FULL MOON 26 | ふんわりシフォン

FULL MOON 26

「信じらんない、方向音痴」

「呼ばれたんだって」

すたすたと明け星が歩いていく。後を追いながら、まわりに問いただしていく。
『誰?』

そして『何処?』

体全体がレーダーのように微弱な電流を探していく。
何処からか呼んでいる。近くにひとつ。あとは点在する光のマップみたいに、まぶたの裏にある。



「植生が日本の南になる…ずいぶん流されてる」

黒猫は薄暗い山のなかで状況を把握しようとしている。

「とにかく道に出るから」

文句を言ったって、連れがいるのはいい。ひとりなら竦みそうな闇が降りてきている。ひとりなら耐えられない沈黙を和らげる存在がある。

黒猫、お前がいてよかったよ。

耳内にチリチリと鈴を鳴らす音がする。

「あ、明け星そっちじゃない俺について来て」

「なに」

歩いていくと一際大きな樹影がみとめられる。ああ、ここだ。ここに呼ばれたんだ。

巨木の基準は地上2メートでの幹周りが3メートル以上。これは、はるかに上回る。

市の指定天然記念物の標識がある。幹周り13.3メートル、高さ20メートル、樹齢は650~800年。

大楠の木だった。





木の幹に手をあてる。抱えきれないのに、抱きついてみたくなる。何人の子供が手をつないだら、一周するだろう。

『…俺を呼びましたか』

『来てくれたね』

ぽっかりと浮かんでくる泡のような言葉。

『助けておくれ。この地を守って欲しい』











『俺に出来ることなら』

黒猫を見た。猫は置物みたいに微動だにしていない。