※改訂しました(2017/11/16)。
第1 設問1
1 前者の主張は有権代理(99条1項)の主張である。
(1) 事実①は、AのCに対する意思表示ではないから、先立つ代理権授与の要件(同項)に当たる事実ではない。
「後はCとの間でよろしく進めてほしい」という発言からすると、CがAの代理人として融資額につき更にFと交渉を行うことをAは容認しているといえる。そうすると、同発言は、AがCに対し本件消費貸借契約締結に先立ち融資額に限度のない消費貸借契約を締結する代理権を授与したという主要事実を推認させる。
(2) 事実②は有権代理の法律要件に当たる事実ではない。同事実の存在を推認させる事実でもない。よって、事実②は法律上の意義を有しない。
2 後者の主張は権限ゆ越の表見代理(110条)の主張である。
(1) 先立つ基本代理権授与が同主張の法律要件となるところ(同条)、上述したように、事実①は同要件に当たる事実ではない。
AはFに電話をしてCには交渉の経過を話してあると告げている。AF間では既にFがAに1500万円を融資するという交渉がほぼまとまっている。AのFに対する同発言は、同交渉の結果を受けた発言である。よって、事実①は、AがCに借入れの代理権でその金額の限度を1500万円とするもの(基本代理権)を授与したという主要事実を推認させる。
(2)事実②
事前の交渉段階での金額に500万円もの上乗せを契約締結当日にすることは借主である本人Aにとって不利益が大きい。そうすると、FにはAの意思を確認すべき義務がある。FがAの携帯電話に電話をかけAの意思を確認しようとしたことは、Fが確認義務を尽くしたことを示す。よって、事実②は、Aに正当理由(110条)があることの評価根拠事実である。
第2 設問2
1 (1)について
留意すべき事項として、抵当権実行前の損害賠償請求の可否が挙げられる。
抵当権は価値権である。よって、抵当権侵害による「損害」(709条)は、目的物の換価による被担保債権の満足が得られなくなった額である。抵当権実行前には、甲乙不動産がいくらで競落されるか分からないから、抵当権侵害による「損害」を算定できないとの反論が想定される。
しかし、抵当権実行前でも時価を基準とすれば目的物の価額を算定できるので、損害の算定が可能である。よって、抵当権実行前でも弁済期後であれば損害賠償請求できる。
本件では、丙建物が取り壊されたのは抵当権実行前の平成19年8月19日であるが、履行期である平成20年3月15日到来後であれば「損害」を算定でき、損害賠償請求できる。
2 (2)について
(1) Eの反論の骨子
Eは、丙建物の所有権を所有者Aから贈与を受けたことにより取得し、「第三者」(177条)に当たる。そうすると、抵当権設定登記を丙建物について具備していないFは、抵当権をEに対抗できない(同条)。よって、Fは抵当権という「権利」の「侵害」(709条)をEに主張できない。
(2) Fの再反論
Eは背信的悪意者に当たり、「第三者」に当たらない。よって、Fは丙建物の抵当権をEに登記なくして主張できる。
(3) 検討
「第三者」とは、登記欠缺を主張する正当な利益を有する第三者をいう。そして、登記欠缺を主張することが信義則に反すると認められる背信的悪意者は、自由競争の枠外であり、上記正当な利益を有さず、「第三者」に当たらない。
本件では、Eは、丙建物にFのための抵当権設定登記がされていない事情を認識しており、Fが丙建物に抵当権を取得していることにつき悪意である。
Eは、丙建物を取り壊して自分の住居を建築するという利己的な動機で無償で丙建物を取得している。他方、Fは、2000万円全額を既に貸し付けており、貸付金回収という保護に値する利益を有する。丙建物に抵当権設定登記を具備していないのは、A側の事情によるトラブルが原因であり、Fの帰責性は小さい。よって、EがFに丙建物の抵当権設定登記欠缺を主張することは信義則に反する。
したがって、Eは背信的悪意者に当たり、Fの再反論が妥当し、Eの反論は不当である。
第3 設問5
1 Aの死亡により、Aの子であるCは、AのHに対する600万円の支払義務を承継する(896条本文、882条、887条1項)。
2 AがEを認知する旨の届出がなされておらず、認知の効力が生じていない(781条1項)。よって、EはAの子ではない。したがって、EはAの相続人に当たらないはずである。
しかし、Cを2、Eを1とする割合で遺産を分ける旨のAの遺言は、割合的包括遺贈(964条本文)に当たり、Eは相続人と同じ権利義務を有する(990条)。よって、CEは上記割合でAのHに対する600万円の支払義務を承継する。
3 同支払債務は可分債務であるから、上記割合により分割承継される(427条)。よって、Hに対し、Cは400万円、Eは200万円の支払義務を負う。
(1987字)