憲法は今年の受験時においては、原告主張ではきちんとした審査基準を書かず、「必要最小限度でなければならない」と書いてあっさりあてはめるという方針でした。しかし今年の問題は書くべきことが多く、あなたの見解の所でもあっさりとなってしまい、沈んでしまいました。そこで、せめて原告主張だけでもしっかり違憲審査基準を立てて書くことにしました。新司の過去問の中では基本的な問題と思える平成23年の問題を答案化してみました。内容的には伊藤たける氏の「憲法の流儀」の解説を大いに参考にしていますが、改悪していないか心配です。
第1 設問1
1 中止命令の取消訴訟を提起する。
2 法令違憲の主張
法8条3項は生活ぶりがうかがえるような画像を提供するXの自由を侵害し違憲であり、同項に基づく中止命令は違憲かつ違法である。
(1)上記自由は思想を提供するものではない。しかし、画像を撮影してからユーザーの利便となる画像を選別した上で提供するものであり、思想の提供と同様に精神作用が認められる。そして、ユーザーの利便となる画像を提供することは社会に貢献する活動である。上記自由は社会に貢献する活動を通じてX社の社員の自己実現に資する。よって上記自由は表現の自由(21条1項)により保障される。
(2)法8条3項による中止命令によりXは上記画像を提供できなくなっており上記自由が制約されている。
(3)上記自由はX社社員の自己実現に資するという重要な意義を有する。
また、中止命令は、個人権利利益侵害情報(法2条6号)を提供する際に必要な措置(法7条2号3号)をとっていないという苦情を契機としてなされる。よって法8条3項は権利利益侵害情報という特定の内容の表現を対象とする規制であるから内容規制である。内容規制は行政権による恣意的な規制がなされるおそれがあるので規制態様が強度といえる。
そこで厳格な審査基準、具体的には目的が必要不可欠であり手段が必要最小限度である場合に合憲となるという基準が妥当する。
ア 目的審査
個人権利利益侵害情報は、個人識別情報(法2条4号)や個人自動車登録番号等(法2条5号)以外の情報であるから、自己情報の中では秘匿性の弱い情報である。よって、この自己情報を秘匿するという目的は必要不可欠とはいえない。
しかし、権利利益侵害情報には自己情報以外にもDVからの保護施設等公開されては困る施設の位置情報も含まれるし、路上や公園で遊ぶ子供が映されていることで誘拐等の誘因になるおそれのある情報も含まれる。よって法8条3項の規制目的には生命身体の保護という目的も考えられ、この目的は必要不可欠といえる。
イ 手段審査
いったんインターネット上で権利利益侵害情報が提供されると容易に拡散して削除が困難となる。そうだとすると、情報の提供により被害を受けた者から申立てがあることを要件とする(法8条1項)という手段は、生命身体保護目的を達成するための手段として実効性を欠く。
また、生命身体保護の目的を達成するためには、DVからの保護施設等公開されては困る施設や公園等子供の遊び場に限って規制すれば足り、権利利益侵害情報一般を規制するのは過度の規制である。
また、法8条3項の規制により権利利益侵害情報がひろく見れなくなり、住宅街の画像のほとんどが修正されることになる。これではユーザーはそこを実際に歩いている感覚で画像を見ることができなくなり、ユーザーの利便性が失われる。インターネットユーザーは全国に存在するのであるから利便性喪失の不利益は大きい。これに対して、規制により得られる利益は生命身体保護であるが、権利利益侵害情報の公開を原因として現実に被害が発生しているわけではなく、被害は抽象的に想定されているに過ぎない。よって規制により失われる利益が得られる利益より大きい。
よって、手段は必要最小限度とはいえない。
ウ よって法8条3項は正当化されず違憲である。
3 適用違憲の主張
Xの上記自由の重要性及び規制態様からすれば「権利利益侵害情報」は狭く解すべきである。そこで、「個人の権利利益を害するおそれのあるもの」(法2条6号)とは、個人の生命身体を侵害する具体的危険があるものを意味すると解する。
本問では、Xは家の中の様子など生活ぶりがうかがえるような画像を修正していない。しかし、生活ぶりがうかがえるような画像はDVからの保護施設等と異なり
公開により個人の生命身体を侵害する具体的危険があるとまではいえない。よってXが提供した画像は「個人の権利利益を害するおそれのあるもの」に当たらない。よって上記中止命令は違憲かつ違法である。
第2 設問2
1 被告は、Xの上記自由は自己統治の価値を有しないから重要性は低いし、法の規制は画像の提供による弊害を防止するための規制であるから間接的規制であり規制態様は強度とまではいえない。よって厳格な審査基準は妥当しないと反論することが想定される。
しかし、Xの提供する画像を見てユーザーは地域による貧富の差を実感して投票の意思決定の資料とすることができる。よってXの上記自由が自己統治の価値を有しないとまではいえない。
もっとも、インターネットで提供されると二次的利用の弊害が生じることが立法の契機となっており、法の規制は被告の反論するように弊害防止のための間接的規制といえる。そして、間接的規制は弊害防止が直接の目的だから、行政権による恣意的規制の危険は表現内容を直接規制することが目的である場合に比べると弱い。
そこで、やや緩和された基準、具体的には、目的が重要であり、手段が実質的関連性がある場合に合憲となるという基準が妥当する。
(1)目的審査
権利利益侵害情報を規制する8条3項の目的はXが主張するように生命身体保護にあり、重要である。
(2)手段審査
Xが主張するように、情報の提供により被害を受けた者から申立てがあることを要件とする(法8条1項)という手段は、生命身体保護目的を達成するための手段として実効性を欠く。よって手段が実質的関連性を欠く。
(3)よって法8条3項の規制は正当化されず違憲である。
2 被告は「権利利益侵害情報」を文言どおりに解し、Xは提供した画像は同情報に当たると反論すると想定される。
しかし、上記自由の重要性より、Xの主張が妥当であると考える。