FULL MOON 19 | ふんわりシフォン

FULL MOON 19

高い場所に行きたかった。泣き腫らした目で、ジョーカーに会いたくなかった。
きっと、知らなかったのは俺だけで黒猫もジョーカーも何があるか知ってた。

猫も犬も汗腺がない。唯一あるのは、手の平。黒猫だって緊張してた。ずっとずっと手を嘗めていたのは、そこだけ汗をかいていたからだ。



どこに行くのか聞きはしない。ただ傍にいる。

罵ってやりたかった、なんで教えなかったかって。でも言わないほうが辛いって解るから言えない。

爆発してしまいそうだ。
行くあてもなく歩くのは、気を紛らわせたいからだ。



森も山もしんとしている。生き物の気配すらない。みんな解るんだろうか命が消えるのを。この地を司り、見守る存在が消えるのを。
山の中腹から家を見下ろして座った。風が吹いたら、傾いで壊れてしまいそうだ。呆気ないくらい簡単に。



あぁ、命が消える

炎が揺れるように、体から抜け出た魂だけがふっつり切り離される。

獣の鳴き声が湧ききおこる。虎、熊?大型の獣の咆哮。ざわざわと鳥も羽ばたき、湧きあがる。



光りの球が浮かび上がる。大きな球と、ふたまわりほど小さい球が、ゆっくり上昇を始める。
螺旋を描くように、くるりくるりと森の木々や、獣たちの上を通りすぎる。通りすぎた後には、また静寂が訪れ啜り泣く気配は森に紛れてしまう。

生き物も木々も悲しんでいる。

どれだけこの地に根強いていたのかよく解る。




光りの球が目の前にやってきた。

『お元気で』

死んでるのに変だけど、こんな言葉しか出て来なかった。

『坊もな』

心に直接響いてきた。あたたかい、春の日差しのような感覚。

そして球は空に吸い込まれていった。






来た道を辿りながら、黒猫はむっつりとして喋らない。

「明け星、辛かったろ」

「そんなこと、ない」

「怒ると思った?泣くって」

「……まぁ…ね」

ひょいと黒猫を抱きあげる。傍に感じたくて上着のなかに入れて抱く。

「お前は、ずっと傍に居るんだろ」


「いるよ」

「……なら、いい」

人間の姿で抱けなくても、魂を抱いて、俺達は寄り添っていくしかない。

歩き始めたこの道を。