今回こそ、へんてこアクシデントをハナシに盛り込んだ超メイン趣旨を繰り出そうと思っておりましたのに、、、
アクシデントに付随するナンジャラカンジャラ事象に拘泥しすぎて、超メイン趣旨は、またしても次回持ち越しになってしまいました😓
こうなったら、自分の性癖に逆らわず、気の済むまでウザウザ文を書き連ねることとさせていただきます。
お飽きになられたみなさま・お呆れのみなさま…、このハナシ、情け容赦なくお見捨てになっちゃってくださいませ💦
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7月12日、午前11時少し過ぎ。
フランス衛兵隊 討議室。
「まずは第一要件、入れ替わってしまった体を元に戻すことだが──」
オスカルはそこで言いさして、つと目を逸らせた。
「居心地が悪くてかなわんな…自分相手に話すというのは」
チラと自分に視線を戻し、またすぐに逸らす。
「視力の明瞭でないわたしですら居心地が悪いのだから、はっきり見えているおまえは、さぞかし居たたまれないだろう…な」
アンドレも、正直にお手上げの仕草をして嘆息する。
「ああ。鏡ならまだしも、別の自分が目の前にいるというのはなぁ…なんともはや」
刹那。ふたりは同時にアッ!と目を見開いた。
「そうかっ!」
「鏡…っ!」
「行くぞっっ!!」
「司令官室に!」
さすが阿吽の呼吸のご両人、見事な渡りゼリフを決め、バッと立ち上がった。
司令官室には軍装点検用の大きな全身鏡があることに思い至ったのだ。
オスカルは さっと視線を巡らし、陽光溢れる窓の反対側 ──つまりドア── に向かって大股に歩き出した。
それを呼び止めるアンドレ。
「あっ、ちょっとだけ待ってくれオスカル。
すぐに このテーブルと椅子を元の位置に整えるから」
オスカルは足を止めてくるりと振り返った。
「そうか。そうだな」
つかつかと自分が座っていた椅子に歩み寄り、背凭れをつかんで所定の位置に戻す。
その一連の動作を見て、アンドレはホッと安堵の息をついた。
「ほらな。それなりに見えて、それくらいの動作は難なくできるだろ?」
先程ずらしたテーブルを定位置に直しながら言う彼に、オスカルがニヤリと笑って言い返した。
「はんっ。わたしの順応力と空間把握能力を侮るな」
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「よし、行くぞ」
オスカルがそう言って、並んでドアへと歩き出した時、ノックの音が響き、ふたりはギョッとして立ち竦んだ。
ドア外から問いかけてくる声。
「おそれいります。備品係のジルベール・セルジュであります。
まだどなたかおられますか?」
咄嗟にオスカルの口を塞いだアンドレの手から、持っていた会議書類がヒラヒラと舞い落ちる。
彼はアワアワしながらドア向こうのセルジュに呼びかけた。
「あっあ~っと、ジルベ……セっセルジュ。
いっ今、退室するところだ。
しょ…書類を片付けるから、ほんの少しそこで待っていてくれ」
"片付ける" というよりは "拾い集める" ではあるが、結果、なかなかウマい時間稼ぎの口実となった💦
隊長の声に、ジルベール・セルジュはドア前でピッと背筋を正し、直立した。
「はいっ、隊長」
アンドレが、ドア外に聞こえないよう声をひそめる。
「たぶん、会議が終わったらしいのに まだ鍵が返却されないから、様子を見に来たんだ。
今、その隊服の肩掛けポシェットから この部屋の鍵を出すから、すまないがおまえが返却してくれ」
オスカルは塞がれた口から手を振り払って、ヒソヒソ声でプチギレした。
「わたしは、あんなヘドモドした口のきき方はせんっ!
隊長らしくシャンとしろ、シャンと」
実は自分もノックの音にうろたえていたことは棚上げである。
アンドレがポシェットから取り出した鍵をひったくったオスカルは、拾われた書類もすべて彼からブン取って、悠然と歩を進めドアを開けた。
「すまんっ、ジルベール。
会議の後、こまごました打ち合わせで つい長居してしまった」
ほぼパーフェクトなアンドレ口調。
「いいって、いいって。気にすんなよ、アンドレ」
別段、不審に思うこともなく鍵を受け取ったジルベール・セルジュだったが、名残惜し気にチラチラと隊長を盗み見てくる。
〖ああ…そういえば、ジルベールはオスカルを英雄崇拝していたんだったな〗
ふと目が合って、たちまち青年の頬が上気していく。
〖だが…この若者は、今を限りにオスカルに会えなくなるかもしれない……〗
そう思うと、アンドレは彼に 何かひと声かけてやらずにいられなくなった。
「わざわざここまで来させてしまって すまなかったな、セルジュ。
職務に真摯に取り組んでくれる きみのような部下を持てて、わたしは誇らしく思うぞ」
むろん、ほぼパーフェクトなオスカル口吻である。
「過分なお褒めにあずかり光栄ですっっ、隊長‼」
崇拝する隊長に褒められた感激に、青年はビシッと過去最高の敬礼をキメた。
隊長(中身はアンドレ)は彼にニッコリ頷いてから、アンドレ(中身はオスカル)の前に立って廊下を歩き始めた。
その姿を見送りながら独りごちるジルベール・セルジュ。
〖いいなあ…アンドレのヤツ。いっつも隊長を見ていられて……〗
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〖単純に考えれば…〗
足早に司令官室に向かう揺れるブロンドを見下ろしながら、オスカルは思いを巡らせた。
〖万が一、入れ替わった体が元に戻らなかったとしても、わたしとして振舞うのは、おまえにとって難しいことではないかもしれない。
このように、おまえは常にわたしの後ろに…隣に…寄り添い、幼い頃からどんな見聞も共にし、共感も異論も、何もかもをあるがままに分かち合い・ぶつけ合ってきたのだから〗
その時、ふっと右膝のあたりを何かが掠めた。
視線を下げると、自分の体が提げているサーベルだとわかった。
〖サーベル…か〗
思考が重苦しく暗い色に塗りつぶされていく。
〖サーベル…銃…軍人装備……
わたしは…軍人なのだ…な……
あ…あ、アンドレ……
このような情勢下での出動を指揮するなど…そのような非情な役回りをおまえに背負わせたくはない〗
「オスカル」
不意に呼びかけられて、オスカルは我に返った。
「え?」
「さっきのポシェットから司令官室の鍵を出してくれないか」
「鍵……? ああ、鍵か」
深刻な状況であるにも関わらず、つい笑ってしまった。
「誰かが通りかかって、隊長が隊員のポシェットに手を突っ込んでいるところなんぞ目撃したら、さぞ目を剝くだろうからな」
「うん、そーゆーコト」
ポシェット内にひとつ残った鍵を指で探って凹凸部分を確かめ、ドアノブの位置を頼りに鍵を差し込んで開錠する。
その滑らかな動きに感嘆して、アンドレは思わずひゅうと口笛を鳴らした。
「おっ、おまえ…、完璧に見えてるようにしか思えん」
「だから、さっき言っただろう。
わたしの順応力と空間把握能力を侮ってはならん、とな」
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さて。
軽口の応酬もどこへやら、アンドレは司令官室に入るや否や、脱兎の如くテーブルセットに駆け寄り、2脚の椅子を両脇に抱え大鏡の前に向かった。
椅子を置くのも もどかしく、ものすごい勢いで鏡を覗きこむ。
《イメージ映像😝》
(愛蔵版『ベルサイユのばら』第2巻208ページより)
「なにをそんなに焦っている。
施錠くらいしろ、うっかり者めが」
オスカルの呆れ声に答えることもできず、アンドレは 只々ひたすら鏡に見入っている。
そこには、数年ぶりに 両目で・くっきりと 見ることのできる最愛のひとの姿があった。
これまで見たどんな姿よりも格段に美しく、光を放つそのひと。
我知らず鏡に手を伸ばし、愛してやまぬそのひとの、髪に…目に…頬に…唇に…触れる。
〖オ…スカル……オスカル……
ああ…あ……
なんとい…う…美しさだ……〗
『さらば! もろもろの古きくびきよ -12-』に続きます