ストーリーが《進んでいくこと》よりも、ついつい その物事の過程を書き込みたくなってしまい、結果、ひっじょーにテンポの悪いものになっていることは重々承知しております (◞‸◟)

改めまして、謹んでお詫び申し上げます <(__)>

 

 

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7月12日 14:30少し前。

 

司令官室のドアに手を伸ばしたオスカルは、その時初めて、自分の手が・・・いや全身が震えていることに気づいた。

 

〖ふ・・・ よほど昂ぶっているとみえるな、わたしは・・・・〗

ここまで歩いてくる間にも、繰り返し繰り返し蘇っていたのだ───各々、内に不安を抱えながらも、胸熱くする眼差しを向けてくれた隊士たちの姿が───

 

・・・と、ふと思い出した。

下馬しても手綱を握り締めたままだった自分に、アンドレが微かに笑みを含んだ声音で「オスカル」と声をかけ、ポンポンとあやすように指先に触れながら、あの大きな掌で この手をそっと包みこんでくれたことを───

そして、厩舎への分かれ道で立ち止まり、「一緒に来るか? 最近おまえが顔を見せないから馬たちがおかん(・・・)むり(・・)だぞ」と軽口めかして、興奮を静める ひと時を作ってくれようとしたことを───

それなのに、、、あのような緊迫状況の直後にも拘わらず 彼の笑顔に溺れそうになった自分が気恥ずかしくて、オスカルは つい言い返してしまった。

「いっ、いいい・・・いっ今のわたしにはおまえの手伝いをしているヒマなんぞない!」

赤面しギクシャクと早足になったオスカルの足音を聞き取った(であろう)彼は、なおも背中に向かって呼びかけてきた───

「部下たちの前で転ぶなよ。

せっかくビシッとキメてヤツらの心を掴んだのに、ドジ隊長じゃ信用ガタ落ちだ」

 

 

〖ふん、子供扱いしおって・・・無礼者めが〗

ふふっと笑いながら、いつしか震えの治まっていた手でドアノブを回した刹那・・・・・・喉の奥がヒュウと鳴った。

〖まずい!〗

堰き上げる咳の奔流に、ドア内に駆け込んで施錠し、デスクへと走って吸い取り紙を掴んで口に当てる。

 

息遣いが治まって恐る恐る目を開けてみると、今の咳ではあまり血は出なかったようで、紙片には幾許かの赤い斑点が散っているだけだった。

 

オスカルは紙片をクシャと握り締めた。

〖ああ・・・明日だけは、どうか起こらないでくれ!!

出動を乗り越えたら、目を逸らさずに必ず病と向き合う。

だから、なんとか()ってくれ・・・この体よ!

黙っていることを許してくれ、アンドレ・・・もう少しだけ待ってくれ。

おまえと共に生き抜くために・・・力を尽くすから・・・・・・〗

 

 

壁の大鏡で、顔や髪、軍服に赤い飛沫のないことを確かめてから、オスカルは紙片を小さく折りたたみ内ポケットの奥に押し込みながら窓辺に歩み寄った。

 

「アンドレ・・・」

窓外を見下ろしたオスカルは、知らず知らず彼の名を呟いていた。

つい先程、馬を曳いて厩舎に向かう後ろ姿を見送ったばかりだというのに、もう既に彼の顔を見たくてたまらなくなっている。全身が目となって彼の姿を探し求めている。

 

〖恋焦がれる──というのはこういうことなのか・・・?

遠くにおまえが見えるだけで鼓動が早まり、甘いうずきが体中を駆け巡る・・・・・・〗

 

先刻の、鏡の前での対話が胸をよぎる。

 

"あ、いや。おまえさぁ……ほんのここ数日 ちょっとばかり視力が落ちてた間に、妙に美人になったと思ってさ。

そんなおまえを見られるなんて、体が入れ替わったのも ちょっとした怪我の功名に思えてな"

 

〖わたしは、再びおまえを見ることができるようになった。

それなのに・・・おまえは・・・・・・〗

 

オスカルは唇を引き結んだ。

 

〖いや、わたしは決して諦めない!

必ずや、おまえの目にくっきりとわたしの姿を捉えさせてみせる!!〗

 

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兵営を行き来する隊員たちを見守るてい(・・)で、窓辺にへばりついて数分経った頃、やっと待ち焦がれた男の姿が兵舎の(かど)を曲がって現れた。

自然にオスカルの表情がほころび、胸が早鐘を打ち出す。

じっと見つめていると、この距離では見えていないはずの彼がオスカルを振り仰ぐ。

なんともはや、お互いへと向かう念波&感応力がハンパないふたりである...🤭

 

その時、アンドレの後方に見えた光景にオスカルはハッとし───次いで、その瞳をキラリと光らせた。

 

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「うわわ、うわっ!」

備品係のジルベール・セルジュは、ふいに脇を吹き抜けた疾風に驚いて、胸の前に抱えていた用具箱を取り落としそうになった。

ワタワタと体勢を立て直す彼に、その疾風の(ぬし)が振り向きざまに声をかけたかと思うや、瞬く間に遠ざかっていく。

「精勤ご苦労、セルジュ!」

 

「たたた隊長・・・っ!」

何か答える(いとま)もあらばこそ、、、彼が英雄崇拝するそのひとは、早や兵舎から外に出てしまっていた...

 

彼はエイショッと用具箱を抱え直し、ほわほわした足取りで備品室へと向かった。

〖今日はなんていい日だぁ! 隊長に二度も声をかけてもらえたぁぁぁ♪〗

 

 

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〘アランが来る・・・。それと・・・・ジャン、フランソワ、ピエール、ラサール・・・か?〙

後方から近づく足音に耳をすませながら、アンドレは、彼らにどう話を切り出すか、素早く脳内復習した。

彼はオスカルと打ち合わせていた──全員召集の解散後、アランを探して司令官室に伴うことを。

 

 

「アンドレ!」

アランに呼びかけられて、彼はおもむろに振り返った。

 

 

 

 

『さらば! もろもろの古きくびきよ -16-』に続きます