Focus 3
ブライダル会場に行ってから数日が経ち、そろそろ次の段取りを付ける必要を感じた。
礼治さんの所から、会場へと足を運ぶ。
何度か足を運び、甘いお菓子のような名前にも慣れ、一人でこの場所に来るのにも慣れた。入り口から受付のフロアを覗くと、今日もきっちりとした品川さんが、若い男女を前にカタログを広げて談笑していた。
視界の隅にオレを認めると、にこっと笑顔を送ってくれる。
注意を払うべき時間や場所を実際に歩いて回ることにした。
簡単な見取り図から、当日の移動場所、式の次第を頭に入れる。
何度か訪れる、写真タイムとも言うべき決めポーズも参列者を上手くやり過ごし撮らねばならない。
屋内だけでなく、オープンエアでの催しもあり光の加減を調整したり、些細な事柄であるけれど注意を払う必要がある。
いくら修正できるとしても、少ないに越したことはない。
教会として使われている一室に入るなり、花の香りが辺りを埋めた。
ステンドグラスからの光りを浴びて、一人の女性が花を生けていた。
まとめられた髪は無造作で、白いシャツに黒いカフェエプロンをしている。
背の高いガラスの花瓶に、白い花ばかり生けていた。白い花ばかりとはいえ、それぞれ色合いに変化があり柔らかな優しい雰囲気だった。
気がつけば、シャッターを切っていた。わずかな音で彼女が気づくのではないかという不安も、作業の手を止めない姿から杞憂だったとわかる。
あまりにも集中しているので、声をかけることすら憚られる。
しばらく見つめてから、そっと部屋を後にした。
廊下を厨房に向けて急ぐと、こちらからは甘い香りが漂ってきた。
「ミオちゃん」
呼ばれた彼女は、焼き上げたスポンジケーキから丁寧に紙を剥がしている所だった。作業を中断して、顔を上げてこちらを見た。
「教会に人がいたんだけど…」
「ああ。沙奈さんだわ、それ。花を生けてたんでしょ」
うっすらとソバカスの散る頬を緩める。
「なんかさ、すっごい真剣で写真撮ったのに気がつかなかった」
「え、写真撮ったの?」
「あ、うん…」
言ってから、かあっと頬に血が上る。普段ならこんなことありはしない。隠れて写真を撮る、なんてストーカー的な行為だ。
へええっとミオちゃんの目が三日月になる。
「なに、惚れた?」
「違うって…あんまり真剣だったから、つい…」
「つい?」
「うん…撮った」
そう、綺麗だと思った。この一瞬を切り取ってカメラに収めたいと。それは欲望だ。
「意外よね、ファッション雑誌の撮影なんてしてたらモデルさんと知り合う機会だっていっくらでもあるでしょうに」
「それは仕事だから。それにモデルの子だってバカじゃないでしょ。自分だって他にいくらでも芸能人と知り合えるんだから、一介のカメラマンなんて見向きもしないよ」
「そう?結輝は見た目だって悪くないし、いいと思うけど」
「オレお金ないからダメ。モデルなんて…そういうのダメだよ」
ふーんと頷きながら、ミオは作業を再開する。これからクリームでデコレートするなら、多少乱暴に紙を剥がしてもいいはずなのに、ミオはゆっくりと丁寧だ。
「もっとちゃっちゃとやってもいいんじゃない?」
初めて会った時にそう聞いたら、「見えないと思って手を抜くなんてできない。クリームの乗りが悪くなるから」そう言いきった。
ミオもプロなんだ。
ブライダルにしろパーティーにしろ、記念日を祝う大切なケーキを任されている自負があるのだろう。その指先は繊細だ。
ミオもまたプロの視線でケーキを見つめたのを機に、退散することにした。
彼女には…思わず、シャッターを切っていた。そして彼女のことを知りたくて、厨房まで押しかけて名前を聞き出すなんて。
……物凄く意識してるんじゃないだろうか。
ミオに聞くにしても、もっといい理由だってあったはずなのに思いつくこともなかった。
彼女が誰なのかその事が、心を占めていて他のことなんてどうでも良かった。
「沙奈さん……かぁ」
名前を口にしただけで、花を生けている姿が浮かび、きゅうっと胸を締め付ける。
やばい、意識し過ぎかも…
礼治さんの所から、会場へと足を運ぶ。
何度か足を運び、甘いお菓子のような名前にも慣れ、一人でこの場所に来るのにも慣れた。入り口から受付のフロアを覗くと、今日もきっちりとした品川さんが、若い男女を前にカタログを広げて談笑していた。
視界の隅にオレを認めると、にこっと笑顔を送ってくれる。
注意を払うべき時間や場所を実際に歩いて回ることにした。
簡単な見取り図から、当日の移動場所、式の次第を頭に入れる。
何度か訪れる、写真タイムとも言うべき決めポーズも参列者を上手くやり過ごし撮らねばならない。
屋内だけでなく、オープンエアでの催しもあり光の加減を調整したり、些細な事柄であるけれど注意を払う必要がある。
いくら修正できるとしても、少ないに越したことはない。
教会として使われている一室に入るなり、花の香りが辺りを埋めた。
ステンドグラスからの光りを浴びて、一人の女性が花を生けていた。
まとめられた髪は無造作で、白いシャツに黒いカフェエプロンをしている。
背の高いガラスの花瓶に、白い花ばかり生けていた。白い花ばかりとはいえ、それぞれ色合いに変化があり柔らかな優しい雰囲気だった。
気がつけば、シャッターを切っていた。わずかな音で彼女が気づくのではないかという不安も、作業の手を止めない姿から杞憂だったとわかる。
あまりにも集中しているので、声をかけることすら憚られる。
しばらく見つめてから、そっと部屋を後にした。
廊下を厨房に向けて急ぐと、こちらからは甘い香りが漂ってきた。
「ミオちゃん」
呼ばれた彼女は、焼き上げたスポンジケーキから丁寧に紙を剥がしている所だった。作業を中断して、顔を上げてこちらを見た。
「教会に人がいたんだけど…」
「ああ。沙奈さんだわ、それ。花を生けてたんでしょ」
うっすらとソバカスの散る頬を緩める。
「なんかさ、すっごい真剣で写真撮ったのに気がつかなかった」
「え、写真撮ったの?」
「あ、うん…」
言ってから、かあっと頬に血が上る。普段ならこんなことありはしない。隠れて写真を撮る、なんてストーカー的な行為だ。
へええっとミオちゃんの目が三日月になる。
「なに、惚れた?」
「違うって…あんまり真剣だったから、つい…」
「つい?」
「うん…撮った」
そう、綺麗だと思った。この一瞬を切り取ってカメラに収めたいと。それは欲望だ。
「意外よね、ファッション雑誌の撮影なんてしてたらモデルさんと知り合う機会だっていっくらでもあるでしょうに」
「それは仕事だから。それにモデルの子だってバカじゃないでしょ。自分だって他にいくらでも芸能人と知り合えるんだから、一介のカメラマンなんて見向きもしないよ」
「そう?結輝は見た目だって悪くないし、いいと思うけど」
「オレお金ないからダメ。モデルなんて…そういうのダメだよ」
ふーんと頷きながら、ミオは作業を再開する。これからクリームでデコレートするなら、多少乱暴に紙を剥がしてもいいはずなのに、ミオはゆっくりと丁寧だ。
「もっとちゃっちゃとやってもいいんじゃない?」
初めて会った時にそう聞いたら、「見えないと思って手を抜くなんてできない。クリームの乗りが悪くなるから」そう言いきった。
ミオもプロなんだ。
ブライダルにしろパーティーにしろ、記念日を祝う大切なケーキを任されている自負があるのだろう。その指先は繊細だ。
ミオもまたプロの視線でケーキを見つめたのを機に、退散することにした。
彼女には…思わず、シャッターを切っていた。そして彼女のことを知りたくて、厨房まで押しかけて名前を聞き出すなんて。
……物凄く意識してるんじゃないだろうか。
ミオに聞くにしても、もっといい理由だってあったはずなのに思いつくこともなかった。
彼女が誰なのかその事が、心を占めていて他のことなんてどうでも良かった。
「沙奈さん……かぁ」
名前を口にしただけで、花を生けている姿が浮かび、きゅうっと胸を締め付ける。
やばい、意識し過ぎかも…