1789年。とある初夏の1日の、オスカル・フランソワさまのモノローグ。

 

(※『☆新たなる地獄への旅立ち❻【お、おれを……おまえが…?】』

 対(ツイン)をなしております)

 

前半部分で、テレパシーという飛び道具を使ってしまいました😓

テレパシーなど持ち出したら、なんでもアリの陳腐な超駄文になってしまうことは

重々承知しつつも、ハナシの筋をつなぐ都合上、苦肉の策でこのような仕儀と相成っ

ております...💦💦💦

 

 

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おまえがわたしの傍から身を引こうとしていた理由はもうわかった。
〝わたしには想う男がいる〟なんぞと思い込んでいるためなのだろう?
ならば、今からわたしがすべきことは、そんな男は世界中隈なく探しても
ひとりとしていない
──それをおまえに納得させることだ。

芝草の上で跪いているおまえのすぐ前までゆっくり歩み寄る。
「アンドレ、おまえが聞きたいのなら特別に答えてやる」

子供の頃、〝ひみつ会議〟と称してヒソヒソ話をした時と同じように、わたし
は、しゃがんで膝頭の上で腕を組んだ。

こんなふうに間近で正面からおまえと目を合わせたのは、今日これで4度目だ。
 ──朝、兵舎の廊下でわたしをまっすぐに見つめ返してくれた時。
 ──その後、司令官室のわたしの机で、強い意志を秘めた視線を注いできた時。
 ──家路への馬車に乗った刹那、おまえの指に唇を押し当てた時。

それ以外は、ここしばらくずっと…昨日まで、間近で正面からおまえがわたしを
見てくれることはなかった

今夜この場で、そんなもどかしい状況を断ち切ってみせる。


「誰であれ、結婚話だの恋愛ごっこだの、そんなもの、わたしは要らない。
半身のおまえがいつもそばに居なければわたしは酸欠になってしまうが、
他の男が、始終、目の前をウロウロしているなど、想像するだけで、
うっとおしくて悪寒がする。結婚なんぞ論外だ。
心配には及ばん、アンドレ。
わたしは、自分の心にこの上なく正直に生きている。
おまえが居てくれれば何の問題もない。
どうだ? これで納得できたか?」


膝頭の上で組んだブラウスの両袖に、熱い粒がポトポトッと落ちた。

なぜ…涙……が?
ありのままを語っただけなのに...
それなのに…なぜだろう アンドレ…?

 ┌──────────────┐
 │〝愛して…いるのですか……〟│
 └──────────────┘

頼むから…出しゃばらないでくれ、ジェローデル。
わたしはアンドレに問うたのだ。キミの出番ではないのだよ。


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一見 氷のようにひややかなくせに…… 
胸の中はまるで炎のように燃えさかっている
血の気の多い激しさ…… おれは…そんなおまえが好きだ

🍇🍇🍇🍇🍇🍇🍇🍇🍇🍇🍇🍇🍇🍇🍇🍇🍇🍇🍇

あ......

...しかし…それを言うなら、おまえとて...
一見、凪いだ水面のように穏やかなくせに、
胸の中はまるで炎のように燃えさかっているではないか。
滾る血の激しさ…… そんなおまえを知ってしまったわたしは…
わたしは......

そ…うだ。気づいたのはいつの頃だったろう……わたしの中で煌々と
炎が立ち昇る時、その炎の中には、おまえの姿が…声が…揺蕩っている。
今日だとて、おまえの一挙手一投足に、幾度 心が昂ぶり、ときめいたり、
熱くなったり、涙しそうになったことか...

〖おまえのまなざしの先にいた男は、おれ…なのか?〗 
〖おまえの心をざめかせている男は、おれ…なのか?〗
〖オ…スカル... お、おれを……おまえが…?〗


いきなり直球を投げられ、わたしは狼狽のあまり目を見開いて固まって
しまった。

   🌹🌹🌹🌹🌹

......え…? いや、ちょっと待て!!
 おまえ、口を閉じたまま、今どうやってしゃべった?
...まさか……腹話術?
...いや、おまえの声が聞こえたのは…気のせいだったのか...

固まったまま、この不可思議を問い返すことも忘れ、
まじまじとおまえの目を見つめることしかできない。
見つめていると、その瞳の漆黒に吸い込まれそうになる。

あ…あ、いつだってそうだった。
アンドレ…わたしの目が惹き寄せられてしまうのはおまえ…
わたしの心をざわざわと波立たせるのはおまえ…
教えてくれ…毎朝、おまえが姿を見せると世界が色づいて輝き
始め、帰宅しておまえが離れていくと、夜の暗さが一層増して

しまうのはなぜ…だ……?

〖おまえが…おまえが愛しているのは、このおれなんだな!?〗

わたしの目を食い入るように見つめていたおまえの頬に涙が一筋伝った。
……と思うや、見る間に、滂沱となって溢れ出した。

一体どういうことだ!?
もしかして…聞こえていたのは、おまえの声無き声だったのか?

わたしが心の内で問うたことも、おまえに聞こえたのか?
まさか! そんなばかな!! そんなことがある筈ない!!

落ち着け、わたし!
──〝武官はどんなときでも感情で行動するものじゃない〟──
かつて、おまえがそう言った。そうだ、その通りだ。
混乱して乱れまくっている≪感情≫の扉をしっかり閉め、
理性を保って、沈着冷静にこの状況に対処せねば。

「アンドレ、何をそんなにボロボロ派手に泣いている? 
わたしが言ったことにそんなに感動したのか? ん?
わたしも、自分が語ったことがあまりにも正鵠を射ていること
に感動して、思わず自分も涙してしまったくらいだからな」

だけど...
アンドレ、アンドレ…おまえがそんなふうに泣いていると、
わたしはどうしたらよいかわからなくなってしまう。
胸が締めつけられて、何をどう言えばよいのかわからなく
なってしまう。

だめだ! ≪感情≫の扉を、もう一度、厳重に閉めなおせ!! 
軍人ならできる筈だ。
いかにもわたしらしいシニカルな顔を作れ。

「それとも、わたしに言い負かされたのがくやしいのか?
…ふふ、冗談だ。わたしのアンドレは、わたしに負かされた
くらいで泣くような意気地なしではないからな」

何を言っているのか我ながら支離滅裂だが、言ってしまった

ものはしかたない。
とっ…ともかく、まずは涙を拭いてやらなければ。

「ほらほら、涙を拭いてやるから、もう少し顔をあげろ」


...んっ? おまえ、顔が熱いぞ。なのに…震えている?


「なんだ。おまえ、震えているではないか。
寒いのなら、今、上着をかけてやるから待っていろ」

ブランケットに置かれたおまえの上着にわたしが手を伸ばした時、
横からおまえの掠れ声が聞こえてきた。

「あ…え……っと。上着は、その、か、かけてくれなくてい…い」

あっ…やっと声を出してしゃべってくれた!
だが、その掠れ声... 顔が熱かったし、震えているということは...
もしや…もしや、おまえ......
風邪をひいたのではないか?

「そうなのか? では、腕と背中を擦ってやろうか?」

そう言った途端、おまえがものすごい勢いで立ち上がった。
「だめだ! そんなことされたら震えがもっとひどくなってしまう!」

おまえに向かって伸ばしていた手をガシッと掴まれ、
沈着冷静の鎧がポロッと剥がれて、
「あ...」 と、か細い声が洩れてしまった。

戸惑っておまえを見やると、確固たる意志と気迫に満ち溢れている。

〖半身のおまえも、女のおまえも、全部ぜんぶ、おれが受け止める!〗
〖おれが…このおれが全部受け止めるぞ、オスカル!!〗


まただ…また聞こえた... 
やはり間違いなく、おまえの声なき声がわたしに聞こえているのだ。

その声無き声で、〝わたしたちは互いの半身なのだ〟と、もはや一片の

躊躇もなく、おまえが認めたことがわかった。

先程までの、自分を押し殺していて もどかしかったおまえは掻き消え、
もうどこにもいない。
風邪をひいたような弱々しいおまえもいない。

   🌹🌹🌹🌹🌹

...だが…… ≪女のわたし≫…?
≪女のわたし≫ を、おまえが受け止める…?
その意味がわからず、掴まれた手首に目を落としたその時。

「愛している!」
おまえの声がほとばしり、
わたしの手首を掴んでいた大きな手に力がこもって一気に引き寄せられ、
あっという間に、わたしは横抱きにおまえの胸に抱え込まれた。

えっ?えっ?えっ!?
うわ! しっ、しっ、心臓が破裂するっっ!!
ああっ、おまえの香りに包みこまれて頭がくらくらする…っ。
何も考えられない。
躰にも、力が…入らない...
くたっとした躰を、おまえが更にしっかりとその胸に引き寄せてくれた。
ぴったり密着したおまえの胸から早い鼓動が伝わってくる。

あ......
わたしは今、おまえの腕の中に...
おまえの胸…こんなに広かったのだな...
わたしの何もかもがやわらかく熔けていく...

このまま寄りかっていてもいいか…アンドレ? いいのだよな..?
目を閉じて、このままずっと、おまえだけを感じていたい...


「愛しているオスカル!!

ああっ…愛している愛しているっっ!!」
抱きすくめられた躰にじかに響きわたるおまえの声。
...そうか…これが、≪女のわたし≫ が、今おまえに受け止められて
いる…ということなのだ…な...?


「そんなこと... し、知っている...」
いや、≪知っている≫つもりだったのだ…頭では
けれど、≪愛される≫ということが どういうものなのか──、
≪おまえに愛されている≫ことが、どれほどの至福であるのかを──、
本当にはわかっていなかった自分を、今、わたしは知った。


「あ... ん、そうだよな。 ...で、おまえは?」
わたしの耳に唇をくっつけて、おまえが熱っぽく囁いてくる。
ああ、きっと耳が真っ赤になっている...


それで...
わたしは...
ああ、なんと答えれば...
おまえにヘタなごまかしは効かない...
いや、おまえに薄っぺらなごまかしなどしたくない...
となると...
言えるのは...


「それが... よくわからないのだ」


   🌹🌹🌹🌹🌹


「〝よくわからない〟って、何なんだ!?」
おまえをそう叫ばせてしまった😔

すまない、アンドレ......
"よくわからない" としか答えられない自分が歯がゆくてならない。

なぜなら…なぜなら、恋というのは、苦しくて、辛くて、悲しいものの筈だ。
こんなふうに、ショコラが躰に沁みわたるような、熱くて甘いものの筈がない。

愛というのは、相手に手が届いてしまったら、そこで完結するものの筈だ。
すぐ傍らにあるのに、"何度でも確かめたい"、"まだ足りない"、"もっとほしい"
などと、ひとを貪欲にしてしまうものの筈がない。──今のわたしのように──

   🌹🌹🌹🌹🌹

おまえの腕から力が抜けてしまったため、横抱きにされていたわたしは
体の平衡を失って仰向けに倒れ落ちそうになった。が、咄嗟におまえの
上腕を掴んで体勢を立て直し、自力で立つことができた。
軍人の反射神経と瞬発力を、こんなところで生かしたくはなかった...

アンドレ…。これが普通の女だったら、地面に倒れ落ちて昏倒する羽目に

なっていたぞ。
まあ、おまえもかなり運動神経はいいから、女が地面に落ちてしまう前に
サッと抱き留めただろうが…。 😨!…😱!!…😡!!!
その光景が脳裏に浮かんだ瞬間、わたしは、その女をおまえの腕から引っ
ぺがし、はるか彼方に力いっぱい投げ飛ばしてやりたくなった。
わたしのアンドレに引っつく女は断じて許さん!

   🌹🌹🌹🌹🌹

捩れたブラウスを整えるフリをして、割り込んできた不愉快な光景を脇に
押しやり、わたしは話しを続けた。

「うん... 実は、ジェローデルにも、おまえを愛しているのかと聞かれた
のだが、その時も、わからないと率直に答えるしかなかった」

わたしがそう言うと、おまえは虚空に遠い眼を向けた。
おまえがジェローデルに妙なシンパシーを持っているような気がする。
おまえ…あのワインの件以来、本当に変わったな。

「さっき、ジェローデルのことを話した時、それを思い出して再度じっくり
考えていたのだが、やはりわからなかった。 だけど...

おまえの唇に、どうしようもなく視線が引き寄せられる。

「あ…あの...。 く、くちづけしてみたら...わかるかもしれない」

抑えきれずに、とうとう言ってしまった。
目のまわりからだんだん火照りが広がっていく。

「なっ、なんでいきなりそうなる!」
「おまえは...わたしと、くちづ…あ…その...キスしたくないの…か?」
「したい!!」

間髪入れず返ってきた超即答に胸が弾んで…ああ息が止まりそうだ💓

「そ…れなら、お願いだ。アンドレ...」 

知らず知らず、躰がおまえのほうに傾き、見えない力に引き寄せられるよう
に顔が近づいていってしまう。
おまえの大きな掌がわたしの頬を包み、おまえの唇がわたしの唇にすぅっと
近づいてくる。
ああ……もうすぐ…もうすぐ...
わたしは期待に胸を高鳴らせながら、ゆっくりと目を閉じた。
わたしの知っている唇は…熱っぽくて弾力があって...


んっ? えっ?えええっ!?
わたしの頬を包んでいた掌の熱さが引き剥がされるように離れ、おまえが
躰を引いてしまった!
なぜ!? どうしてだ!?

   🌹🌹🌹🌹🌹

大きく息をついたおまえが、再びわたしの頬を両掌で包んだ。

「オスカル。おれには、おまえほどかけがえのない大事なものは他にない。
だから、おまえが自分の気持ちを掴み切れていない こんなあやふやな状況で
なりゆきに流されて突っ走って、≪あの時≫の二の舞を踏むことになりたくな

い。どんなにおまえの唇がほしくても、今はだめだ。わかってくれ」

わたしを大切にしてくれているのはわかる。
わかるし、心震えるほどうれしい。だけど…だけど……

「だ、だから、キスしてみればわかるかもしれない、と…いっ言っている
ではないか」

「わからなかったらどうする? ずっとこんな中途半端な状態が続いても、
おまえはそれでかまわないのか? 正直に言う、おれには無理だ。
おまえの唇は甘い蜜だ…おれはそれを知ってしまった。唇を重ねてしまっ
たら、もっともっと…と、その先にある痺れるような甘さがほしくなるの
を止められない。止められなくて、きっとおまえの望まないところにまで
踏み込んでしまう」

わたしの望まないところ…?
おまえが言っているのは…つっ、つまり……わたしの…かっカラダに触れる…
とか、おっ押し倒す…とか、むっ無理矢理そういう行為に及ぼうとするかも…
とか、そういうこと……か?

≪あの時≫の残像が、脳内で鮮烈な極彩色で明滅する。目の奥で火花が散る。
鳩尾がドクドクと血流の音をたててうずく。

目の奥で散った火花が、ボッと激しい火柱を立てた。

わたしが望むか望まないかなど、おまえが勝手に決めるなっっ!
愛している愛しているとあんなに連呼しておいて、キスするくらい怖じ気づくな!
キスして襲いたくなったなら、襲ってみろ!! 
おまえに襲われたとて、もはや怖くなぞない。望むところだ。
今のわたしは狼狽えて逃げたりせん、しかと受けて立ってやる! 
なんなら、おまえを組み敷いて、今度はわたしがおまえのシャツを引ん剝いて

  〝まいりました😭どうかやさしくお願いします🥺

くらい言わせてみせるわっっ!!
...とまでは、さすがに口に出せないので😥、眼に一撃必殺の気合をこめて、
目の前のヘタレ男に喝を入れてやった。
 
「黙って聞いていればなんだ! どの口がそのようなことを言うっ!!
いきなり愛していると言い出して、驚いてドン引きしているわたしに強引に
キスしてきたのは、どこの誰だ!」

「だ・か・らっ! その時の悔恨を深ぁ~く肝に銘じているからこそ、だ!」

くっ、コイツは穏やかそうに見えて、こうと思ったらテコでも引かん頑固な
ところがある。まあ、そうでなければ、口さがない者どもの言う ≪暴れ馬の
手綱取り≫
など、二十何年もやってこられなかっただろうが。
やむを得ん、攻略ポイントを変えよう。

「ふぅ…ん。もうひとつ前科があることをお忘れかね、グランディエくん」

「うっ! そ、そ、それは...... すまんっ。ズルも、もうしない!」

ああもう、また仕損じた!
しかし、おまえもおまえだ! そこは謝るところではないだろう!!
わたしがあまりにもいじらしく思えたから…とか、あまりに愛おしくて…とか、
さんざめく星に照らされたわたしに酔ってしまって…とか、ポエム好きのおまえ

らしく滔々と語って、わたしを蕩けさせる絶好のシチュエーションだろうが!

とはいえ、わたしにキスしたい!と超即答したにも関わらず、おまえは、
わたしが自分の心を見極めなければ ≪Non!≫ だと断固として言い切った。
いよいよ、わたしも自分の気持ちをはっきりさせるために超真剣に取り
組まねばならぬ時が来たようだ。
わたしは唇を噛んで、右に左にと行き来しながら、しばし思案した。

   🌹🌹🌹🌹🌹

「よし。それなら、こうしよう、アンドレ。親愛のハグならどうだ?」


「え? おまえ、なんか話がずれたぞ」

「ずれてなどいない、最後まで聞け。打開策を提示しているのだ。
愛しているかどうかなど、頭で論理的に考えたところでわかるものでは
ない。それは認めるか?」

「それはそうだ。認める」

「よろしい。わたしとて、ジェローデルに聞かれてから、さんざん考えた
のに、まだわからないのだからな。
一方で、これまで通りの日常を続けていたのでは、やはり、結論を得るに
足る手がかりは望めない。どうだ、これは認めるか?」

「確かに。それも認めざるを得ない」

「それならば、愛しているかどうか、わたし自身が見極めるためには、

日常を超える行動変革が必要だ。そして、その行動変革にはおまえの協力

が不可欠だ。協力というより、わたしたち双方にとっての重要課題なのだ

から、共同作業だ。これらを踏まえると、だ。まずは、大人になるととも

に途絶えて久しくなってしまった〝親愛のハグ〟から始めるのが妥当だ。

そう わたしは考えるわけだが……どうだ、アンドレ」

息を詰めておまえの答えを待つ。


「・・・」  まだか…?  3秒くらい経ったぞ?

「・・・」  いつまで考えている…?  もう5秒は経ってないか?

「・・・」  お願いだっ!〝うん〟と言ってくれ…っっ!?  既に…6秒…?

「・・・」  また仕損じたのか…わたしは……?  7秒は経ってしまった😥



「親愛のハグ…か。 ...よしわかった。交渉成立だ」

✨✨✨やったっっ!!!✨✨✨

からだ中に歓喜の鐘が高らかに鳴り響く。


「なら…善は急げ、だな」
おまえがわたしの片頬に掌を添えてほほえみかけてくれる。
 

あっっ……
何かが……
わたしの中で……
決壊した……!


あああ…っ! この掌とほほえみを持つこの男が、愛してくれるなら、

傍で共に生きてくれるなら、わたしはもう何を投げ捨ててもいい!!

   🌹🌹🌹🌹🌹

あ... ...
おまえの両腕が…わたしに向かって…差し伸べられている......

「おいで、オスカル」


甘く誘いかける声が熱いショコラのように躰に沁みわたり、じわっと涙が滲む。

無我夢中で、招かれたその場所に突進し、たくましくて硬い躰にしがみついた。
ば…か……そんなにいい体躯をして…これしきのことでよろけるな。
しっかり踏ん張ってわたしを受け止めろ。

もう決しておまえを逃がすまいとぎゅうっと腕を巻きつけ、滲んだ涙をおまえの
肩にぐりぐり押しつけて拭った。


「お帰り、オスカル。ここがおまえの居場所だよ」

うん、ただいま♬ 今戻ったぞ。待たせたな アンドレ。
そう答えたいのに胸が詰まって声が出ない。
代わりに、おまえの肩の上でコクコクッと頷いた。

わたしの躰は帰るべき場所の扉を見つけられずにそのまわりをウロウロと
さまよい、今ようやくその扉を開けて安息の地にたどり着いた。
だが、魂はずっとここにいた。そうだろう、アンドレ?

おまえがわたしの背にゆるく腕をまわして、幼な子をあやすように小さくそっと
揺らしてくれる。
おまえは馬車をゆりかごにしてくれたが、わたしの本当のゆりかごは、おまえ
そのものだった


「おまえを愛してるよ、オスカル」

知っている。

知ってはいたが、自分がどれほどそれを切望していたか、今夜やっとわかった。
...どうしてこんな軍人ばかを愛せるのか不思議でならないが。

そして、な……アンドレ...
驚くなかれ、こんな軍人ばかが、なんと、おまえに恋焦がれる女になってしまっ

たぞ!💗
そう告げて、もっと強く抱きしめてほしいのに、胸がいっぱいで声にならない。
代わりに、おまえの肩の上で、またコクコクッと頷いた。

「…で、おまえは? オスカル」
また、おまえが、わたしの耳に唇をくっつけて熱っぽく囁いてきた。

「そ、そんなにすぐわかるものか!」 


ああっ、何と言えばいいのかわからなくて、プィッとそっぽを向いてしまった。
臆病な自分がもどかしくて、おまえのシャツの背をきつく握り締める。
もう少し…もう少しだけ待ってくれ、アンドレ。
がんばるから。ちゃんと言えるようにがんばるから...

親愛のハグ……我ながら効果絶大であった。
軽々と親愛の域を跳び超えてしまった。

   🌹🌹🌹🌹🌹

「アンドレ」
「ん?」
「どうしても、キスは無しか?」

ううっ、せっかく思い切って口を開いたのに、なぜかまた、ことばを
ごまかしてしまった。
キスということばは言えるのに、なぜ、あのことばは素直に口にできない!?

「無し。おまえがおれを愛してると、自分自身にしっかり認めるまで。
但し、口先だけで言っても、おれにはすぐわかるからズルは無駄だぞ」

もはやズルなどする必要はまったくない。必要なのは勇気だ。
くそっ、数知れぬ修羅場をくぐり抜けてきたこのわたしが、たった一言を
言えずに逡巡する体たらくとは...



💚💚💚 げに恐ろしきもの、汝の名を恋という 💚💚💚


   🌹🌹🌹🌹🌹🌹🌹🌹🌹🌹


「オスカル。お屋敷に戻る前に、
この子達全員をもう一度しっかり見ておこう」

おまえが、宙に、腕で大きな弧を描いた。

「この中でいちばん遅咲きの子がきれいに咲いてくれたとき、
その子は白ではなく薄桃、いや薄桃どころか、熱く燃えるような真っ赤に
咲き誇っているかもしれないぞ」

〝この中で〟って…。

そのような仄めかし、ヒネリがなさすぎて、ポエム好きの名が泣くぞ。

ふふん。遅咲きと言われようが、いっこうにかまわん。
わたしは世界中でいちばんいい男💗に恵まれた果報者なのだからな。

常に傍らにいる、世界中でいちばんいい男💗を見上げて、わたしはニッと
笑ってみせた。

「はて、わたしのアンドレがいちばん好きなのは白いばらだった筈だが?
その子が違う色になってしまってもかまわないのかね? んん?」

ただ、咲く前に硝煙の中で赤く染まるようなことにはなりたくない。
一分一秒でも長く、おまえとともにばら色の時を送りたい…と、切に願う。
そのためには、一分一秒でも早く、勇気を奮っておまえに告げなければ...


「白く咲いて赤く咲いても、ばらはばらだ。
熱く燃えるような真っ赤なばらが、どんなふうにおれを酔わせ狂わせ、
息もつけないほど溺れさせてくれるか、今から楽しみでならないな」

わたしの目を覗き込んだおまえの瞳が、その中に在るものを確かめて
歓びに満ちて煌めいた。


...んっ? ほんの一瞬だけ、唇をあたたかい何かが掠めたような...
今のは…キス? 
おまえという男はーっ! ケチすぎるぞ!
どうせならしっかりキスしろ!!


遅咲きの〝この子〟が何色に咲くのか…その唯一の目撃者となる
我が最愛なる半身💗…キスけち男に、わたしは心秘かに挑戦状を
叩きつけた。

おまえ、〝楽しみでならない〟と言ったな。
熱く燃えるばらの威力を侮らんほうがよいぞ。
そのばらには軍神マルスの魂が宿っているのだ。
性根を据えて受け止めんと、真っ黒に焼け焦げかねんことを
心しておくがよい───

 

 

 

 

『✿開花への新たなる旅立ち⑩ ≪愛と情熱の嵐≫』に続きます≫