この時期、住んでいる街の城下町で雛飾りの催しがある。朱色の毛氈が通りの左右に段々と並んでいる様と、その通りを吹き抜ける風は春らしくどこか香しい。
しかし今はさびしく、曇り空も相まって風もつめたかった。左右を見ても雛飾りはない。催しはもうなくなったのかな。通りの先の水道工事の音が、近づくにつれ響いた。もうこれで終わり、と思ったところ、左手にみえるガラス戸の中で、それは一際煌めいていた。
以前は通り一帯に雛飾りが並んでいた。私もその記憶で訪れたが、コロナ以降その催しはなくなり、小さな展示会のような形で一つのお店(アンテナショップ)が続けている。
規模は小さくなったがこうして続いていてありがたかった。
平日の昼下がりに訪れたためお客さんは殆どいなかったが、おかげでゆっくりと過ごすことができた。
大きな雛飾りのあるお家は、もう殆どないだろう。そしてその風習さえもやがて記憶だけになるかもしれない。だから今回の催し事も無くなるときがくるだろう。
それでいい。それでいいとおもうよ。
ちいさくなっても、誰かにしっかりと見てもらえる。なくなっても、こどもを大事にしていた記憶は、形をかえてまもられるんだと思う。
短い滞在でしたが、いい時間となりました。