FULL MOON 夜を駆ける 1 | ふんわりシフォン

FULL MOON 夜を駆ける 1

風に草が揺れる。ざわざわとゆらぐ藪を透かしてみる空には、月がある。

冴えわたる空には、満月がかかっている。




ぺたぺたと湿った足音をたてて森を渡る。なぜなら彼女は、裸足だったから。

服もサイズの合わない大人ものを纏っている。丈の合わない裾を幾重にも折り重ねて、それでもどこか ぶかぶかと大きかった。

切り揃えられた黒髪は、どこか作り物めいて見えるけれど、はっきりとした瞳が作り物でないことを示していた。



ぺたぺた、ひたひた

夜を渡り苔むした家へとたどり着く。軋む戸を開いて家の中に入ると、家長である父が一角に切られた炉端に座っていた。

明かりといえば、炉の炎しかなく赤い照り返しを受けて杯を口に運んでいた。



「用は済んだかい」

「ええ、父さん」

背中から鳥と野菜を下ろす。まるまると太った鴨だ。脂が乗っているから、炙って食べたら美味しいだろう。

羽根を毟り、はらわたを抜き、塩だけ擦り込んで串を打つ。炎にかざすとぱちぱちと火がはぜて赤くなった。
慣れた手つきで串を炙る。



「何か変わりはあったか」


ちびちびと酒を舐めながら、遠い目をする。

「ソウニャの子供の…12代目の子が結婚するそうよ」

「ほぉ…あの子は良く似ておるからの。血筋がよく顔にでとる」



ぱちぱちと炎のはぜる音がする。


「…随分と生きたものだの」

虫の音が、静かな山あいに響いている。

死が迎えに来るまで、私達は生き続ける。もしかしたらそれは、代替わりとして、新たな命が授かるまでなのだろう。

歳を数えるのは、もう止めている。生身の私達と最後に関わりのあった者を時間を計る物差しにしている。



あの時から、私の時間は止まっているのだから。