スピカ 5 | ふんわりシフォン

スピカ 5

「三番 大橋さん~」

「ちょっと弱いな。理由は?」


「お金ないっていつも言ってるでしょーが」

「残念。大橋は自宅だろう。食い物に困ってるとは思えない」

「そうっスね…」

耳に赤鉛筆を挟んだ高木くんは、競馬新聞よろしく一枚の紙を前に腕を組んでいた。



「なに、してるの」

お客様からは死角になる紳士服売場のスーツの影で、高木くんと宮地さんは顔を付き合わせていた。


「事情聴取」

宮地さんが、ひらっと手を振る。


「亜依も何か気がついたら言って」


「何か、ねぇ…」

二人の態度を見るとふざけているように見えるのだけど。



わたし達が、かたまっていたのを見つけて、里沙ちゃんも寄ってきた。

「高木ぃ~また亜依ちゃんにメーワクかけて!」

「向こうが寄ってくるんだってば。こっちだって困ってんの!」

ばん、と高木くんは試着室の壁を叩いた。大きな音がしたのに、亜依ちゃんも負けてはいない。怯むことなく口を開いた。


「亜依ちゃんが優しいからって図に乗らないでよね」

「誰が図に乗ったって?オレだってね亜依ちゃんが困ってたら、いの一番に助けるんだっつーの。こーゆーのはお互い様なの」

「あんたがハッキリしないのがワルイ!」

里沙ちゃんはビシッと人差し指を付きつけた。

「…オレはね、皆で仲良く仕事したいだけなの。むやみに事を荒立てたくないんだって」

首を傾げた高木くんが、こめかみを揉む。

「里沙ちゃんも高木くんも、落ち着いてよ。まだ村岡さんが告白するとかじゃないし、わたしなら大丈夫だから」

「もうっ亜依ちゃんは高木に甘いんだから」

膨れっ面をつくりながらも、里沙ちゃんはこの話題を終りにした。






「そろそろいいか」

宮地さんが、高木くんに先を促す。


「なにコソコソしてるの」

こそっと里沙ちゃんがわたしの耳に問いかけてきた。

「高木くんの夜食が無くなるそうなの。容疑者を絞りこんでいるみたいよ」

「まったく自分で処理出来ないことばかり、よく降りかかるものね」


里沙ちゃんの言葉に、高木くんの体は素早く反応してこちらに顔を向けた。

「それが、オレの、せいだ、とでも?」


「どこかで恨みでも買ってるんじゃないの」

バチリと火花の出る勢いで視線がぶつかる。

「………高木、容疑者の洗い直し。お前の選択基準は『金が無くて腹を空かせた奴』だったろ。『怨恨』も、だ」

ぱしっと紙を弾いた宮地さんが口を開いた。高木くんは恨めしそうに里沙ちゃんを見遣る。

「了解。でも本っ当、オレ恨まれたりとか有り得ない」


「お前が悪くなくても、恨む奴は居るってことだ」

きっと。わたし達の頭の上に吹き出しがあったなら、大文字で『村岡さん』と表示されたに違いない。