1789年7月11日~13日のできごとを、原作に乗っかりまくりつつ、このブログで

書いてきた  こじつけ解釈・強引深読み  をめいっぱいぶっこんで、二次創作を書こう

と思い立ちました💦 我ながら、むっ無謀すぎる企て!!

 

なんとか、予定の 2023/8/26 に第1回を掲載できました😄

(第1回だけで頓挫してしまう可能性も...😓😓😓)

 

※ちなみに。あらかじめ申告しておきますと、お姫さま抱っこ⇒翌朝の場面は

 ワタクシ如きがちょっかいを出してよいものではございませんので😥、

 みなさまのお手元の原作をご覧くださいますようお願い申し上げます💗

 

 

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「…ん? オスカルが呼んでる」

 

枕元の椅子でそう言い出した孫に、大きなベッドにちんまり埋まっている祖母が顔を向けた。

「え? あたしにゃ、なんにも聞こえなかったけど? 空耳じゃないのかい」

 

「違う。確かに呼んだ。…何回も呼び続けてる!」

 

早や立ち上がっている孫につられて、祖母も上半身を起こして耳をすませたが、やはりオスカルの声は聞こえない。

「こんな役立たずの体になっちまってはいるけど、まだ耳は確かなんだけどねえ」

 

「ごめん、おばあちゃん。おれ行ってくる。オスカルの声、苛立ってきてる!」

祖母はぐすっと鼻をすすって、こぼれかけた涙をシワだらけの手でぬぐった。

「ふう…、おまえにゃ聞こえるんだねえ…。なら早くお行き。お嬢さまをお待たせしちゃいけない」

 

足早にドアに向かう孫の背に、祖母は急いで声をかける。

「階段は、ちゃんと手すりに手をかけながら降りるんだよ! もう うっすらとしか見えてないんだろ?」

 

「わかってるって。じゃ、晩メシの時までには戻ってくるから」

戸口で振り返った孫は、おぼろげに目に映る祖母の顔のあたりに、安心させるように笑いかけた。

 

「いいよいいよ、おまえの晩ごはんなんてお嬢さまのご用をしっかり勤めてからで。あたしゃ、おまえなんか待ってないで、おなかが空きゃ自分の分はさっさと食べちまうから」

「ははっ、そんな小っこいのにおばあちゃんの食欲は半端ないもんな。おれの分まで平らげちまわないでくれよ」

「ああもう、ああ言えばこう言う! おまえの晩ごはんなんて、この枕で十分だよっ!」

 

孫に枕を投げつけようとする祖母に、孫は声音をやわらげた。

「ほら、もう横になって。投げた枕を拾ってベッドに戻すハメになるのは目の不自由なおれなんだからさ。その分オスカルを待たせることになるけど、それでもいいの?」

 

オスカルという最強の切り札を絶妙な手際で繰り出してくる、かわいくない孫。

(本当は、そういうところも、誇らしく かわいくてならないのだが)

 

「ふん。とっととお行きっ!」

祖母は捨てゼリフとともに枕をパフンと戻し、小さな手でシーツを頭の上まで引っ被った。

 

祖母が身を横たえるのを確認してから、孫は部屋を出て…、閉めたドアに背を凭せかけて独りごちる。

「ごめんよ、おばあちゃん。オスカルとのこと、言えなくって…」

それは、祖母の部屋を出る時、この数週間、毎回繰り返すつぶやきだった。

 

この家の嫡子と相思相愛になったなどと、祖母にだけは知られるわけにいかない。

主家第一・お嬢さま第一の祖母にとって、あろうことか自分の孫が、男と女として、その大事なお嬢さまと愛し合うなど、主家への背信ともいえる所業と映るのだろうから。このことで祖母の心に負担をかけることになりたくない、今はまだ……。

 

彼はかぶりを振ってドアから身を離し、オスカルの声が聞こえたほうへ、飛ぶような勢いで走り出した。

 

 

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「なにか?」

 

庭に面した回廊に彼が姿を現すや否や、オスカルが強張った声で告げた。

「パリへ… 出動命令が出た。7月13日、テュイルリー宮広場だ」

 

「え?」

彼は瞠目した。ついに……!?

 

「2個中隊を選ばねばならん。将校は全員、本部に集まるよう連絡をとってくれ」

彼から顔を背けるようにして指示を出すオスカル。

 

「命令に……従うのか…?」

ついに訪れた【この時】をオスカルがどのように受け止めるかを探るように問うアンドレ。

先月の件に続いて命令拒否を重ねる、そんなイタチごっこはもうしない…と?

もしかして…命令に従ってパリに向かい、そこで……?

 

束の間 沈思してから、彼に背を向けたままオスカルは答えた。

「〝出動〟だ。〝進撃〟の命令ではない。心配するな、ただのデモンストレーションだろう」

 

だが、敢えて こともなげに言ってみせるオスカルに唯々諾々と頷く彼ではない。

こんな一触即発の情勢で、そのような楽観が通用しないのは明らかなのだ。

彼は口を開いた。

「オスカル。おれに…馬をくれ」

 

彼のことばが耳に入るや、オスカルには、反射的に軍人として習い性となった意識が働き、兵を危険に晒さすことを拒むことばが迸った。

「ばかをいえ!! そんな片目でパリへ連れていけるか! おまえは残れ!!」

愛蔵版『ベルサイユのばら』第2巻 424ページ

 

アンドレの反応は激烈だった。

近頃はあまり声を荒げることのなくなった彼が、オスカルの上腕を掴んでガッと振り向かせて引き寄せ、切迫した感情もあらわに声高に叫ぶ。

「冗談ではないぞ! おれを連れていかないなら おまえも行かせない!

行かせない ぜったい!!

愛蔵版『ベルサイユのばら』第2巻 425ページ

 

腕を掴まれたまま、オスカルは、有無を言わせぬ、射るような視線を注いでくる彼を、ことばもなく見つめ返した。

 

 

彼女は……思い出した。

あ…あ、そうだった。既に幾度もおまえと話してきたのだった...

...わたしは言ったのだった…な。

━━わかっているはずだ…もはや出動が何を意味するか

━━パリは武装した市民であふれ...

━━広場という広場は国王の軍隊であふれ...

おまえは強い意志に満ちた声で答えてきた。

━━連れていけ連れていけ地獄の果てまで

━━おれはおまえの影だ

そして……、その時が来たら、何があろうとも…どんな道を選ぶことになろうとも、ともに行く…、決して離れない…と、ふたり固く誓ったのだった、な...

 

「すまなかっ…た。好きな馬を選んでくれ」

まっすぐに彼のまなざしを受け止め、オスカルはもはや迷うことなく答えた。

 

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「痛いぞ、ばか力め」

まだ上腕を強く握り締めている彼を、笑いを含んだ声が咎めた。

「あ……、悪かった」

汗びっしょりの掌を彼はやっと緩めた。

 

実のところ本当に痛かったので、掴まれていた場所をさすりながら、

オスカルは、ふたりが立っている回廊の手すりに向かいながら尋ねた。

「ばあやの…様子はどうだ?」

「さっきは、まあ上々だった…かな。体を起こして話もできたし…」

アンドレはくすっと笑って続けた。

「おれに枕を投げつけようとしたくらいだ」

 

手すりに斜めに寄りかかったオスカルは、彼を軽く睨んでみせる。

「ばあやをあまり刺激するな。今、血圧が上がってしまったらどうする」

「加減は心得えてるさ。おれのおばあちゃんなんだぞ」

睨まれていることまでは見てとれていないアンドレは屈託なく答え、オスカルの頬を

指先でチョンとつついた。

 

オスカルは、頬に触れた彼の指を捉え、一瞬きゅっと握り締めた。

「アンドレ……。では、明日の早朝に…」

 

ややあって、絞り出すような彼の声。

「ああ」

「一緒に行かれればよいのだが…。この差し迫った状況では…わたしひとりで行くしかない…な」

「すまない。朝メシの時におれがいなかったら、おばあちゃんが不審に思うだろうからな」

彼はやるせないまなざしを虚空に向けた。

 

「遠い目をしている……」

オスカルに指摘され、アンドレの顎がピクと引き締まった。

視力がかなり低下していることを、なんとしても彼女に悟られてはならない。

そんなことになったら、"決して離れない" と、どれほど固く誓い合っていようとも、一緒に出動するなど、彼女が承服するはずがない。

 

だが、"もし何かあったら…" と案じながらじっと待つことなどできる訳がない。

もしオスカルの身に何か起こった時、彼女と離れて安閑となどしていられる訳がない。

もし、ひとり出動したオスカルがその場で意を決してしまったら、行方を知ることもできなくなって…再び相まみえる手立てが閉ざされてしまう恐れだって多分にある。

そんなことに耐えられる訳がない。

なんとしても、目のことを気取られず、一緒に出動せねばならない。

 

 

幸いなことに、既に彼の胸に背をもたれさせていたオスカルは、それ以上、彼の視線の不自然さに気づくことはなかった。

彼女は、アンドレの左手と自分の右手の指を絡め、彼の手から安らぎを得ようとするかの如く、自身の心臓の上に押し当てた。 

愛蔵版『ベルサイユのばら』第2巻 427ページ

 

「おまえは…なぜそのようにいつも落ち着いていられる…

不思議なくらいおとなしくて ひかえめで…… はじけなくて……」

 

アンドレは、今度は全身をピッと引き締めた。

彼の大きな手はオスカルの心臓の位置をはみ出し…、柔らかな双丘の内側に触れていたからだ。

 

いっいや、オスカル…! おれは今、おっ落ち着けてなどいないぞ…っ!

おまえ、コルセットはどうした!? 暑いからってもう外してしまってるのか!?

あああ、躰の奥のほうから熱っぽいものがこみあげてくる!!

鳩尾の辺りで蝶が飛びまわっている! 頼むから今は羽ばたいてくれるな、おれの躰の中の蝶々よ…っ!

 

彼が 躰を横にずらして こころもち身を離すと、オスカルは彼を逃すまいとするかのように、横並びになった彼の躰に腕をまわし、さらにぴったりと寄り添ってきた。

 

「おまえのただひとつの目は千の目のように何もかもを見ている」

 

ううっ、おまえの目はなんにも見えていないぞ、オスカル!

おれの両こぶしがぶるぶる震えてるのが見えてないだろう!

このままおまえを抱き上げて褥に飛び込んでしまいたいのをどれほどこらえているか、おまえ…おまえわかっていないだろう!!

ああっ、愛している… そういう鈍感なところもひっくるめて おまえを愛している、オスカル!!

 

実を言えば、いくら奥手の彼女だとて、ぴったり触れ合っているのだから、彼がどういう状況にあるかは察していた。

察した上で、それでも尚、離れたくなかった。

硬くてたくましい躰を力の限り抱きしめて飽くことなく唇を貪り、そのままひとつに溶け合ってしまいたかった。

 

「では、わたしのわがままを聞いてくれ。

わたしが臆病者にならぬよう、しっかりとそばについていてくれ」

 

ああっ、愛している… 愛している、わたしのアンドレ…!

おまえはわたしの命の源…わたしの命の光。

おまえなしでは、わたしはどこへも行けない……
一緒に来てくれ、それが地獄の果てであろうとも。

そして…、走り続けて疲れ果て、一歩も進めなくなったなら……おまえのあたたかい腕に包んで眠らせてくれ。


「おまえはかぎりなくあたたかい……」

 

あ…あ、だが今は今は…… アンドレ…おまえの躰、あたたかいどころか、燃えるように熱…い!

オスカル…! おまえの躰……熔けそうなくらい熱い…ぞっ! おまえ…どこまでおれを燃え上がらせようっていうんだ!

 

ふたつの躰が同時に動いた。

「ああっ、愛して…いる……っ!!」

 

時も場所も消し飛び、こらえきれずに互いの躰に腕を絡めあう。渾身の力を込めて愛してやまぬ者を掻き抱だき、飽くことなく唇を激しく奪いあい貪りあう

ふたりの脳裏に同じことばが明滅していた。

 

7月13日……あさって、出動。

 

 

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今宵。ふたりの熱愛光景に遭遇したジャルジェ家住人は少なくとも4人以上はいた。

 

ひとり目は、無念さを滲ませて瞑目し、さっと大股で踵を返した。

数人は、〝いつものこと〟と、見て見ぬふりで素通りした。

数人は、うらやましそうにうっとり見惚れていたが、キリがないので嘆息して立ち去った。

四人目は、哀しげな微笑みを浮かべ、この場所に人が来ぬよう指示を出すべく、邸内に入って行った...

 

 

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彼が祖母の部屋に戻った時、彼女は既に眠っており、彼はふぅと安堵の息を吐いた。

 

オスカルを部屋に促してから、自身はしばらく庭をそぞろ歩いて火照りをさましては来たが、それでも、あの激しい抱擁の後で祖母と話をするのは気が咎めた。

また、あさって出動のことも、今夜 不用意に洩らすことなく、あすの最終確認後オスカルが告げるという、ふたりで打ち合わせた段取り通りにできる。

 

燭台の置かれた枕元のテーブルに顔を寄せ覗き込んでみると、祖母の分の食事は完食されており、そのことも彼を安堵させた。

 

 

手早く自分の食事を済ませると、彼は食器をワゴンに移して厨房に運び、自室へと戻ってきた。

 

テーブルについて燭台を灯し、部屋の中を見回してみる。

物の輪郭はおぼろげながらも見て取れる。…が、燭台の灯りでは細部は識別できない。

 

蝋燭の仄灯りの中、愛するひとのやわらかな双丘に触れ、すべらかな指と絡め合った左の手指を目の前にかざし…握り締める。

 

望むことはわがままなのか……

愛しあっているなら…からだを重ねたい

オスカル…おまえと契りたい……!

気の遠くなるほど自分をおさえてきた

つきあげる熱いものを押し殺してきた

おれには過ぎた望みなのか……

オスカル……おまえが…ほしい……!!

 

 

 

 

『さらば! もろもろの古きくびきよ -2-』に続きます(……たぶん💦)