※改訂しました(2017/09/02)。
第1 設問1
1 「強制の処分」(197条1項但書)とは、強制処分として法定された逮捕、捜索、差押えのように、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等の重要な権利・利益に制約を加えるものをいう。
本件では、ビデオ撮影・録画の対象は、ST及びU駐車場出入口、同駐車場内のC社製高級外車、甲方玄関ドア前の公道上である。そして、同駐車場出入口及びC社製高級外車は公道から見えるし、甲方玄関ドア前は公道である。そうすると、同撮影・録画は、私的秘密領域におけるプライバシー権を制約するものではなく、重要な権利・利益に制約を加えるものではないので「強制の処分」に当たらない。
2(1) 任意捜査であっても、捜査比例の原則(197条1項本文)より、必要性を考慮したうえ、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容される。
(2) 本件では、B町内のP、Q及びR駐車場において、2週間という短期間の間に連続して深夜にC社製高級外車を狙った不審火が発生している。そして、同じB町内のS、T及びU駐車場にもC社製高級外車が駐車されている。そうすると、S、T及びU駐車場において深夜同様の不審火が発生する相当程度の蓋然性がある。
上述のように、出火場所及び時期が近接し、出火元が特定していることに加えて、犯行態様は、3件とも、ドアに鋭利な金属様の物で付けたと認められる長さ数十cmの複数のひっかき傷があった上、火元の前部バンパー付近からベンジンの成分が検出されており、特徴的なものである。よって、3件の犯行は同一犯人による可能性が高い。そして、Q駐車場に駐車区画を賃借していない甲が、出火前日の深夜に、同駐車場内をしばらく歩き回った上で立ち去るところが目撃されていること、R駐車場から200m離れた路上で、甲とよく似た人物が、出火直後に、容量500ml程度の瓶を持ち、R駐車場方向からその反対方向に向かって走り去ったのを目撃されていること、甲がアルバイトしているクリーニング店で、出火1か月以内に、ベンジン500ml入り瓶数本を紛失していること、及び、甲が、友人に対し、R駐車場にC社製の車があることを出火前に確認していることが各判明した。これらの事実は、犯人が甲であることを推認させる事実であり、甲に合理的な嫌疑がある。
また、ST及びU駐車場並びに甲方では、犯人に気付かれることなく付近に警察官を張り込ませることは極めて困難であった。そうすると、各駐車場及び甲方の人の出入りをビデオカメラで撮影・録画する必要性が認められる。
他方、同撮影・録画により、駐車場を利用している事実を知られない利益、C社製高級外車を所有している事実を知られない利益及びカメラが作動する深夜に家を出る時刻・帰る時刻・家を訪ねる友人の有無を知られないという甲の利益が制約される。しかし、各事実の秘匿性が低いので、各利益の要保護性は低い。また、録画した映像の中に捜査に必要なものがなければ上書き録画をすることで不要な映像は消去していることから、各利益の制約は一時的なものにすぎない。よって、利益制約の程度は低い。そうすると、同撮影・録画の必要性が、利益制約の程度を上回っており、同撮影・録画は相当である。よって、同撮影・録画は、任意捜査(197条1項本文)として適法である。
第2 設問2
1 甲の被告事件は建造物等以外放火罪であり、前科たる器物損壊罪とは罪名が異なる。しかし、同被告事件と同前科の具体的行為をみると、公共の危険の発生の有無が異なるだけである。そこで、同前科は、実質的には同種前科といえる。
同種前科事実による犯人性の推認は、①被告人に対して同種の犯罪を行う犯罪傾向があるという実証的根拠に乏しい人格的評価を加え、②同評価をもとに犯人が被告人であるという合理性に乏しい推認を行うものであり、事実認定を誤らせるおそれがある。そこで、同種前科事実を犯人性の間接事実として用いることは原則として許されず、例外的に、実証的根拠に乏しい人格的評価によって誤った事実認定に至るおそれがないと認められるときに許される。
2 本件では、同前科事実は、駐車所において、C社製高級外車のドアに複数のひっかき傷を付けたうえ、同車両の前部バンパー付近にベンジンを散布して火をつけるというものである。同犯行態様は、熟練した特定の者だけができるようなものではなく、3年前の同前科に係る犯行態様を他の者が模倣した可能性がある。よって、同前科事実は顕著な特徴を有するとまではない。したがって、上記例外のときに当たらない。以上より、事例中の8記載の事実を、同被告事件の犯人は甲であるとの認定に用いることは許されない。
(1911字)
※第1.2(2):各ビデオカメラ毎の必要性を書けるとベター。Ex.①駐車場入り口のカメラは、駐車場に入ってくる人物の全体像を映すことができる。車両近くのカメラは、必ずしも犯行を全部映せるかどうか分からない。犯人がどういった格好をしていたかも特定できない可能性がある。駐車場に入ってから火が出るまでのトータルを見る必要性があるので、同2台のカメラを設置する必要性がある。②犯罪が行われる際には、マスク等で容ぼうを隠す場合がある。甲方に出入りするときに、放火した人物と服装が一緒であれば、距離や時間も含めて考えて、放火犯と甲が同一人物であると推認できる。そこで、甲方前にもビデオカメラを設置しておく必要性がある(「LIVE本」P.60~61)。
※第2.2:①同種前科事実それ自体は顕著な特徴とはいえない場合でも、同種前科事実による犯人性の推認力を高める事情が別個にある場合には、同種前科事実を間接事実として犯人性を認定することが許され得る(「古江」2版P.265)。
本件でも、同種前科事実以外の事実(事例7記載の事実:3月28日未明に、S駐車場の2台のビデオカメラで撮影されていた人物と甲方前カメラで撮影されていた人物が、着用していた帽子等から同一人物と考え得ること)から立証を尽くした後に、「駄目押し的に」同種前科事実を使用する場合は、許される(「受験新報」2007年9月号P.39)。
②設問1(第1.2)の認定(犯行態様が特徴的で、同一犯人による犯行の可能性が高いと認定)との整合性に注意する(私見)。