※改訂しました(2017/12/05)。
第1 設問1
1 QRの得票数を集計しなかった点について
資本多数決の原則(308条1項本文)からすれば、全候補者の得票数を集計して得票数の多い順に選任すべきである。よって、上記取扱いは妥当でない。
2 4名だけを選任した点について
定款(c)より、取締役は6名まで選任できる。Hの任期は残っているので、22年総会で選任できる取締役は5名である。そこで、定款(d)の決議要件を充たす候補者の中から得票数の多い順に5名を選任すべきである。
本件では、同要件を充たす候補者はBCDPQRの6名いる。この中から得票数の多い順にDCPQRの5名を選任すべきである。よって、上記取扱いは妥当でない。
第2 設問2
1 (1)について
(1) Aについて
本件貸付けの差止請求(360条1項3項)
ア 法令違反行為
Hが甲社の資本金の半分に当たる15億円という多額の金銭を実際の事業活動をほとんど行っておらず信用の乏しい乙社に対して貸し付けるには、貸倒れを防ぐため確実な担保を取る義務を善管注意義務(330条・民法644条)として負う。Hは無担保で本件貸付けを実行しようとしており、同義務に違反するおそれがある。よって、Hが法令違反行為をするおそれがある。
イ 「回復することができない損害が生ずるおそれ」
本件貸付けは上述のように信用の乏しい乙社に無担保で貸し付けるものであり、貸倒れのおそれがある。そして、貸付額が甲社の資本金の半分に達する額であり、貸倒れが起こった場合、甲社の資金に与える影響が大きい。甲社は平成20年秋以後、業績が悪化しており、流動資産が十分あるとは考えられず、上記貸倒れにより倒産するおそれがある。よって、甲社に上記「おそれ」がある。
ウ したがって、Aは上記請求ができる。
(2)監査役Fは、385条1項に基づき、「法令・・・に違反する行為」である本件貸付けにより甲社に倒産という「著しい損害が生ずるおそれ」があるとして、本件貸付けの差止請求ができる。
2 (2)について
(1) Aは、甲社に対し、取締役HDPの会社に対する15億円の損害賠償責任(423条1項)を追及する訴えの提起を請求するという責任追及をする(847条1項)ことができるか。
ア Hに対して
本件貸付けは、甲社の「取締役」であるPが乙社を代表して乙社という「第三者のために」「株式会社」甲社と取引をする場合であり、直接取引(365条1項・356条1項2号)に当たる。同取引によって15億円の貸倒れという損害が甲社に生じている。Hは甲社を代表して同取引を実行しており、423条3項2号の「取締役」に当たる。よって、Hの任務懈怠が推定される(同項柱書)。そして、上述のように、Hに善管注意義務違反という任務懈怠がある。Hが本件貸付けに際し乙社から担保を徴していれば、貸倒れによる損害が生じなかったといえる。よって、任務懈怠と損害との間に相当因果関係がある。したがって、AはHに対して上記責任追及ができる。
イ Dに対して
Dは本件貸付けに関する取締役会の承認の決議に賛成しており、423条3項3号の「取締役」に当たる。よって、Dの任務懈怠が推定される(同項柱書)。そして、Dは、本件貸付けに際し担保を徴するように取締役会で発言し説得を試みる義務を監視義務(362条2項2号)として負うところ、Dは同義務を果たしておらず、同義務に違反しており、任務懈怠がある。Dは取締役の選任において、甲社の発行済株式の3分の1を有する乙社の信任を得ており、最多得票で選任されており、強い立場にある。乙社から担保を徴するようにとDが発言し説得を試みれば、他の取締役も担保を徴することに同意したといえ、貸倒れによる損害は発生しなかったといえる。よって、任務懈怠と損害との間に相当因果関係がある。したがって、AはDに対して上記責任追及ができる。
ウ Pに対して
Pは423条3項1号の「取締役」に当たる。よって、任務懈怠が推定される(同項柱書)。そして、Pは、本件貸付けを実行する際に甲社のために担保を提供する義務を忠実義務(355条)として負うところ、Pは無担保で本件貸付けを受けており、同義務に違反しており、任務懈怠がある。Pが乙社の取締役として甲社に担保を提供していれば、貸倒れによる損害は発生しなかったといえる。よって、任務懈怠と損害との間に相当因果関係がある。したがって、AはPに対して上記責任追及ができる。
(2) 監査役Fは、甲社を代表してHDPに対し甲社に対する上記損害賠償責任を追及する訴えを提起する(386条1項1号)という責任追及をすることができる。
第3 設問3
1 議案①について、A及びFは、訴えの利益があると主張する。
株主総会決議取消しの訴え(831条1項)の趣旨は、会社の基礎的事項に変動を生じさせる決議に瑕疵がある場合に決議を取り消して決議の公正を図る点にある。否決の決議はかかる変動を生じさせるものでないから、決議を取り消す必要がなく訴えの利益を欠く。よって、上記A及びFの主張は妥当でない。
2 議案②について、A及びFは、決議方法の法令違反という決議取消事由(831条1項1号)があると主張する。
Hは、Fが監査役の選任について意見を述べようと発言の機会を求めたのにこれを制止しており、決議方法に345条4項・1項という法令違反がある。よって、上記A及びFの主張は妥当である。
(2192字)
※第1:実務の取扱い→①会社側提案の内容から、「取締役4名選任の件」が議題である。②設問3のように、複数の候補者の組ごとに議案を構成して採決することも可能であるが、取締役選任議案については候補者ごとに議案があると考えるのが自然である(「別冊法学セミナー2012」P.59)。
※第2.1(1)ア:利益相反取引規制(365条1項・356条1項2号)違反はない∵①取締役会の席上でFが「説明が不十分である」と強く異議を述べたことの法的意味は、監査役に対する「事業(本件貸付け)の報告」が不十分であることを指摘し、具体的かつ詳細な報告を求め、その報告がなければ監査役権限に基づき業務の調査を行ったうえで(381条2項)、法令違反(善管注意義務の違反)もしくは著しく不当な事実と認めて取締役会に報告する(382条)との含みを持たせた発言と理解できる(「ハイローヤー」2013年6月号P.79)②取締役会の承認決議がなされている。
※第3.2:Fの原告適格についても書く場合→「Fは、株主総会決議取消の訴え(831条1項)の原告適格を有し、上記取消事由があると主張する。
Fは23年総会の終結の時をもって監査役の任期が満了するので原告適格を有しないとも思える。しかし、議案②が取り消されれば、Fは346条1項により甲社の監査役としての権利義務を有することになる。よって、Fは831条1項により原告適格を有する。
したがって、上記Fの主張は妥当である。