相続税の調査で、申告漏れ財産の価額のうち約3~4割は「現金・預貯金等」と言われています。
亡くなった夫が管理・運用等していた妻や子供名義の預貯金を相続財産として申告していなかったケース。
生前贈与する旨の贈与契約が成立していたか否かを巡り争われた事件で、東京地方裁判所は、生前贈与した事実は認められず、妻名義の預貯金は夫の財産に帰属するとして、妻の主張を棄却する旨の判断を行った。
妻名義の預貯金が夫の相続財産に該当するか否か、過去の判決の積み重ねにより、預貯金口座の管理・運用状況等を総合考慮して判定することが実務上定着しており認定事実を総合考慮して判断された直近の事例です。
東京地裁の判断
東京地裁は、以下の理由により、夫から妻に対して、妻名義の預貯金を生前贈与したとは認められないため、夫の相続財産に該当すると判断した。
認定事実を総合考慮すれば贈与契約は成立していない
<主な認定事実>
・妻名義の預貯金への預入金額は、毎年、贈与税の基礎控除額の範囲内で預け入れられていた。
・相続人名義の預貯金口座の一部解約に伴い、解約済預貯金を原告に対して現金で交付した。
・相続人は被相続人から届出印の返還を受け所持していた。
・妻名義の預貯金口座は、夫が自らの財産を原資として開設した。
・夫は、妻名義の預貯金口座に係る一部の解約金を自己の口座に入金し、同口座の資金を土地の購入資金に充て、夫名義で土地を取得した。
・夫は、妻に対して届出印を返還したが、預貯金に係る証書を自ら保管していた。
よって、夫は、預金口座の開設時やその後の預入れ当時、その預入金額を妻に贈与するという確定的な意思があったとまでは認められないというべきであるとした。
事実認定の取扱いではあるが、実際の管理、使用状況が誰であるかが、重要である。