『妖怪と戦った飛脚さんの話し』 今昔物語 巻27第36話より
3月27日 『妖怪と戦った飛脚さんの話し』 第四回だよ
ジイタンだよ ![]()
もうはっきりと墓の塚は動き出し、中から何かが出てきたんだって。
飛脚さんはびっくりだね、身の毛がよだつほどの恐ろしさで震えながら見ているとね、出てきたものは裸の人間でね、しかもその人間の身体の周りからは火が燃えているよ。![]()
そしてね、その人間はやがてこっちに向かって走り出したんだ。それはすごい大男でね、フッフッと鼻息を鳴らしながら一目散に走ってくるんだよ。
飛脚さんの驚いたの何の、それでなくとも恐ろしい光景なのに、何とこっちに向かってくる。![]()
ヒャ!!と叫ぶなりとっさに道中差しを取ったよ。道中差しというのはね、普通の刀より少し小さい刀でね、旅の道中の護身用に持ち歩く刀の事だよ。
その道中差しを取るとサッと刀を抜いた。飛脚さんは根は度胸のある人だったんね。そんな恐ろしい中でも腰も抜かさず、これだけのことができるんだものね。![]()
そしてね、『あいつは鬼だろう。あんな奴に何もせずに命をとられるなんて情けない。どうせ死ぬにしても思い切り戦ってからでなければ悔しくてあの世にも行けまい』と思い定めるとね、バーンと小屋の戸を蹴飛ばして開け、飛び出してそいつに向かって走り、すれ違いざまエイヤッと力まかせにそいつの胴体に切りつけて切り払うと、そのまま走って逃げたんだって。
その後ろからは何かが倒れたようにドサッという音がしたそうだよ。
飛脚さんは逃げてやがて人里に出たので、一軒の家の戸を叩いて中に入れてもらい、休ませてもらったんだ。そしてね、夜が明けてからその里の若い人たちと一緒にあの小屋の場所に行ってみるとね、そこには葬式の跡も塚の跡もなく、ただ一匹の大きなイノシシが切り殺されて倒れていたんだって。
そのイノシシを飛脚さんがよくよく見るとね、昼間、芋畑を荒らしていたので石をぶつけて追い払ったあのイノシシにそっくりだったんだって。
人々はね、おそらく昼間の仕返しにそのイノシシがやってきて、飛脚さんを驚かしてやっつけてやろうとしたのではないかって噂し合ったそうだよ。
里の猟師さんの話では、そのイノシシは近在でも一番の古イノシシで悪賢い奴だったというから、そんな妖力も持っていたのかもしれないね。
この話し、おわりだよ