スピカ | ふんわりシフォン

スピカ

ふと わたしの琴線に絡むものがあった。

ほんの時々、わたしの領域を付き破って何かがわたしに届く。

それは予知というものの一種であるようで、外れたことがなかった。



何気なく見たテレビ番組で、音楽プロデューサーと歌手が結婚する、とわかる場面があった。

だから暫くして、その音楽プロデューサーがモデルと結婚した時には、『ああ わたしの勘も鈍ったな』と苦笑いしか出なかった。

そういったギフトは年齢とともに鈍くなるものだと聞いていたから、なんだか肩の荷物がおりた気がした。

それからまた数年がたち、その音楽プロデューサーが、再婚した相手が予知した彼女だったので、なんだかがっかりしたのを覚えている。


もの事の枠が見えてしまったようで、人には決められた運命があるのかと、足掻いても報われない、そんな気がした。







ドア一枚隔てて世界が違う。

華やかに彩られた店内から、ドアを抜けてバックヤードに抜けると照明も絞られて、一瞬ひやっとする。

業者から到着した荷物が積まれたそこは、天井が高く暖房も冷房もない倉庫で、用がないかぎり人もいない。
足早に通り過ぎようとして、声をかけられた。


「亜依ちゃん」

荷物の森から、ひょろりとした人物があらわれる。癖のある髪がふわふわと優しげな顔を縁どっている。

淡いブルーのシャツにストライプのネクタイ、細身のスラックスに、リーガルのウイングチップ。バックヤードでにいたため、上着を羽織っている。

彼はなんとなく三月ウサギを思わせる容姿をしている。このまま耳を付けても違和感ないほどに。

「なあに?高木君」

「亜依ちゃんご飯でしょ。お昼一緒しよう」

この三月ウサギは、さみしがりやだ。知り合いの居ない時間帯にお昼を食べられない。

「高木君の奢りならいいけど。わたしじゃなくても、食堂に行ったら誰かいるのに」

ぶんぶんと顔の前で手を振って、無理無理と答える。
「もし村岡さんと二人だったりしたら、気まずいッス。宮地さんもなぁ…いい人なんだけど」

「お小言になるからねぇ」

仕方なく、そーそーと相槌を打つ高木くんを従えて二階の食堂へ行くことにする。



このお店は一階が食料品や衣類、雑貨などを扱うスーパー兼ホームセンターで、二階に従業員のロッカー、食堂などが用意されている。

食堂のドアを開けると、早速宮地さんが目に入った。目が合うと、「おう」という言葉とともに、はしを持った右手があげられた。宮地さんは日用品担当のチーフで、わたしや高木君の上司にあたる。

会釈を返しながら列に並ぶ。ここは食券方式でメインディッシュ、小鉢二つ、汁物を選べる。覗くとぴかぴかした銀ダラが美味しそうに煮付けられていたので、それを取る。この食堂は、店で捌けなかった食材が回ってくるので時々豪華な食材にありつくことが出来る。

一切れ200円はする銀ダラは、家で食べたことのない魚で、鮭やししゃもしか知らなかったわたしには、その美味しさは衝撃だった。数が少ないので、見かけたら必ず食べている。

「亜依ちゃん銀ダラ好きだねぇ」


「家では食べられないもの。高木くんは肉?」

見れば大きなハンバーグの乗ったメインディッシュが、ほかほかと湯気をたてていた。

「そ。力付けなきゃね」

ニカッと笑った高木君とともにわたしは宮地さんのテーブルに向かった。