※改訂しました(2017/09/12)。
第1 設問1
1 (1)について
545条1項但書の趣旨は、解除の遡及効を制限して第三者を保護する点にある。そこで、「第三者」(同但書)とは、解除された契約から生じた法律関係を基礎として解除までに新たな権利を取得した者をいう。そして、解除原因が存在しても必ずしも解除されるとは限らないので、「第三者」は解除原因について善意であることを要しない。もっとも、債務不履行に遭った解除権者に帰責性はないから、「第三者」は対抗要件を具備することを要する。
本件では、Y1は、解除されたXA間売買契約から生じたAの甲所有権を基礎として解除までにAから甲賃借権という新たな権利を取得した者である。そして、Y1は、賃貸借契約締結の時点でXA間の売買の代金のうち400万円が未払いであることを認識しており、解除原因の存在につき悪意である。また、Y1は、Aから甲の引渡しを受けており、賃借権につき対抗要件を具備している(借地借家法31条1項)。よって、Y1は「第三者」に当たる。したがって、反論①は認められる。
2 (2)について
(1) 反論②について
上記解除により、甲の所有権がAからXに復帰するという物権変動を観念しうる。賃借人Y1が賃借権の対抗要件を具備している本件では、同物権変動に伴い、賃貸人たる地位がAからXに移転すると解するのが通常の当事者の意思に合致する。同地位の移転には、使用収益させる債務の免責的債務引受を伴うが、同債務は非個性的債務であるから、Y1の同意は不要である。
Xが賃貸人たる地位をY1に主張するためには、対抗要件の具備を要する。なぜなら、二重払いの危険からY1を保護する必要があるからである。本件では、甲のA名義の所有権移転登記について、売買契約の解除を原因として抹消登記がされており、Xは対抗要件を具備した。よって、XはY1に対し、賃貸人たる地位を主張してAY1間の賃貸借契約を解除できる。したがって、反論②は認められない。
(2) 反論③について
Y1は、Xに対し、賃貸借契約上の義務として、契約が終了すれば目的物を返還する義務を負う。Y1が甲の占有を喪失したことは、同義務の消滅原因とはならない。よって、反論③は認められない。
3 (3)について
(1)Y1は、Aとの間で、賃料月額8万円、権利金16万円、敷金20万円という約定で賃貸借契約を締結しており、この約定と全く同じ約定でY2に転貸している。そうすると、Y1は、転貸によって差額を利得しておらず、Y1に、利得を得るという目的は認められない。
(2)Aは、Y1に対し、Y1の扶養家族(配偶者と小学生の子一人)を呼び寄せて同居する可能性があることを了解している。Y2の同居者は配偶者と子二人(子はいずれも小学生)であり、小学生の子一人増えただけで甲の使用収益にさほどの違いはない。そうすると、Y2による使用収益は、A及びAを承継したXの想定した範囲内にある。よって、使用収益形態の点でもXに不利益は小さい。
第2 設問2
1 Bは、Cに対して、不当利得返還請求権(703条)に基づき、90万円の支払請求ができる。
2 理由
(1)相続財産の範囲は相続開始時に被相続人に帰属していた財産である(896条本文)。
本件では、90万円の賃料債権は、被相続人X死亡後9か月間に発生したものであり、X死亡時にXに帰属していた債権ではない。よって、90万円は相続財産の範囲に含まれない。
(2)遺産分割の効力は、相続開始時に遡る(909条本文)。
本件では、BC間の遺産分割により、相続開始時に遡って甲をBが単独で所有することになる。そして、賃料は甲の法定果実であり、Bが90万円の賃料を収受する権利を有する(89条2項)。よって、Cに90万円を保持する「法律上の原因」はない。
3 設問見解に対する評価
相続財産の範囲外である90万円の債権を共同相続人が分割承継する根拠がなく、不当である。
(1597字)