※改訂しました(2017/11/25)。
第1 設問1
1 (1)について
(1)Bは、エレベーター設置及び内装工事費用7000万円の支出を免れたという利得がある。
(2)CはAに対して2500万円の請負残代金債権を有しているが、Aが無資力となっており、回収できなくなっている。よって、Cは2500万円の損失がある。
(3)上記利得と損失の間には、Aの無資力という事情を介して社会通念上因果関係がある。
(4)「法律上の原因」がないとは、契約を全体としてみて対価関係なしに利益を受けていることをいうところ、Bは、利得の代わりに賃料を安くしているから「法律上の原因」はあると反論する。
本件では、改修後の甲建物の賃料の相場が月額400万円であるところ、月額200万円でAに3年賃貸する旨の契約が締結されている。よって、Bは7200万円の賃料を予め放棄している。この7200万円という額は上述したBの利得額7000万円とほぼ等しく対価関係にある。よって、Bの上記反論が妥当し、「法律上の原因」がある。
(5)したがって、CはBから回収できない。
2 (2)について
Cは、Fに対し、①詐害行為取消権(424条)に基づきAの敷金返還請求権放棄の意思表示を取り消し、②債権者代位権(423条)に基づきAのFに対する1300万円の敷金返還請求権を行使できるか。
(1)①について
ア 被保全債権はCのAに対する2500万円の請負残代金債権である。
イ Aの上記放棄は、Fの敷金返還債務を「免除」(519条)する旨の意思表示であり、財産権を目的とする法律行為である。また、無資力状態のもとでなされており、詐害行為に当たる。さらに、AはCに対する請負残代金債務が未払いであることを認識しており、詐害意思がある。
ウ AはFに対し自らの置かれた現状を説明しており、Fは悪意である。
エ よって、①は認められる。
(2)②について
ア 上述のように、CのAに対する被保全債権があり、Aは無資力である。また、AF間で賃貸借契約が合意解除され、AはFに甲建物を引き渡している。よって、AのFに対する敷金返還請求権が発生している。
イ Fは、平成22年8月1日から3か月分の賃料600万円の支払をAから受けておらず、1300万円の敷金返還債務に充当したので、同債務は700万円にとどまると反論する。
この充当自体が詐害行為に当たらないか問題となるが、敷金が担保としての性格を有していることを考えると、詐害行為に当たらないと考える。よって、Fの敷金返還債務は700万円にとどまる。したがって、700万円の限度で②が認められる。
第2 設問2
1 履行不能による解除(543条本文)
2 検討
(1) 本件債権売買契約は将来発生する賃料債権を譲渡することを内容とする。この契約目的を達成するためには、FがAとの賃貸借契約を維持することが必要である。そこで、Fは、信義則(1条2項)上、Aとの賃貸借契約を維持する債務をGに対して負う。
Fは、平成22年10月3日、上記賃貸借契約をAと合意解除しており、上記債務の履行が社会通念上履行不能となっている。
(2) Aは無資力に陥り、甲建物の転借を希望する者が現れない現状では上記合意解除はやむを得ない措置としてFに帰責事由がないとも思える。
しかし、Aに経営コンサルタントを紹介する等すれば甲建物の転借人を見つけ出すことは可能であると考えられる。よって、Fに帰責事由がある。
3 したがって、Gは上記解除ができる。
第3 設問3
1 (1)について
(1)エレベーターの占有者Aに対して、717条1項に基づき請求できるか。
ア エレベーターは人工的作業により建物を介して土地に接着して設置される物であり、「土地の工作物」に当たる。
イ エレベーターが下降中に突然大きく揺れることは、人を運搬する機械として通常有する安全性を欠く状態といえ、「設置または保存に瑕疵」がある。
ウ この揺れによりHは転倒して右足を骨折して3か月の入院治療費を支出するという「損害」を被っている。
エ Aは、エレベーターの不具合の兆候がなく点検義務はないと反論する。
本件エレベーターの不具合は、設置工程において必要とされていた数か所のボルトをDが十分に締めていなかったことに起因するものであり、素人には外観から判断できない。また、エレベーター設置から1年も経過しておらず、点検を要するほどの期間は経過していない。よって、Aの反論が認められ、「必要な注意をした」(717条1項但書)に当たる。
オ したがって、Aに対する請求は認められない。
(2)エレベーターの所有者Fに対して717条1項に基づき請求できる。
(1) Dに対して709条に基づき請求できるか。
上述のようにDにはボルトを十分に締めなかったという過失がある。そして、この過失によりエレベーターが大きく揺れてHが上記損害を受けた。よって、Dに対して709条に基づき請求できる。
2 (2)について
Hの身体機能の低下及び疲労の蓄積は、「過失」(722条2項)に当たらないので同項は直接適用されないし、疾患にも当たらないので特段の事情がない限り類推適用もされない。
そこで、特段の事情の有無について検討すると、Hは1年ほど前から歩いていてバランスを崩したり、つまずいたりするなどの身体機能の低下があるうえ、数か月前からかなりの疲労の蓄積を感じていた。Hは70歳と高齢であり、転倒すると骨折のおそれがあるから杖をつくなどの慎重な行動が要請されていたといえる。よって、上記特段の事情があり、賠償額が減額されるべきである。
(2249字)
※第1.1(3):「Bの受益とCの損失との間の因果関係については、Cの内装工事によりBの受ける利益は、本来、CA間の請負契約に基づくものであるため、請負代金債務の債務者であるAの財産に由来するものであるが、Aの無資力によりAに対する請負代金債権の全部又は一部が無価値であるときは、その限度においてBの受けた利益はCの労務に由来することとなる」(平成23年出題趣旨)