いよいよ本格的な暑い日が始まり


上昇する気温とは対照的に


ゼブーのテンションは急激に下降の一途を辿っている


そう、ゼブーは夏が大嫌いだ




単純に暑いから嫌いというわけではなく


原因は少し別のところにある




先ず全てを焦がし尽くさんばかりのあの日差し


ゼブーは気温が高いことによる暑さよりも


日光にあてられ


ジリジリと肌を焦がされている様なあの日焼けの感覚が


どうしようもなくイライラして大嫌いなのだ




元々焼けにくい体質と


極力日差しを避ける生活をしているため


よく不健康そうな白さと言われる




そしてもう一つ




夏嫌いの最大の理由が






昆虫の存在だ






少年時代はご多分に漏れず


トンボやバッタを捕まえたり


カブトムシさんやクワガタさんに胸をときめかせていたのだが




奴の存在のお陰で




そんな羨望の対象すらも


畏怖と拒絶の対象へと成り変わってしまった




少年ゼブーにトラウマを植え付けた人類に仇なす忌むべき存在




もうお分かりだろう




奴の名は






G…!






当時たぶん小学4年生くらいだったと思う


居間のスライド式の扉上部


つまり大人の頭より少し高いところに取り付けられていた扇風機に


奴はいた…!




姉が先にGを発見し


面白半分で


「スイッチ入れてみよう!」


と言って来たので


まだGに対して恐怖心を抱いていなかった少年ゼブーは


それはもうノリノリで大賛成した

「スイッチ入れたら落ちるかな?」


とか


「飛んで逃げるんじゃない?」


とか


二人でワクワクしながら予想しつつ


いよいよ姉がスイッチに手を駆け




そして




「強」




に合わせた…!




回り出す扇風機




Gは動かない




さらに加速する青い風車は




いよいよ最大風速となり




じっとしがみつくGに容赦なく襲いかかる!




20秒程経過し


そのまま変化が無かったので


姉がスイッチを切ろうとした




その時である!




なんと今まで必死にしがみついていたGの羽根が




「ベロン」




とめくれ上がったではないか!




突然の思わぬ変化にゼブーと姉は爆笑


腹を抱えて大いに笑った




ひとしきり笑って疲れたので


姉がスイッチを切ったその時!






事件は起こった






今まで強風にさらされようと




たとえ両の羽根がめくれ上がろうと




頑なにその場から離脱することを拒んでいたGが




自らの意思で






翔んだ…






勢いよく射出されたピンボールの如く


弧を描きながら重力に抗うG




意識するまでもなく


彼の辿る軌跡を追うのは必然




ハッと我に返り


声を上げながら咄嗟にしゃがむゼブー


頭をかすめる様にしてGはゼブーの顔があったところを通過した




「危なかった…!」




と安堵して立ち上がり


再びGの軌跡を追うゼブー




Gは既に円を描き


二週目に突入


再びゼブーの眼前へと迫っていた




先程の声とは比べものにならない悲鳴をあげ


倒れ込むように身をかわすゼブー



さっきまでゼブーの頭があったところを通過するG




心臓をバクバクさせながら立ち上がり


三度Gの軌跡を辿るゼブー




眼前に迫るG…!




腰を抜かす様に身を屈めながら


後ろも振り返らずに


悲鳴をあげて全速力で部屋から逃げ出すゼブー




後ろから聞こえる姉の笑い声






予想だにしなかった


Gの「一人ジェットストリームアタック」は


直撃こそしなかったものの


少年ゼブーの心にトラウマを植え付けるには充分過ぎる破壊力を持っており


以降ゼブーは日々を重ねる毎に


他の昆虫も駄目になっていった






勿論今でもトラウマは絶賛継続中であり


ありとあらゆる昆虫達に怯える日々を過ごしている


淡い憧れを抱いていたカブトムシさんも




今ではゴ○ブリデラックスにしか見えない