「特許」隠れた企業価値、その② | 株えもんのブログ

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 日本で知財に強い会社といえばキヤノン(7751)。かつて米ゼロックスを相手にした特許交渉で勝利するなど日本有数の特許部隊を持ち、複写機を中心とした強力な特許網でガッチリ守りを固める。競合他社などから受け取る特許権収入は年約170億円(単体)。



 そんなキヤノンの特許戦略が転機を迎えている。技術開発の潮流がパソコンから、スマートフォンやタブレット端末に移行。


 アップルやグーグル、韓国サムスン電子などがIT分野で激しい特許争いを繰り広げているのは「もはや対岸の火事ではない」と知的財産戦略を統括する長沢健一執行役員は危機感をあらわにする。



 例えばデジタルカメラ。最近では公衆無線LAN「WiFi」や全地球測位システム(GPS)機能を搭載した機種が登場するなど、急速にIT製品化。


関連する特許数はざっと1万件と2000年代初頭の10倍に膨れあがったという。複写機やプリンターもIT対応ニーズが高まるのは必至だ。


 スマホなどIT分野では、キヤノンは挑戦者の立場。これまでのように自社製品の開発にあわせて特許を取る手法では間に合わないため、「知財を事業に先行させ、応用範囲の広い特許を取っていく」(長沢執行役員)。


 例えばカメラや複写機をIT機器と連携させる使い方などの権利化を想定。すでに無線通信の特許を取得した。先回りして広く網をかぶせる戦略で、海外勢の参入障壁を突破する考え方だ。



 「その特許は将来どれだけのお金を生み出すのか」--。帝人(3401)は毎月、経営トップと技術責任者、知財担当者が集まる「技術戦略会議」を開く。


 以前は「特許は質より量」の考え方が根強かったが、維持にお金がかかるのも事実。自動車向け高機能素材、環境負荷の低いバイオプラスチックなど、数十件の重要テーマに絞り込み特許を取得していく方針に転換した。



 特に注意するのは「出願のタイミング」(帝人知的財産センターの平坂雅男知財戦略室室長)。素材分野では開発から用途開拓まで数年~数十年かかることも珍しくない。


 早く出願しすぎると市場が立ち上がった時に「特許切れ」の事態を招きかねない。そのため「基本特許をまず押さえ、用途開発など周辺分野の特許も継続して取っていく」(平坂氏)考えだ。




 社内に埋もれた特許の有効活用に乗り出したのは富士通(6702)。事業戦略の変更などに伴い、自社で使わなくなった特許を外部にライセンスし、収入に結びつける狙いだ。

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 例えばセーラー万年筆(7992)が開発した「世界初の抗ウイルス抗菌ボールペン」。富士通と東京大学が共同開発した「光触媒チタンアパタイト」の技術を使い、花粉、ウイルスなどペンに付着した有害物質を分解する。



 川崎市などの自治体と連携し、地元の中小企業と知財の交流会も実施。大学や専門学校向けに学生証をスキャナーにかざすだけで出席管理ができる装置などが生まれている。


 三菱電機(6503)が現在、力を入れているのがパワー半導体の分野だ。


SiC」と呼ぶ省電力化に効果がある新材料の開発で先行し、関連特許の出願を進めている。11年3月期の特許出願件数(単独)は国内外で1万1700件と3年前に比べ44%増えた。


 またFA(ファクトリーオートメーション)機器や昇降機など売り上げ規模が大きく保有特許数も多い主力事業については、新興国でも積極的に出願するなど、蓄積した知財をさらに強くすべく取り組んでいる。



「稼ぐ特許」に着目、世界でビジネス急拡大



 「稼ぐ特許」が着目される中、関連ビジネスも急拡大している。産業革新機構と武田薬品工業(4502)など複数の製薬会社が共同で、日本初の知的財産ファンド「LSIP」(エルシップ)を立ち上げたのは20108月。


 がん、アルツハイマーなどライフサイエンス4分野を対象に、大学や研究機関が持つ特許を買い取り、新薬開発に活用しやすいよう集約したうえで製薬ベンチャー企業などにライセンスする、という仕組みだ。設立から1年半。大学などから集まった特許は100件を超えた。



 革新機構はソニー(6758)など3社の中小型液晶ディスプレー事業の再編も主導している。「日の丸液晶」について幹部は「3社に分散していた知財を集約してサムスン電子など韓国勢に対抗する」と狙いを説明する。なにしろサムスンは特許戦略でも日本勢を圧倒するスピードが武器だ。


 将来、液晶ディスプレーの性能向上に大きく貢献すると期待されている日本の技術がある。東京工業大学の細野秀雄教授らが発明し、科学技術振興機構(JST)が保有する高性能の薄膜トランジスタ(TFT)に関する特許で、従来に比べて解像度を約10倍に高められるというもの。


サムスンは3年ほど前からこの特許の利用をJSTに打診。昨年7月、日本勢に先駆けてライセンス契約を結んだ。



 サムスンは2000年代半ばにも、有機ELの合弁事業を手掛けていたNEC6701)から関連の特許を取得した経緯がある。自前の特許にこだわらず、将来有望な技術を見つけたらいち早く取り込み、最新の製品開発に結びつける知財戦略が見えてくる。


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 米国は、特許そのものに投資し、流通させる仕組みづくりで日本の一歩先を行く。マイクロソフトの元幹部らが設立した知財ファンドのインテレクチュアル・ベンチャーズ(ⅠⅤ)は、保有する特許数が35000件以上。


 投資家から集めた5000億円以上の資金を元手に企業や大学、研究機関などの特許を買い取ったり、共同で出願したりし、別の企業に売却・ライセンス供与する。相手先は米マイクロン・テクノロジー、韓国LG電子などハイテク大手だ。



 ⅠⅤは豪州、アジアなどにも拠点があり、日本では数十の大学や企業と契約。九州大学と共同で医療・IT分野で特許を出願するなどの実績を持つ。加藤幹之日本総代表は「5~10年先を見越して有望な技術と市場を結びつける」と話す。


 シカゴ・オプション取引所は世界初の「知的財産国際取引所」を12年中に立ち上げる計画。製品やサービスの製造・販売に必要な特許を使用する権利を裏付けに発行した金融商品を売買する仕組みで、オランダのフィリップスなどが参加を予定する。



日本大学大学院講師の岸宣仁氏は「これまで特許の価格は相対交渉で決められていたが、取引所のシステムにより価格決定の透明性が高まる」などと指摘している。


特許などの知的財産が重要視されるようになると翻訳センター(2483)が注目されるかもしれません。同社は特許、医薬、工業など企業向けの技術翻訳を手がけており、4000人の翻訳者が登録しています。