その君の後ろには
「……我社もお・も・て・な・しの気持ちで商品を扱うように」
流行りもの好きだな、と出そうになった言葉を噛み殺す。ネットの宅配があるから、直接お客様と接するとも言えるが、おもてなしという見返りを期待しない行為じゃない。純粋に仕事。破損を出すなんて処理が面倒だから、扱いは迅速かつ丁寧がモットーだ。
しっかし長っ工場長、話長いよ。
中礼を終えて当日処理の指示書を確認していると、視界の隅を般若がよぎる。
般若…いや榊部長だ。
「おー。お前んとこは羽振りがいいな」
他の部署と比べて歴然とした差で積み上がる指示書を見下ろす。倍くらいある。少ない部署からしたら四倍だ。
「仕方ないですよ」
抱えて運びきれないので、カートを使うのも年末の恒例だ。ちなみに朝一にも同じくらいの指示書を持ってきている。
「………ウチの部署には小人が居ないので」
しゅんとして般若を仰ぎ見る。小人とは夜勤で品揃えをしてくれる人員だ。夜靴を作ってくれる、靴屋の小人になぞらえてそう呼んでいる。
「…………いるって言わなかったろ」
「コレ見て必要だと思わないほうがオカシイんじゃないデスカ」
ばんばんと指示書を叩いて見せる。怒りでなにやら片言になってしまっている。
「いいだろ小人居なくってもさー。ま・え・だ・お・しすればー」
「出来ないから言ってるのと違いますか」
般若が手のフリまで付けてきてムカつく。なんでこの人は神経を逆なでするようなことが言えるのか。
「まーまー。エセ関西人みたいだぞ。何もかも最後だからなお前んとこは」
そう。
指示書が出るのも、備品を配られるのも、制服が来るのも、給与明細も最後の最後だ。この前なんて締め切り間際にアンケートが来て慌てて書いた。
「しがない部署ですからねー」
カートをキイキイ言わせて物悲しさを出してみる。
「まー。やさぐれるなって。お前んとこには慣れた人員を配備してやる。ただ、なー……」
「続かない?」
「まぁ、そういうこった」
こちらに回すまでに慣れるほど成長していないのだ。慣れた人員は他部署に持って行かれてる。夜勤ともなれば人員はがっくりと減り、教育する人員にも困る。
「もうちょい閑散期に人員確保しといて、教育してくださいよ」
「したさ。来た、見た、帰ったってなもんで続かなかったろ」
「あー…そーデスカ」
腕組みした榊部長が、仕方ないというように首を振る。
「年末の山が越えたら、いいの入れてやる」
親指を立てて、どや顔を向けてくるが、ボトルか何かみたいな軽いノリだ。
「期待しないで待っときます」
ちときつい物言いになったけど気にしない。
「あのなぁ、何かあったらすぐ呼べ。俺らはお前の背中を見てサポートを出してるんだ。俺らは後ろに控えてるから工夫してやって来い」
すぐサポートで回せる人員が居ないのだろう。了解、と言いながらエレベーターへと歩いていく。来ていたエレベーターから人が降りて、入れ替わりで乗り込む。一人きりになった個室ではあっとため息が漏れる。
「頑張りますって。言われなくっても、やってます」
でも、気にして見守ってくれている。それだけが救い。
きっとヘルプを出したなら、榊部長は他の仕事をほうり出して来てくれる。
愚痴りながらでも、嫌な顔なんてしないで手を動かしてくれる。それが、わかる。
俺の、後ろには俺の仕事を見てくれてる人がいる。だから、まだもう少しくらい頑張ってみてもいい。
期間、限定。
そう言い聞かせてフロアに降り立った。
流行りもの好きだな、と出そうになった言葉を噛み殺す。ネットの宅配があるから、直接お客様と接するとも言えるが、おもてなしという見返りを期待しない行為じゃない。純粋に仕事。破損を出すなんて処理が面倒だから、扱いは迅速かつ丁寧がモットーだ。
しっかし長っ工場長、話長いよ。
中礼を終えて当日処理の指示書を確認していると、視界の隅を般若がよぎる。
般若…いや榊部長だ。
「おー。お前んとこは羽振りがいいな」
他の部署と比べて歴然とした差で積み上がる指示書を見下ろす。倍くらいある。少ない部署からしたら四倍だ。
「仕方ないですよ」
抱えて運びきれないので、カートを使うのも年末の恒例だ。ちなみに朝一にも同じくらいの指示書を持ってきている。
「………ウチの部署には小人が居ないので」
しゅんとして般若を仰ぎ見る。小人とは夜勤で品揃えをしてくれる人員だ。夜靴を作ってくれる、靴屋の小人になぞらえてそう呼んでいる。
「…………いるって言わなかったろ」
「コレ見て必要だと思わないほうがオカシイんじゃないデスカ」
ばんばんと指示書を叩いて見せる。怒りでなにやら片言になってしまっている。
「いいだろ小人居なくってもさー。ま・え・だ・お・しすればー」
「出来ないから言ってるのと違いますか」
般若が手のフリまで付けてきてムカつく。なんでこの人は神経を逆なでするようなことが言えるのか。
「まーまー。エセ関西人みたいだぞ。何もかも最後だからなお前んとこは」
そう。
指示書が出るのも、備品を配られるのも、制服が来るのも、給与明細も最後の最後だ。この前なんて締め切り間際にアンケートが来て慌てて書いた。
「しがない部署ですからねー」
カートをキイキイ言わせて物悲しさを出してみる。
「まー。やさぐれるなって。お前んとこには慣れた人員を配備してやる。ただ、なー……」
「続かない?」
「まぁ、そういうこった」
こちらに回すまでに慣れるほど成長していないのだ。慣れた人員は他部署に持って行かれてる。夜勤ともなれば人員はがっくりと減り、教育する人員にも困る。
「もうちょい閑散期に人員確保しといて、教育してくださいよ」
「したさ。来た、見た、帰ったってなもんで続かなかったろ」
「あー…そーデスカ」
腕組みした榊部長が、仕方ないというように首を振る。
「年末の山が越えたら、いいの入れてやる」
親指を立てて、どや顔を向けてくるが、ボトルか何かみたいな軽いノリだ。
「期待しないで待っときます」
ちときつい物言いになったけど気にしない。
「あのなぁ、何かあったらすぐ呼べ。俺らはお前の背中を見てサポートを出してるんだ。俺らは後ろに控えてるから工夫してやって来い」
すぐサポートで回せる人員が居ないのだろう。了解、と言いながらエレベーターへと歩いていく。来ていたエレベーターから人が降りて、入れ替わりで乗り込む。一人きりになった個室ではあっとため息が漏れる。
「頑張りますって。言われなくっても、やってます」
でも、気にして見守ってくれている。それだけが救い。
きっとヘルプを出したなら、榊部長は他の仕事をほうり出して来てくれる。
愚痴りながらでも、嫌な顔なんてしないで手を動かしてくれる。それが、わかる。
俺の、後ろには俺の仕事を見てくれてる人がいる。だから、まだもう少しくらい頑張ってみてもいい。
期間、限定。
そう言い聞かせてフロアに降り立った。