失われた20年の原因か、BIS規制 | 株えもんのブログ

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この記事は1988年5月17日の日本経済新聞ですが、ここに書いてあることが、その後の日本経済をただしく表現していると思います。



 金融機関に対するBIS規制、自己資本比率規制は多国籍展開する銀行などの健全性を保ち、マーケットが最悪の事態に陥らないようにすることが目的だ。



しかし金融を取り巻く環境が変化する中で想定外の事態が起これば、混乱を招く場合もあり得る。



欧米主要国の株価は87年秋のブラックマンデー後も低迷を続けているが、日本だけは高値を更新して堅調に推移している。87年のマネーサプライ(通貨供給量)の伸び率は前年比10%を超え、銀行の貸出残はここ数年、13%前後の伸びを示している。



日本経済はそうした金融情勢をバックに成長を維持してきた。だが自己資本比率規制は銀行や企業の行動変化を通じて、現在の経済の枠組みを大きく揺さぶることになるかもしれない。



株価が下落すると、自己資本に算入できる株の含み益が減少する。一方、都市銀行上位行の場合、資産の4割が外貨建てだから、円安になれば円建てでみた資産額は急増する。比率達成のため銀行は増資を繰り返していく方針であり、全体の株価水準だけでなく、自行の株価維持が重要になってくる。



利益水準が高い銀行にとって、自己資本比率が8%、うち資本金と公表準備金だけで4%という規制内容は、1000億円の増資をすると資産を2兆5000億円増やすことができる(株の含み益などが十分ある場合)ことである。



しかし、利益が少ない銀行は、増資がしづらくなる。儲けている銀行が巨大化しそうでない銀行との格差が開く公算が大きい。「銀行は守りの経営をやめ、ベンチャービジネスのような攻撃的な経営を目指すだろう。他行の後追いばかりしている銀行はじり貧になる」(福井俊彦日銀営業局長(当時))。



国債保有増やす動き



短期金融市場ではすでに変化が見え始めた。「利益重視の考え方が大口定期預金のレート形成に微妙な影響を及ぼしている」との見方が銀行の資金担当者の間に広がっている。



88年3月末の都銀13行の大口定期預金残高は30兆4300億円。2月末に比べると1000億円以上減少した。3月は銀行の決算期末、預金残高順位を意識して銀行は預金集めに力を入れるのが通例。


今年も期末協力預金などの形で預金残高を積み増す動きがあったが、もともと金利が高い大口定期については極端な高レートを出してまで集めようとしなかったという。



自己資本比率を計算する際の分母を増やさないで稼ぐのも収益力強化の有力な方法だ。今回の規制の特徴の一つは、リスク・アセット・レシオ。分母となる資産は、リスクの大きさに応じてウエート付けをする。


例えば現金や国債はゼロでいくら保有しても分母は増えない。これに対し、企業向け融資はウエートが100%、担保付き個人住宅ローンは50%などとなっている。



「長期融資の伸び悩みに対応して国債への投資を増やしてきたのが結果的に良かった。今後も出来れば国債の保有を増やしていきたい」(日債銀(現あおぞら銀行))。


国債と同様、政府保証債もリスクウエートがゼロとなる見通し。これまで政保債と地方債は信用度がほぼ同じとみなされ、発行条件も同一だが、規制内容を先取りする形で流通利回りに違いが表れ、地方債のほうがやや高くなっている。公社債市場でも変化の兆しが見られるようになった。



余裕あるクリア必要



規制はぎりぎりで達成してもダメ。ある程度の余裕が必要との見方が各行の共通認識。為替や株価が急変しても資産圧縮に追い込まれないようにするためである。突発的な資金需要にこたえて貸し出しを増やすことができる余裕を残すことも必要である。



日銀は「自己資本比率規制で金融が混乱することはない。むしろ大口定期レートの是正などを通じて市場機能が発揮されやすくいなる」とみている。新制度化ではそれに対応した金融調節方式があるはずだし、不安はないと強調する。



ただ銀行の自己資本充実、資産内容の見直しと同時に、貸し出しが長期的に抑制方向に向かうのは間違いない。当面は両建て融資の洗い直し、ユーロ市場での銀行間預けあいの縮小など水ぶくれの是正で乗り切れるといわれる。



しかし長い目で見れば、経済成長に必要な通貨供給に支障が出るとの見方もある。金融界の激震が与える影響は大きい。