第1 設問1
1 最高裁判所昭和45年判例は、訴訟上の和解に表見法理を適用することを否定する理由として、取引行為と訴訟手続の違いを判示する。また、手続の不安定を防ぐことを理由とする見解もある。
2 しかし、訴訟上の和解には、私法上の契約とそれを裁判所に対して陳述するという両面がある。私法上の契約には取引安全を図る要請がある。表見法理は取引安全を図る法理である。訴訟上の和解には私法上の契約としての側面があるのだから表見法理を適用して取引安全を図るべきである。
3 仮に訴訟行為としての和解の効力が否定されるとして、では私法上何の効果も生じないことになるのか。
和解条項第2項第4条第5項を合意した当事者の意思は、訴訟行為としての和解の効力の有無に関わらず、これらの条項の効力を維持する点にある。訴訟行為としての和解の効力が否定されると私法上何の効果も生じないことになるのでは、当事者の意思に反する。
4 よって、訴訟上の和解に表見法理を適用すべきである。
第2 設問2
最高裁は、被告訴訟代理人が授権された和解の代理権限のうちに抵当権設定契約をする権限も包含されていたと解するのが相当である、と判示した。この理由は、当該内容の和解がされることを被告本人が予見可能である点にあると考える。
本件では、Aはかねてから事件のことを真摯に反省していたのであり、そのような態度をL2に示していたのであるから、L2が和解条項第1項を合意することをAは予見可能である。よってL2は当該条項を合意する権限を有していた。よってAはXとの間で本件和解の効力を争うことはできない。
第3 設問3
1 和解条項第2項及び第5項について生じる既判力を本件後遺障害に基づく損害賠償請求権の主張を遮断しない限度にまで縮小させるという議論について
基準時までに存在した事由に基づいて既判力が生じた判決主文の判断(114条1項)を争うことは遮断される(民事執行法35条2項)。なぜならば、基準時までは当事者は攻防方法を提出できるので手続保障があるからである。そうすると、基準時までに当該事由を主張することについて当事者に期待可能性がない場合には遮断されないと考える。
本件では、和解期日から半年以上も経過してからXはめまいや吐き気などを覚えるようになり、事故後に入通院していた病院で診察を受けたところ、本件事故により腰椎及び頚椎に受けた障害が原因で発症したもので、後遺障害として残存するだろうと診察された。かかる後遺障害が生じることを和解期日において素人であるAは予想できない。よって、和解期日において、後遺障害により損害が生じることを主張することについてAに期待可能性がない。よって、本件後遺障害に基づく損害賠償請求権の主張は遮断されない。よって、上記遮断効を縮小させるという議論は妥当である。
2 本件和解契約は本件後遺障害に基づく損害賠償請求権を対象として締結されたものではないから、訴訟上の和解につき既判力肯定説を採るとしても、本件の和解条項第2項及び第5項につき同請求権を不存在とする趣旨の既判力は生じないという議論について
既判力は判決主文における訴訟物についての判断に生じる(114条1項)。そして、既判力は、同一訴訟物の後訴に及び、また、前訴と後訴が別個の訴訟物であっても両訴訟物が先決関係や矛盾関係にある場合には既判力が及ぶ。
本件では、本件和解契約は本件後遺障害に基づく損害賠償請求権を対象として締結されたものではないから、同請求権を訴訟物とする後訴とは別個の訴訟物である。また、前訴と後訴の訴訟物は先決関係にも矛盾関係にもない。よって、本件訴訟上の和解の既判力は後訴に及ばない。よって、上記議論も妥当である。
3 117条は当事者に期待可能性がないことを根拠とする規定である。よって、同条は前者の議論と整合する。
構成50分、4頁目の16行目まで(85行)。
設問1は判例の事案との違いを具体的に指摘しようと試みましたが、訴訟上の和解には私法上の契約と訴訟行為との両面があるという誘導どおりのことのほかは思いつきませんでした。配点が大きい割には内容の乏しい回答になってしまいました。
設問2も何の面白味もない回答となりました。
設問3については、前者の議論が遮断効の話しであることは誘導内容から明らかですが、後者の議論が既判力の作用の話しであるかどうか自信はありません。仮に後者の議論が既判力の作用の話しであるとしても、本件和解契約が後遺障害に基づく損害賠償請求権を対象としていないと解することがなぜ許されるのかという点の説明が求められていたのではないか、と再現していて思いました。処分権主義から説明すべきだったと反省してます。