旧司刑法平成21年第2問 ※2016/12/27追記 | ついたてのブログ

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本問の甲の乙に対する詐欺罪の成否については、最高裁平成15年12月9日が素材となっていますが、各種答案例にこの判例を意識したものが見当たらなかったので、調査官解説を参照しながらこの部分について起案してみました。

第1 甲の罪責
1 甲が乙に国際運転免許証を買うことができると告げた行為について乙に対する詐欺罪(246条1項)が成立するか。
(1)「欺」く行為とは、相手方が真実を知ったならそのような処分行為をしなかったであろうといえるほど重要な事実を偽ることをいう。
本問では、AITが発行する国際運転免許証様のものが偽物であることを乙が知れば乙は20万円で購入しなかったといえる。よって甲の上記行為は上記重要な事実を偽る行為といえ、「欺」く行為に当たる。
(2)乙は甲の言葉を信じており、錯誤に陥っている。
(3)乙が宝石の購入を仮装してA信販会社をだまして代金を立替払いさせた行為は処分行為に当たるか。
ア 被偽もう者と被害者とが異なるいわゆる三角詐欺の場合には、「欺」く行為と処分行為との因果関係を充たすため、被偽もう者が被害者の財産を処分する権限を有することが必要である。
本問では、被偽もう者である乙と財産の出えん者であるA信販会社とは別個独立の存在である。そうすると、三角詐欺の場合に当たると考えると、乙はA信販会社の財産を処分する権限を有しないから、上記立替払いをさせた行為は処分行為に当たらないことになる。
イ しかし、A信販会社は乙に対し立替金の求償権を有しており、支払った立替金を法的に乙に最終的に帰せしめることができる。よって三角詐欺が予定する被害者にA信販会社は当たらないと考える。被偽もう者も被害者も共に乙であると考える。よって、乙がA信販会社の財産を処分する権限を有していないからといって、乙が立替払いさせた行為が処分行為に当たらないとは直ちにはいえない。
ウ 三角詐欺に当たらないとしても、立替金を事実上交付した者はA信販会社であり、被偽もう者乙ではない。そこで、処分者と事実上の交付者とが異なる場合、いかなるときに処分行為が認められるかが問題となる。
詐欺は処分者(被偽もう者)の意思決定を誤らせることを手段として財物等を領得する罪である。そこで、交付が処分意思の実現といえる場合であれば処分行為により交付されたといえ、処分行為が認められると考える。
本問では、乙はA信販会社をして立替払いをさせるという処分行為を行い、A信販会社は、乙との立替払い契約に基づいて立替払いをしているのであるから、それは、処分者である乙の処分意思の実現といえる。そこで、本件立替金の交付は、A信販会社を通じて乙自身が交付したと価値的に評価して、乙の処分行為が認められる。
(4)A信販会社が甲の管理する預金口座に20万円を振り込んだことにより、甲は20万円をいつでも引き出せる。よって甲は20万円という財物の占有を取得したといえる。
(5)よって乙に対する詐欺罪が成立する。
2 国際運転免許証発行行為→有印私文書偽造罪・同行使罪が成立し、乙に対する詐欺罪と牽連犯となる(①)。
3 A信販会社に対する詐欺罪(乙の罪責で後述)の共謀共同正犯が成立し、①と併合罪となる。
第2 乙の罪責
A信販会社に対する詐欺罪成立。
※前述のように、乙が実質的に財産上の損害を最終的に負担するが、A信販会社にも立替金の支払いという形式的な意味での財産上の損害が生じている(A信販会社には、形式的のみならず、乙の無資力の危険負担、抗弁権接続の主張への対応等の実質的な被害があるともいえる)。

※2016/12/27追記(最高裁平成15年12月9日は百選掲載判例ではなく、現場思考で同判例の問題意識に気付くのは難しいと考えられるので、現実解を作成するという観点から改訂しました)

第1 乙の罪責

クレジット契約を申し込んだ行為に、①A社に対する1項詐害罪(246条1項)が成立しないか。

1 商品の購入を仮装したクレジット契約は、A社の約款において禁止されていた。よって、同仮装を知ればA社は同契約を締結しないといえる。したがって、同仮装をして同契約を申し込んだ行為は「欺」く行為に当たる。

2 A社は錯誤に陥り、同契約を締結し、甲の管理する預金口座に20万円を振り込んで交付した。

3 よって、①の罪が成立し、後述のように甲と共同正犯(60条)となる。

第2 甲の罪責

1 乙に国際運転免許証の購入を持ち掛けた行為に、②乙に対する1項詐欺罪が成立しないか。

(1) 同免許証が無効であることを知れば乙は購入しないといえる。よって、有効であるかのように装って購入を持ち掛けた行為は「欺」く行為に当たるとも思える。

(2) しかし、本件では、被害者は20万円を振り込んだA社である。よって、被偽もう者・交付行為者と被害者とが異なる三角詐欺に当たる。この場合、被偽もう者は被害者の財産を処分し得る権能を有することを要する。なぜなら、被偽もう者の意思に基づいて財物を取得するという関係が必要だからである。

本件では、乙はA社の財産を処分する権能を有しない。よって、上記購入を持ち掛けた行為は、交付行為に向けられた「欺」く行為に当たらない。

(3) したがって、②の罪は成立しない。

2 乙がクレジット契約を締結した行為に、甲に、③A社に対する1項詐害罪の共同正犯が成立しないか。

甲乙間で商品の購入を仮装したクレジット契約を締結する旨の共謀が成立している。

同共謀に基づき乙が同契約を締結している。

甲は乙に同契約締結を勧め、犯行を主導している。また、甲は、同契約締結により、乙に対する代金をA社から取得できる。よって、甲に正犯性がある。

したがって、③の罪が成立する。

3 国際運転免許証様の文書を発行した行為に、④有印私文書偽造罪(159条1項)が成立しないか。

(1) 同文書は、国外で運転できるという実社会生活に交渉を有する事項を証明する文書であり、「事実証明に関する文書」に当たる。

(2) 「偽造」とは、名義人と作成者との人格の同一性を偽ることをいう。

本件では、国際運転免許証は、発行権限のある者により発行されたことが文書の社会的信用性を基礎づける。よって、社会は、発行権限のあるAITの意思が表示されていると認識する。したがって、同文書の名義人は、発行権限のあるAITである。他方、作成者は、発行権限のないAITである。よって、名義人と作成者との人格の同一性を偽ったといえ、「偽造」に当たる。

(3) 甲は同文書を真正な文書として顧客に販売する目的であり、「行使の目的」がある。

(4) 甲はAIT名義で発行しており、有印である。

(5) よって、④の罪が成立する。

4 同文書を乙に渡した行為は、偽造文書を真正な文書として使用したといえ、「行使」に当たる。よって、⑤同行使罪(161条1項)が成立する。

5 以上より、甲には③④⑤の罪が成立する。そして、④と⑤の罪は牽連犯(54条1項後段)となり、③の罪と併合罪(45条前段)となる。

(1291字)