過去問ひとり答練 ~司試平成23年刑事系第1問 ※2017/11/22改訂 | ついたてのブログ

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弁護士一年目です。ついたての陰から近況をつづります。

改訂しました(2017/11/22)。

第1 甲の罪責

1 乙を蹴って怪我をさせて「傷害」を負わせた行為に、①乙に対する傷害罪(204条)が成立する。

2 丙を蹴って怪我をさせて「傷害」を負わせた行為に、②丙に対する傷害罪が成立する。

3 ハンドルを急激に左に切った行為に、③乙に対する殺人未遂罪(203条・199条)が成立しないか。

(1) 乙は車体につかまるという不安定な状態にある。時速50kmの高速で同行為をされると、遠心力が働く。200mにわたって同行為をされると、握力が尽きる。よって、乙は車から振り落とされる危険性が高い。そして、甲の車は車高が高く、高速で落ちる際に路面に頭という急所を強く打ちつけて死亡する危険性が高い。よって、上記行為は死亡結果発生の現実的危険性ある行為であり、実行行為に当たる。

(2) 乙の死亡結果は発生していない。

(3) 甲は、上記実行行為性を基礎づける事実を認識しており、死亡結果発生を認識していたといえるのに、乙を振り落としてしまおうと思っており、その認容もある。よって、甲に故意がある。

(4) したがって、上記行為は③の罪に当たる。

(5) 侵害行為が挑発行為に触発された一連一体の行為であり、侵害行為が挑発行為の程度を大きく超えるものでない場合には、反撃行為に出ることが正当とされる状況になく、正当防衛(36条1項)は成立しない。

本件では、ナイフを持って車にしがみつくという乙の侵害行為は、甲の上記傷害行為に触発されたものである。両行為の場所的間隔は300m以上あるが、その間乙が甲を追い続けていることを考慮すると、なお時間的場所的近接性が認められる。よって、両行為は一連一体の行為といえる。そして、乙の上記侵害行為はナイフという凶器を用いるものであるが、車の外から、少し開いた窓ガラスの上端部分から車内の甲に向けられたものであり、攻撃力は低い。他方、甲の上記傷害行為は、素手によるものであるが、加療1か月間を要する重い傷害を生じさせるものである。そうすると、乙の上記侵害行為は甲の上記傷害行為の程度を大きく超えるものとはいえない。よって、上記正当とされる状況にない。したがって、正当防衛は成立せず、違法性は阻却されず、③の罪が成立する。

4 以上より、甲には①②③の罪が成立し、①は③に吸収され、②と併合罪(45条前段)となる。

第2 乙の罪責

1 乙が甲の腰背部を蹴り、丙が甲の頭部を殴打した行為に、④甲に対する傷害罪の共同正犯(60条)が成立しないか。

(1) 丙が乙に対し「助けてくれ」と言ったのを聞いて乙は立ち上がって丙の救助に向かっている。乙と丙は二人で酒を飲む親しい間柄であり、仲間がやられていれば助けようと考えるのが通常である。よって、乙が丙の救助に向かった時点で乙丙間に甲に暴行を加える旨の共謀が認められる。そして、乙と丙は同共謀に基づき上記実行行為を行っている。よって、④の罪に当たる。

(2) 正当防衛の成否

ア 甲は丙の頭部を締め上げており、丙の身体が侵害されており、「急迫」に当たる。

イ 乙は、甲にやられた仕返しをしてやろうという攻撃意思とともに、丙を助けるという意思を有しており、急迫不正の侵害を認識しつつこれを避けようという心理状態が認められ、防衛の意思がある。

ウ 甲一人に対して乙丙二人でなされた上記行為はやりすぎとも思える。しかし、乙丙が単独で甲に対応しても一方的にやられている。よって、乙丙の上記行為は防衛行為として相当といえ、「やむを得ずにした」に当たる。

エ したがって、正当防衛が成立し、④の罪は成立しない。

2 甲にナイフで切りかかった行為に⑤甲に対する傷害罪が成立しないか。

(1) 乙は身体の枢要部とはいえない左手付近をめがけて切りかかっており、同行為に死亡結果発生の現実的危険性はなく、同行為は殺人行為に当たらない。同行為により、甲は左前腕部に切創を負い、「傷害」を負っている。よって、⑤の罪に当たる。

(2) 上述のように甲は乙丙に傷害行為という「不正の侵害」をしている。しかし、乙の上記行為時には、甲は全速力で走って逃げ出しており、甲が再び攻撃する蓋然性はない。よって、甲による侵害は終了しており、「急迫」に当たらす、正当防衛は成立せず、⑤の罪が成立する。

(3) もっとも、上述した正当防衛行為と一体とみることができる場合は量的過剰防衛(36条2項)が成立する。

本件では、たしかに、乙によるナイフ切り付け行為は上記正当防衛行為の直後に行われている。しかし、甲による侵害行為は上述したように終了している。また、乙は甲を痛めつけてやろうと思っており、専ら攻撃意思を有しており、防衛意思の連続性を欠く。よって、上記正当防衛行為と一体とみることはできず、量的過剰防衛は成立しない。

第3 丙の罪責

1 乙とともに甲に傷害を負わせた行為については上述のように犯罪は成立しない。

2 乙がナイフで甲に切りかかった行為に、丙に、⑥甲に対する傷害罪の共同正犯が成立しないか。

乙丙間には、上述のように、甲に対し暴行を加える旨の事前共謀が認められる。しかし、この事前共謀は正当防衛行為として暴行を加える旨の共謀である。甲による不正の侵害が終了した後に行われた乙の上記行為はこの事前共謀の範囲外である。よって、乙の上記行為はこの事前共謀に基づく実行行為とはいえない。また、丙は乙に対しナイフを使わないように叫んでおり、乙丙間に甲に対してナイフで切りつける旨の意思連絡は認められず、現場共謀は認められない。よって、⑥は成立しない。

(2240字)

 

※第1.2(5):自招防衛の論点において反撃行為に出ることが正当とされる状況にないと結論づける場合、以下の急迫性以下の要件を個別に検討する必要はない(「基本刑法Ⅰ」P.475)。

ア 乙はナイフを持って車にしがみつき車内の甲に向けてナイフを突き出すという、甲の身体に対する「不正の侵害」をしている(←乙が甲にナイフで切りかかる行為が「不正の侵害」なのではない∵問題文の1~3は、3つのかたまりで分けて考えなさいということ(「LIVE本」P.111))。もっとも、乙はその後ナイフを車内に落としており、同侵害が終了したとも思える。しかし、乙は、右手の拳で窓ガラスをたたきながら攻撃意思を示している。よって、同侵害は継続しており、「急迫」に当たる。

イ 甲は乙を振り落としてしまおうという攻撃意思を有している。しかし、同時に、乙から逃げようという意思も併有しており、急迫不正の侵害を認識しつつこれを避けようという心理状態が認められ、防衛の意思がある。

ウ 「やむを得ずにした」とは、防衛行為として相当性を有することをいう。

本件では、ナイフを落として乙の攻撃力は低下したのに対し、甲の上記行為は死亡結果発生の現実的危険性ある行為であり、同相当性を欠くとも思える。しかし、防衛手段としては、車を止めて車外で乙と対じすることが考えられるところ、甲は腹部と左手に傷害を負っており、顔面に傷害を負うのみである乙に対して効果的に防衛できない。よって、上記行為は防衛行為として相当といえ、「やむを得ずにした」に当たる。