スピカ 3 | ふんわりシフォン

スピカ 3

「そういや最近、オレが決死の思いでGETしてる弁当が消えるんッスよ」

高木くんの口がへのじに曲がる。


「誰かに食べられちゃうってこと?」

「そーそー。ヒドくないッスか?おばちゃんから守り抜いた特上カルビ弁当ッスよ?本田さんにも『彼女つくりなよ』とか言われながらやっとの思いでGETしたのに」

カルビカルビと呟く高木くんは、犯人に呪いでもかけそうなくらい悔しそうにテーブルを叩く。

「それ問題だわ。お前、どこに弁当置いてたんだ?」

宮地さんも高木くんのほうへ、身を乗り出した。

「どこって普通にバックヤードですよ?」

ポカンと一瞬宮地さんの顎が落ち、ついで片眉が持ちあがる。

「お前なぁ、バックヤードに置いとくなんて、どうぞ持ってってと言ってるようなもんだぞ」

口を突き出した高木くんも反論する。

「だって今までだってそうして来たんッスよ?最近なんスよ。なくなるのは」

うーんと腕組みした宮地さんが、

「そりゃ問題だ。高木、後で置いといた場所教えろ。身内に手癖の悪いのがいるなら、探さないとマズイな」

言うなり、ちらりと時計を確認して、宮地さんは席を立った。休憩時間が終わるらしい。

「弁当のこと他に話した奴はいるか?」

「いや…本田さんには言ったかも…あと二人くらい?」

考えているようで、頭を傾げる。


「なら他にはまだ言うな。騒ぐと逃げられる」

身を翻して宮地さんが出ていくと、レジ係の華やかな団体が来るのが見えた。

きゃっと飛び上がるような勢いで、高木くんも残りの食事を片付けはじめた。

食べ終えた わたしがゆっくりお茶を飲んでいたら、レジ係の団体がそばにやって来た。

「高木くぅーん、隣いいかなぁ」

甘ったるい喋り方をするのは村岡さんだ。押しの強い彼女は、回りの状況も相手の感情も気にしないことがある。

ちらりと顔を見ると、ひくっと高木くんの顔が引きつったのが分かった。

「オレ休憩あがりだから、ここのテーブル使って」

「えーまだいいでしょおっ」

いや、まあ、やることあるし、などと苦しい言い訳をしながらも、わたしに向けた視線で何か言えとその目が言っている。

「高木くん、チラシ商品の確認して欲しいって蓮沼さんが言ってたよ」

「いやーそうだ!悪いね」

大袈裟すぎる程派手な音をたてて、高木くんが去っていった。

「どぉして佐伯さんは、アタシが高木くんと仲良くするのを邪魔するんですかぁ」

まなじりを吊り上げて村岡さんが口を開く。村岡さんの後ろで、同じレジ係の実果ちゃんが、目を見開いて彼女の袖を引いてやめさせようとしてくれる。

「邪魔するつもりはないけど、用件を伝えただけよ」

座ったわたしを見下すように言葉を投げつけてくる。

「じゅーぶん邪魔なんですけどぉ。高木くんから名前で呼ばれているのだって、売場が一緒なだけでしょお」

わたしもトレイを取り上げて返却に向かう。

「そうね。同じ売場だもの信頼関係ならあるわ」

村岡さんの顔から余裕が削ぎ落とされて、ざらついた感情が見える。

「なによ冷血女なくせに」

吐き捨てられた言葉は背中に聞き流した。