第1 設問1
Cの解除は賃料不払いを理由とする債務不履行解除(541条)である。そこで、Aは、事実6の下線部分の法律上の意義を以下のように説明すればよい。すなわち、瑕疵担保責任(559条、570条本文、566条1項後段)を自働債権として相殺したので505条1項により今後6か月分の賃料債務は消滅した。よって、Aに賃料不払いはない。
1 「瑕疵」とは、当事者の契約内容に照らして、目的物が有すべき品質・性能を欠いていることをいう。
本件では、甲建物が最新の免震構造を備えていることを理由に賃料を相場より25パーセント高く設定したことをAがCから説明を受け、了解して賃貸借契約を締結した。よって、甲建物が免震構造を備えていることは契約内容となっている。しかし、実際には甲建物は免震構造を備えていなかった。甲建物は上記性能を欠いており、「瑕疵」がある。
2 「隠れた」とは、取引上一般に要求される程度の注意をもってしても発見できないことをいう。
本件では、Aは不動産取引の専門家ではないから、外部に現れている瑕疵がないか注意すれば足りる。甲建物が免震構造を備えていないという瑕疵はかかる注意をもってしても発見できないので、「隠れた」瑕疵に当たる。
3 よって、Aは上記説明をすればよい。
第2 設問2
1 (1)について
(1)FはDに対し、以下に述べるように、被相続人AのDに対する損害賠償請求権(715条1項)を896条本文に基づき承継したことを根拠として請求できる。
①本件胎児は流産している。よって、886条2項により、本件胎児は相続人とならない。そして、Aには本件胎児のほかに子はなく、両親と祖父母も既に死亡している。よって、Aの兄であるFは、889条1項2号により、相続人になる。②Aは死亡しており、882条により、相続が開始している。③被相続人AはDに対し1億円の損害賠償請求権を有していた。
よって、Fは上記請求ができる。
(2)上記請求の請求額は、1億円×1/4(900条3号)=2500万円である。
2 (2)について
Dは、以下に述べるように、Bに対して、不当利得返還請求権(703条)に基づき、4000万円の返還を請求できる。
886条1項は、胎児の間は権利能力を認めないが、出生した場合には胎児であった時に遡って権利能力があったものとすることを規定すると解する。
そうすると、本件和解時に本件胎児の権利能力はないから、Bは権利能力のない本人を代理したことになり、Dと本件胎児の和解部分は無効である。よって、Bが本件胎児に対する和解金として受け取った4000万円の利得に「法律上の原因」はない。よって、Dは上記請求ができる。
3 (3)について
Bは、以下に述べるように、Dに対し、本件和解に基づき2000万円の請求ができる。
(1)和解とは、争いの対象となった事項につき互譲し、以後争わないことを約することをいう(695条)。そうすると、争いの対象となった事項につき確定効(696条)が及び、和解の前提として争わなかった事項には及ばない
(2)本件では、BD間で損害賠償の額が争いの対象となっていたので、和解金が8000万円であることに確定効が及ぶ。よって、BはAの死亡による損害賠償額が1億円であることを主張できない。
他方、Bと本件胎児がAの相続人であり両者の相続分が各2分の1であることは、和解の前提として争わなかった事項である。よって、この事項については確定効が及ばない。Bは、890条・900条3号により、8000万円×3/4=6000万円の損害賠償請求権を有することを主張できる。そして、6000万円から既に受け取った4000万円を引いた2000万円の請求ができる。よって、Bは上記請求ができる。
第3 設問3
HのKに対する丁土地所有権に基づく丙建物の収去及びその敷地の明渡請求の請求原因事実は、a.Hが丁土地を所有すること b.Kが丙建物を所有することにより丁土地を占有することである。
1 ①と③の事実は、併せて、Hによる丁土地所有権の取得原因事実であり、a.を基礎づけるという法律上の意義を有する。
2 ②と④の事実について
Kは権限なくして丁土地上に丙建物を所有することにより丁土地を占有する不法占拠者であり、登記欠けつを主張する正当な利益を有さず、「第三者」(177条)に当たらない。よって、Hは丁土地の登記なくして丁土地所有権をKに対抗できる。したがって、②と④の事実は法律上の意義を有しない。
3 ⑤の事実は、Kによる丙建物所有権の取得原因事実であり、b.を基礎づけるという法律上の意義を有する。
4 ⑥の事実について
Kが丙建物を所有していれば、Kが丙建物につき登記を具備しているか否かに関わらず、丁土地を占有していることになる。よって、⑥の事実は法律上の意義を有しない。
(1行25文字で4ページ)
↓以下のように改訂しました(2017/12/23)。
第1 設問1
1 「瑕疵」(570条)とは、当事者の契約内容に照らして、目的物が有すべき品質・性能を欠いていることをいう。本件では、甲は最新の免震構造を備えているものとして、賃料が周辺の物件に比べて25%高く設定されている。AはCから同事情について説明を受けたうえでCとの間で賃貸借契約を締結した。よって、甲が同構造を備えていることは契約内容となっている。甲が同構造を備えていないことは、上記性能を欠いているといえ、「瑕疵」に当たる。
「隠れた」(同条)とは、取引上一般に要求される程度の注意をもってしても発見できないことをいう。本件では、Aは不動産取引の専門家ではないから、外部に現れている瑕疵がないか注意すれば足りる。甲が同構造を備えていないという瑕疵はかかる注意をもってしても発見できないので、「隠れた」瑕疵に当たる。
よって、AはCに対し120万円の損害賠償請求権を有する(559条、570条本文、566条1項後段)。
2 Aは、今後6か月分の賃料債務を受働債権、上記請求権を自働債権として相殺する旨の意思表示をした(506条1項)。よって、対当額で同賃料債務は消滅した(505条1項)。したがって、Aに賃料不払いはない。以上より、Cは541条に基づき賃貸借契約を解除できない。
第2 設問2
1 (1)について
AはDに対し1億円の損害賠償請求権を有していた(715条1項)。Aは平成23年5月28日死亡した。FはAの兄である。Aに子はなく、両親と祖父母も既に死亡している。Aの妻Bがいるので、Fは、1億円×1/4=2500万円の限度で同請求権を相続により承継する(896条本文、882条、889条1項2号、899条、900条3号)。
2 (2)について
和解とは、争いの対象となった事項につき互譲し、以後争わないことを約することをいう(695条)。そうすると、争いの対象となった事項につき確定効(696条)が及び、和解の前提として争わなかった事項には及ばない。本件和解において、Bと本件胎児がAの相続人であることは、和解の前提として争わなかったので、確定効は及ばない。
Bが流産したことにより、本件胎児は相続人にならない(886条2項)。本件胎児がAの相続人であるという内心と、相続人でないという表示との間に不一致がある。よって、本件和解は錯誤により無効である(95条)。したがって、Bは、本件和解に基づき受け取った8000万円を保有する「法律上の原因」を欠く。以上より、Dは、Bに対して、不当利得返還請求権(703条)に基づき、8000万円の返還を請求できる。
3 (3)について
Bは、Dに対し、1億円×3/4=7500万円の損害賠償請求ができる(896条本文、882条、890条、899条、900条3号)。
第3 設問3
1 ①③は、丁の所有権をHが取得したことを基礎づける。丁の所有権をHが取得したことは、HのKに対する丁所有権に基づく返還請求権としての丁明渡請求権の法律要件(原告の土地所有)に当たる事実であり、請求原因に当たる。
2 ②は、丁の1/3につきHが対抗要件を具備したことを基礎づける。④は、丁の2/3につきHが対抗要件を具備していないことを基礎づける。対抗要件は、「第三者」(177条)に対して権利主張するための要件であるところ、Kは無権限で丁上に丙を所有しており、不法占拠者であり、「第三者」に当たらない。よって、Hは丁所有権を対抗要件なくしてKに主張できる。したがって、②④は法律上の意義を有しない。
3 ⑤は、Kが丙の所有権を取得したことを基礎づける。丙収去の判決主文を導くために、丙収去義務の存否も審判対象となる。Kが丙の所有権を取得したことは、建物収去義務の法律要件(土地上に被告が所有する建物があること)に当たる事実であり、請求原因に当たる。
4 ⑥は法律上の意義を有しない。なぜなら、登記の移転は、丙の所有権を取得するための要件ではないからである。
(1620字)
※第2.2:「流産は契約締結後の事情であるため、そもそも契約締結時に錯誤が存在するか否かが問題となる」(出題趣旨)
→錯誤無効の主張を認めるのであれば、停止条件説を前提として、本件胎児が流産になるまで(胎児中)も相続人はB及びFであったことになり、Bと本件胎児が相続人であることを前提としてなされた本件和解には錯誤がある(アガルート解説)