1789年。とある初夏の1日の、オスカル・フランソワさまのモノローグ。

 

(※『☆新たなる地獄への旅立ち❺【心のままに羽ばたいてくれ】』

 対(ツイン)をなしております)

 

グランディエさんはオスカル・フランソワさまの分身です。
ジェロたんの洞察通り、それは間違いありません。
ただ、ここでは、分身ということばの持つ やや一方通行なニュアンス
異議を申し立て、
半身(ふたりでひとつ💞&双方向&お互いに同等)という

ことばにこだわるオスカルさまになっていただきました。
まあ、日本語のあやに過ぎませんが……(フランス人さんたちのお話なのに) 

 

 

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わたしが屋敷の南庭にあるばらの植え込みの近くまで駆けてくると、
おまえは地面に屈みこんでいた。
そんなふうに屈んでいるおまえを見ると、昔よくしたように、
「ア~ンドレっ♪」と、わっと背中に乗りかかって首にかじり
つきたくなるな。

だが、いち早くわたしの足音を聞きつけたおまえが背を伸ばし、
「なんだ、もう来たのか。早いな」と声をかけてきたので、
わたしはハッと我に返った。
待ちきれなかった上に、全速力で走って来たと見破られてしまった
かもしれない。少しばかり気恥ずかしくなって言いつくろった。

「わたしはおまえと違って俊足だからな。機敏な動きは軍人の基本だ」

「ハイハイ。軍人ばかサマの仰せ、まことに以てごもっとも。
朝ぶつけたつま先も何ともなさそうで、何よりでございます」

「つ、つま先💦 あれしきのことで どうにかなるほどヤワなわたしではない」

まだ気にしてくれていたのか? うれしくてキュンとしてしまう✨
おまけに、そのせいで、抱き留められた鳩尾がまたズキズキうずいて
きてしまったではないか💦
全力疾走した後、せっかく静まり始めていた心拍数が、またぞろ
跳ね上がってしまったぞ😥
実をいえば、今日一日、ふとしたはずみに あの時の感触が甦ってきて、
その度に、ドキドキしてひとり赤面していたのだが💦💦💦

もう近くまで来ていたので、地面に置かれたカンテラに照らし出されて、
おまえの顔が見えた。

ん? おまえ…そんな軽口をたたいているが、自分が今どんな表情をして
いるか、わかっているか?
目尻と眉毛が思いっきり垂れ下がって、口元がニヤけているぞ。

息切れの具合でわたしが全速力で走って来たことに気づいたらしいが、
それがそんなにうれしいのか、ふふふ。
メルシ…アンドレ。わたしの一生懸命さを見破ってくれて。
おかげで、おまえの偽らざる素の顔を垣間見ることができたぞ。

屈んでいたのはブランケットの四隅を留める重しを置くためのようだが、
上の空になった手元がふわふわして…、ああほら、今置こうとしている
重しは、既に置かれたものと同じ隅だぞ。
二つの重しがぶつかりそうになっているではないか。
このかわいいヤツめ。しかたないな、手を貸してやるか。

「ブランケットを留めているのか?任せろ。野営の設えも軍人の心得のひとつだ」

「いや、いい。おまえは先にばらを見ていろ」

ふふん。わたしと少し距離をとって上ずっている気持ちを静めたいのだな。
あのな、アンドレ…。おまえがわたしの言動を読めるように、わたしだって、
その気になれば、おまえの考えていることがわかるのだ。

...おまえに甘えきっていたために、そういう自分に無自覚だったことが、
今となっては悔やまれてならない。
もし、もっとおまえをしっかり見ていれば、おまえが自分を抑えきれなくなって
後悔するような行動に走ってしまう前に、少しはなんとかできたかもしれない
のに…な...
だが、今は…これからは違うぞ。
おまえが顔に貼り付けているおだやかな笑顔の仮面を剥ぎ取って、
その裏で何と闘っているのか、手遅れになる前に突き止めてみせる。
突き止めて、このわたしが、その≪何か≫を叩き潰してやる。

まあいい。一目散に駆けてきたわたしを見て喜んでいるのに免じて、
少しだけ時間の猶予をやろう。

   🌹🌹🌹🌹🌹

カンテラをかざしながら植え込みの周囲をゆっくり歩き始めたわたしは、
少し来たところで足が釘付けになった。

「アンドレ。せっかくブランケットを留めてくれているのをすまないが、
わたしはここに腰を下ろしたい。動かしていいか?」

「え? そうなのか? なら、予備のブランケットもあるから、飲み物と
一緒に持って、そっちに行く」

「予備のブランケット? どこまで気を回すのだ、おまえは」
この用意周到男め。

おまえが歩み寄ってきて、ははと笑いながら、もう一枚のブランケットを
広げる。

「物事には一切手を抜くなと、こわ~いおばあちゃんに骨の髄まで叩き
込まれているからな。現に、ほらな、こうして役に立っただろ?
向こうのは、おまえが怒って暴れだした時のおれの避難用に使えるし」

「失敬な。猛獣扱いするな」

子供扱いの次は危険動物扱いか。
それでも、こんな埒もないやりとりで、
おまえの隠している≪何か≫を突き止めようと、臨戦態勢をとって
張りつめていた気持ちが少しほぐれた。
やはり、おまえは無意識に人の戦意を削ぐ達人だな。


ブランケットを設え終えると、おまえがカンテラをかざして、

わたしの前の花々に近寄って覗きこんだ。

「なるほど。下のほうで陰になったこの辺りは陽が当たりにくいから、
まだ蕾なんだな」

鋭いな。でかいおまえが低い位置の蕾によくぞ気づいた。褒めてやるぞ。
頭を撫でてやったのだが、きょとんとしている。
しかたない。ことばで正解だと言ってやろう。

「ああ。咲いた花はむろん美しいが、蕾の可憐さはまた格別だ」

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ふう、全速力で駆けてきたので喉が渇いてきたな。
 

おまえが2つのカンテラを柵の杭に掛けて振り返った時、
わたしは既に、ブランケットの真ん中に置いた革袋に手を伸ばしていた。

「さて、と。どんなワインを持ってきてくれたのだ?」
「ワインじゃない。カフェを持ってきた」

「なんだとーーーっ! ワインはないのかっっ!?」
今朝、〝ワインを〟と言ったではないか、この不届き者!

「歩いてボトルをこんな所まで運んだら、揺れてしまってせっかくの
ワインがかわいそうだろう」

おまえが一緒なら、多少の澱が混ざっていても気にならないのだがな...

「あ…あ、確かに... ふう..それも、ばあやの厳しい教えの賜物と
いうわけか」
「そういうことだ」

おまえがマグに注いでくれたカフェを、両手で包み込んで口に運ぶ。

「まだかなり温かい。カフェの香りに包まれながら、ばらを愛でるのも
なかなかよいものだな。では、今日のところはワインなしで許してやる」

いい香りだ。カフェひとつ淹れるにもイイ腕を持っているな、おまえは。

「助かった! 実は、ワインがないとわかったらお手打ちにされるんじゃ
ないかとヒヤヒヤものだったぞ」
「ふん。ワインごときで、希少種の〝オスカルばか〟を失くしてたまるものか」
「別段、希少種でもないだろう。おれの年季が並じゃないのは確かだが、
代われるものなら代わりたいというヤツは、きっとゴロゴロ転がっている」
「なっ、何を言うっ! 代われる者などいるものか!」

ピンときた。やはりおまえは、わたしの傍から後ずさろうとしている。
問題なのは、その理由だ。

「志願者なら山程いると言っただけだ。
やめる気はさらさらないし、やめられるとも…到底思えない」

なるほど。おまえ自身はわたしの傍に居ようと居まいと生涯オスカルばかを
やめないでいてくれるが、わたしの傍に誰か別の者が添う可能性を覚悟して

いるというわけだな?
よし。このあたりを、後で追及することにしよう。

「なら、いい... 変なことを言うから寿命が3年は縮んだぞ」
わたしはひとまず矛を納め、そうつぶやいて白いばらの蕾に目を戻した。

「蕾というのは愛おしくてたまらぬものだな。
〝美しく咲くのだぞ〟と呼びかけ、ずっと見つめていたくなる」

そのことばを口にした時、過ぎし日々の幾百幾千ものおまえのまなざしが
次々とわたしの目の前をよぎっていった。
おまえの数え切れぬほどのまなざしがわたしを見つめ続けてくれていたのは
確かだ。
しかし、こんなにも多くのまなざしの記憶がわたしの中に刻み込まれていよう
とは、自分でも驚きを禁じ得なかった。

そう思うと、軍人ばかの自分を花になぞらえるなど不埒にもほどがあるが、
ことばをこう継がずにはいられなかった。

「見つめ続ければ咲いてくれるというものでもあるまいに、
それでも、ずっとずっと見守り続けられずにいられない」

アンドレ...
なぜ、そんなことができた?
なぜ、黙して語らぬ歳月をこんなにも重ねることができたのだ、おまえは?

「ああ、本当にそうだな」とだけ、おまえは短い答えを静かに返してきた。

あまりに淡々とした反応に、
〝今の比喩の意味は通じた筈だ!もっと何か言うことがあるだろう!!〟
と、おまえの胸倉を掴んで揺さぶり詰め寄りたくなった。

だが、そんなことをしてなんになろう。
おまえは何も答えず微かなほほえみを浮かべるか、
よしんば答えたとしても〝そうするしかなかった〟とつぶやくだけだろう。
わたしを置いて逃げ出すなど、おまえには端からできぬ相談だったのだろう?

わたしは何も言えぬまま、かぶりをふって小さく溜息をついて立ち上がり、
そのまま、既に咲いているばらのほうに歩み寄り白い花びらを撫でた。

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「ジェローデルが......」

なぜ彼が求婚を取り下げたのか、おまえに話そうと思った。
けれど、それを話したら、おまえを愛しているのか、と、
彼に問われたことも、言わずには済まされないだろう。
それはまだ言えないことに気づいた。
わたし自身の答えが出ていないのだから。


ジェローデルの名前を出した手前、咄嗟に違う話題に切り替えた。

「ジェローデルが、わたしはばらの花びらを食べるのか、と、
怪訝そうに聞いてきた」

「そ、そうか...」

なんだ、そのあやふやな相槌は!
彼は、わたしが花びらを食むのを初めて見たのだから、まあしかたない。
しかし、おまえは…おまえときたら、こともあろうに、
おまえのいちばん好きな白いばらを…わたしには食することなぞできる筈の
ない花を…〝食べるのも程々にしておけよ〟なんぞと、鈍感で無神経なことを
ほざいたのだぞ!
今朝の腹立たしさがぶりかえしてきた。

「わたしはなんだかイラッとして〝いけないかッ〟と怒鳴ってしまった」
ジェローデルよりも、おまえをもっと怒鳴りつけてやればよかった。


〝愛して…いるのですか……〟か...
ジェローデルの問いにまた思考が立ち返り、わたしは花びらを撫で続けながら
答えを探し続けた。

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暫しの沈黙を破って、おまえが口を開いた。

「オスカル... おまえは〝もう一生どこにも嫁がない〟と言ったが...
これはあくまでも〝もしかしたら〟だが──、
ジェローデル少佐でなくて、その..なんというか..たとえ叶わなくても、
結婚したい相手は他に居るのに…とか、ほんのチラッとでも思ったりしなかっ

たか?」

〝わたしには、結婚したい相手が居るのではないか?〟…だと!?
わたしは息をのみ、そのまま凝然と固まった。
おまえがそんなことを言うなど信じられない。驚愕が体中にこだましている。

 

...あっっ! も、も、も、もしや、おまえ、自分だと思った…とか?

ジェローデルが求婚を取り下げてくれた後、わたしが我知らずおまえを目で

追っていたのに気づかれていた…? いや、まさか……な。

先走っておかしなことを口走らぬよう気をつけねば💦

「...い、いまさら、なぜそんなことを言…う?」

「はは…っ。おまえの結婚話にトチ狂って、とんでもないことをしでかした

おれが〝おまえが結婚したい相手〟なんてセリフを口にできるなんて、

そりゃビックリだよな?
...気がついていたんだろう?
持って行ったワインをいきなりはたき落として、割れたグラスをおまえに触らせ
ないよう、おれが必死になっていた理由に。
...わかりやす過ぎるものな」

その通りだ。わかりやす過ぎだったぞ、あれは。

おまえはブランケットから出て芝草に膝と片手をつき、わたしを見上げてきた。

「本当にすまなかった。謝って済むようなことじゃないのは身に沁みて

わかっている。
だが、今、おまえ自身の前で、おれの罪深さ愚かさを懺悔させてくれ。
本当に…すまなかった」

「ア…ンドレ」

自分のことで精一杯で、そこまでおまえを追い詰めたのは、他ならぬ
このわたしだ。すまなかった……。

「だけど、オスカル... 愚かなおれを、おまえが闇から掬い上げて
救ってくれた。おまえを生きて輝かせるためにこそ おれが在る…それを
あの時ようやく、痛いほど思い知ることができたんだ」

わたしが…おまえを闇から掬い上げて救った? どういうことだ?

「ありがとう、オスカル。
今、おまえが、生きて、一緒にばらを愛でてくれている──、
おれが、今もオスカルばかでいられる──、
その幸せを、神のお慈悲とおまえに心から感謝する」

確かに、あの時死なずに今も生きていればこそ、おまえがわたしにとって

何者だったかを顧みることができた。

自分がアンドレばかだと、いやというほど思い知らされた。
生きていればこそ、今こうして、あの時のことでおまえと対峙できている。

だがな、アンドレ!
あの時、苦しんだのはおまえだけではないぞ!!
あの時、命を絶つ闇からの誘惑にかられたのはおまえだけではないぞ!!
それをきっちりおまえに教えてやらねばならんな!

「だから……、だから、今ここで誓う。
おまえの望む人生を阻む愚か者には二度とならない…と。
おまえは、おまえの心のままに... 自分の心に正直に生きてくれ。
胸の高鳴りを、ときめきを、熱い想いを感じられる相手に巡り会った
のなら、人を恋い慕い求める心を抑え込まないでくれ。
軍人としてだけでなく、熱い鼓動を刻む人間として生きてくれ」



は? はああああああああああ!?🤪

おまえが心の内で闘っていたのは、わたしの恋愛問題だった…のか?
平たく言えば〝わたしには想う男がいる〟
おまえはそう思い込んでいる…のか?
しかも、嫉妬がどうのというならまだしも、
あろうことか、好きな男がいるならその気持ちを抑え込むな…だとぉ?
あきれてものも言えん。拍子抜けもいいところだ。

しかしまあ、おまえが闘っていた≪何か≫がそんなたわけたことなら、
叩き潰すのは造作もないことだ。
一秒もかけずに塵芥のごとく吹っ飛ばしてくれるわ。

まったくっ、許しがたいオスカルばかだな、おまえは!
血反吐を吐くようなおまえの声が、どれほどわたしの胸を
掻きむしっているか、わかっていないのか、この大ばかやろう!!

ジェローデルが潔く身を引いてくれたのは助かったが、
おまえに身を引いてもらっては困る。とんでもなく困るぞ。
いや、≪困る≫などという生易しい次元の話ではない!
死活問題だ。
おまえが居なくなるなど、わたしの生きる力を潰えさせ、
この躰を引き裂くも同然のことだと、なぜわからん!!
おまえだってそうだろう!
ありもしないそんな色恋事を慮ってわたしの傍から後ずさるなど…
身を引くなど…絶対に許さん! 許さんぞ!!  

「おれは確かにオスカルばかだ。だが、それだけじゃない。
〝おれはおまえの分身〟そう言ってくれた人がいた。
ひとに言われて気づくなんて、おれも大概なマヌケだが、
おれはおまえの分身なんだよ…オスカル。
おまえが心のおもむくままに羽ばたいてくれてこそ、
おれはどんなことにも耐えて生きていられるし、
たぶん…生きてる意味を見つけることもできるんだ」

アンドレ…わたしが心のおもむくままに羽ばたけるのは、
おまえが居てくれてこそだとわからんのか!?
おまえが居なくなるというのは、羽ばたく翼をわたしから
もぎ取ることになるのだぞ!!


ん、待てよ? おまえ、ちと気になることばを吐いたな。
〝おまえはわたしの分身〟だと? 
誰だ、そんな一方通行の半端なことばをおまえに吹き込んだのは!
それでは、わたしはおまえの何なのだ!
誰なのか後で問い詰めて、そいつの首を締め上げてやる。

よしっ。では、行き場をなくしたわたしの闘争心を、
今からおまえへの説教につぎ込んでやるから覚悟しろ!


一旦、花々のほうに向き、植え込みの柵に手をついて呼吸を整える。
前段は、ワイン叩き落としの件だ。

「アンドレ、まず最初に言っておくぞ。
あの時、意志薄弱なおまえがワインをぶちまけて部屋を逃げ出したあと、
わたしは苦しくて苦しくてならなかった。
おまえの許に行こうと何度も立ち上がったが、どうしてもできなかった。
おまえの前に立って何を言おうというのか、何が言えるというのか...
そして、いつの間にか燭台も消えてしまった暗い部屋の中で、思った──
おまえが思いとどまらなかったとしても、
共に息絶えるのなら、それでよかった、と。
苦しむおまえを見続けるよりそのほうがいい、とすら思った」

さあ、ここからが説教の正念場だ!
わたしは地面をガッと蹴って振り返り、おまえを真っ正面から見下ろした。

「アンドレ!〝分身〟おまえ、そう言ったな。
そんな一方通行の半端なことばでは足りないとなぜ気づかん!
〝半身〟だ! おまえとわたしは、互いの…互いの半身ではないのかっ!?」

くそつ。情けないことに涙が溢れてきた。
いいトシをして、しゃくりあげて泣いてしまいそうだ。
だが、ここで説教をやめてたまるか!

「ヘタレなおまえが、せっかくの細工ワインを無駄にしたあの時は
さすがのわたしも動転して、明確なことばを見い出せていなかった。
だが、さっき、おまえが〝分身〟ということばを出した時、
聡いわたしはすぐに気づいたぞ。
いいかっ! もう一度言ってやるから、そのボンクラ頭にしかと叩き込め!
おまえとわたしは互いの半身だっっ!!
半身なくしては、享けた命をあるべき姿で全うできない者同士の筈だっ!!」

言い終わって、自分がぜいぜい荒い息をついていることに気づいた。
嗚咽もまだ止まらないが、そんなことはどうでもいい。
さあ、何か申し開きできるなら言ってみろ、アンドレっ!


「あーーー... え……っと、すまん!
はは…は。まったく、おれってヤツはマヌケにも程があるな。
〝半身〟に、千回でも万回でも賛同して、訂正する。
けど... あんな感動的なセリフを、あんな威圧的な態度で、
泣きながらまくしたてる…って、おまえ、どんだけ器用なんだ?」

ふん。わたしが嗚咽しているから、いつものさらりフワリの手で、
なだめようという魂胆だな。
ああ確かに嗚咽は静まった。それには礼を言う。

だが、全身全霊をかけたわたしの訴え…あ、いや説教を、
おまえも全身全霊で受け止め認めたことは、神かけて間違いない。
その証拠に、芝草を固く握り締めるおまえの手が震えている。
にも関わらず、おまえは、荒れたわたしをなだめる常套手段の
とぼけ口で受け流して表面をつくろい、本心を押し隠した。
それくらいのことは声音に混じった かすかなゆらぎでわかる。
おまえの半身を見くびってはいかんぞ。

おまえが、わたしの傍から身を引こうとしていた理由はもうわかった。
〝わたしには想う男がいる〟なんぞと思い込んでいるためなのだな?
ならば、今からわたしがすべきことは、そんな男は世界中隈なく探し
ても、ひとりとしていない
──それをおまえに納得させることだ。


ふむ、これは"ひみつ会議"案件だな───

 

 

 

 

『✿開花への新たなる旅立ち⑨ ≪それが...よくわからないのだ≫』に続きます≫