、因果関係が認められる。
(4) したがって、Dは同責任を追及することができる。
2 Aの第三者に対する損害賠償責任(429条1項)の追及
Dは株主である。そして、同交付により上述のように3000万円の損害が甲社に生じた結果、株価が下落するという間接損害をDは被る。間接損害を被った株主は「第三者」に当たらない。なぜなら、役員等が二重の責任を負わされることを防ぐためである。よって、Dは同責任を追及することができない。
3 BCの甲社に対する損害賠償責任の追及
(1) 取締役であるBCは、Aの業務執行を監視する義務を負う(362条2項2号)。BCは、Aが取締役会を1回も開催せずに独断で経営を行っていることを放置しており、同義務に違反している。よって、BCに任務懈怠が認められる。
(2) 上述のように甲社に3000万円の損害が生じた。
(3) BCは以前からAに雇われた修理工であり、雇主であるAに対する影響力は乏しいといえる。また、BCは、取締役になったとはいえ、甲社は法人成りしたにすぎず、実態は以前と変わらず、Aの個人企業といえる。よって、BCが同義務を果たしたとしても、同交付を回避できたとはいえず、因果関係が認められない。
(4) したがって、Dは同責任を追及することができない。
4 Eの甲社に対する損害賠償責任の追及
(1) Aは独断で経営を行っており、362条4項という「法令・・・に違反する事実」(382条)がある。よって、Eは取締役会に報告する義務を負う(同条)。Eは同義務を果たしておらず、任務懈怠がある。
(2) 上述のように甲社に3000万円の損害が生じた。
(3) たしかに、甲社では取締役会が1回も開催されていない。しかし、Eは、取締役会を招集したうえで(383条2項3項)報告することができた。もっとも、上述のように、BCによる監視は実効性を欠く。よって、Eが同報告義務を果たしたとしても同損害を回避できなかったといえ、因果関係が認められない。
(4) したがって、Dは同責任を追及することができない。
第2 2について
1 DのAに対する同交付の差止め請求(360条3項1項)
(1) 上述のように、Aは経営を独断で行っていた。よって、Aは本件時点において、362条4項という「法令に違反する行為を・・・するおそれがある」(360条1項)。
(2) Aが3000万円を素性の知れないFに交付すれば、3000万円の回収困難により資金繰りに窮するほど財務基盤の弱い甲社は倒産するおそれがある。よって、甲社に「回復することができない損害」(同条3項)が生じるおそれがある。
(3) したがって、Dは同請求をすることができた。
2 EのAに対する同交付の差止め請求(385条1項)
(1) 上述のように、「法令・・・に違反する行為を」(同項)するおそれがある。
(2) 上述のように、甲社は「著しい損害が生ずるおそれがある」(同項)。
(3) よって、Eは同請求をすることができた。
(1544字)