白と黒
ばさりと新聞を広げて探す。
「……あ~~いつ、だったっけか」
探し物は新聞の全面広告で、とあるブランドの物だった。
その広告というのが、背中をこちらに向けたヒョウが、首を曲げて斜め後ろに視線を向けているものだ。背景には、ヒョウより一回り小さな建物と足元にはテールランプが赤い弧を描いている。ヒョウと凱旋門を置き換えているのだろう。
ばさばさと紙面をめくり、記憶にあった日時をさらうと、やはりそこにはなく、違う日付の新聞を手に取った。
あやふやな記憶を確認していくと、ないと思われる場所からヒョウが姿を現した。
記憶とは一日違っていたし、広告の入る場所も前半だったことでやっとヒョウとの再会をはたした。
猫科の獣の優美な曲線。走るために蓄えられた筋肉はしなやかで力強い。精悍な双眸に存在を主張する髭。
やっぱりいいなぁ。
動物園で飽きもせずに眺めていられる。大好きなペンギンの流線型と一緒で、機能的な美しさ。
でもまあ…よくよく見た所、どう見ても全ての模様が繋がり合うという奇跡はなく、さらにはそれだけの難易度に挑戦するだけの技量はないのだ。
くるりとデザインカッターを回して、蓋をされた刃先をカッティングボードに付けてみる。しっかりした紙であっても、切り抜く際には多少の引っ掛かりがあって紙がよれてしまう。まして普段は切り抜く負担を考えて、薄いがしっかりとした和紙を使っているのだ。
「ん~~~無理」
ならば、違う技法で紙に定着させればいい。いや、いっそのこと紙でなくてもいい。
ことり、と何かが胸に落ちる。がばりと腕が動いて画材を突っ込んである箱を漁ると、中味が減ってつぶれたアクリル絵の具が現れた。目当ての色を見つけるとペーパーパレットに搾り出し、額から抜き取ったアクリル板を均一に黒く塗りつぶしていく。
乾くまでの時間も無駄にしない。車のキーとお財布をつかむとコンビニまで走って、ヒョウの広告を縮小コピーにしてアクリル板とサイズを合わせる。反転コピーをかけたので、図面を転写してニードルで削った後は元と同じ画像が出来上がるはずだ。その後は、裏側からステンドグラスのように色をいれてやればいい。
動物の繊細な毛皮の質感や、植物の葉脈など、この技法なら上手く表現できるはずだ。
銅板画よりもお手軽なこの技法は、学校の教材でも使われている。
削るべき所と残す所のバランスが難しい。それでも考えただけで、笑いがこみ上げてくる。
ずっと探していた何かは、ここにあったのか。
繊細でいて、粗削りでもある。切り絵という制約のなかで、どうしても離れてしまうパーツを貼る際に感じる苛立ちがない。
たとえば、小さな子供のために作る切り絵のアンパンマンの鼻や口。
そのくり抜いた小さなかけらを、デザインカッターの先につけて、貼り付ける後ろめたさ。それがなくなる。
それは、白と黒の制約から自由になった瞬間だった。
たとえ同じような白と黒に見えても、わたしには明らかに違うものだった。
「……あ~~いつ、だったっけか」
探し物は新聞の全面広告で、とあるブランドの物だった。
その広告というのが、背中をこちらに向けたヒョウが、首を曲げて斜め後ろに視線を向けているものだ。背景には、ヒョウより一回り小さな建物と足元にはテールランプが赤い弧を描いている。ヒョウと凱旋門を置き換えているのだろう。
ばさばさと紙面をめくり、記憶にあった日時をさらうと、やはりそこにはなく、違う日付の新聞を手に取った。
あやふやな記憶を確認していくと、ないと思われる場所からヒョウが姿を現した。
記憶とは一日違っていたし、広告の入る場所も前半だったことでやっとヒョウとの再会をはたした。
猫科の獣の優美な曲線。走るために蓄えられた筋肉はしなやかで力強い。精悍な双眸に存在を主張する髭。
やっぱりいいなぁ。
動物園で飽きもせずに眺めていられる。大好きなペンギンの流線型と一緒で、機能的な美しさ。
でもまあ…よくよく見た所、どう見ても全ての模様が繋がり合うという奇跡はなく、さらにはそれだけの難易度に挑戦するだけの技量はないのだ。
くるりとデザインカッターを回して、蓋をされた刃先をカッティングボードに付けてみる。しっかりした紙であっても、切り抜く際には多少の引っ掛かりがあって紙がよれてしまう。まして普段は切り抜く負担を考えて、薄いがしっかりとした和紙を使っているのだ。
「ん~~~無理」
ならば、違う技法で紙に定着させればいい。いや、いっそのこと紙でなくてもいい。
ことり、と何かが胸に落ちる。がばりと腕が動いて画材を突っ込んである箱を漁ると、中味が減ってつぶれたアクリル絵の具が現れた。目当ての色を見つけるとペーパーパレットに搾り出し、額から抜き取ったアクリル板を均一に黒く塗りつぶしていく。
乾くまでの時間も無駄にしない。車のキーとお財布をつかむとコンビニまで走って、ヒョウの広告を縮小コピーにしてアクリル板とサイズを合わせる。反転コピーをかけたので、図面を転写してニードルで削った後は元と同じ画像が出来上がるはずだ。その後は、裏側からステンドグラスのように色をいれてやればいい。
動物の繊細な毛皮の質感や、植物の葉脈など、この技法なら上手く表現できるはずだ。
銅板画よりもお手軽なこの技法は、学校の教材でも使われている。
削るべき所と残す所のバランスが難しい。それでも考えただけで、笑いがこみ上げてくる。
ずっと探していた何かは、ここにあったのか。
繊細でいて、粗削りでもある。切り絵という制約のなかで、どうしても離れてしまうパーツを貼る際に感じる苛立ちがない。
たとえば、小さな子供のために作る切り絵のアンパンマンの鼻や口。
そのくり抜いた小さなかけらを、デザインカッターの先につけて、貼り付ける後ろめたさ。それがなくなる。
それは、白と黒の制約から自由になった瞬間だった。
たとえ同じような白と黒に見えても、わたしには明らかに違うものだった。