FULL MOON 11
「よくやった」
背中にジョーカーの手が沿えられるまで、包丁を抱えて固くなっていた。
かたまってしまった指を、一本一本ほぐして手から包丁を取り上げられるまで、動くことができなかった。
がくがくと膝が笑っている。冷たい汗と涙…頬を濡らすものはどちらだか分からない。混ざりあい、そこにあるだけだ。
俺、生き物を殺したことなんてなかった。
虫くらいならある。でも、これは…人間以上に体積のある獣だ。
明け星が寄ってきて、獣を確認している。硫黄の臭いはそのままで鼻をしかめる。
見ているその場で、獣は影が薄くなっていく。そこに存在していたことが、まるで嘘だったかのように。
たとえ、害をなすだけの生き物だとしても殺すことに胸が痛む。
「空に還ってゆくね」
鼻をならした明け星が、見上げる。黒い粒子が硫黄の煙りに混じり立ち昇る。
透けて見える程影が薄くなっていく。
ビルの影から昇る月に、黒い粒子は向かっていく。風でたなびくように見えるけれど、風はすべて止まっている。
「私と来るかね」
ジョーカーが体を半分こちらに向けて問い掛ける。
「……聞きたいことがある。まだまだたくさん」
もう一度、獣のあった場所を振りかえる。薄れてしまった影はもう形を見分けることが出来ないほど闇に紛れてしまう。
ただアスファルトに存在した形跡だけを残して。
「いこうか。明け星」
黒い猫はにゃあとないた。
背中にジョーカーの手が沿えられるまで、包丁を抱えて固くなっていた。
かたまってしまった指を、一本一本ほぐして手から包丁を取り上げられるまで、動くことができなかった。
がくがくと膝が笑っている。冷たい汗と涙…頬を濡らすものはどちらだか分からない。混ざりあい、そこにあるだけだ。
俺、生き物を殺したことなんてなかった。
虫くらいならある。でも、これは…人間以上に体積のある獣だ。
明け星が寄ってきて、獣を確認している。硫黄の臭いはそのままで鼻をしかめる。
見ているその場で、獣は影が薄くなっていく。そこに存在していたことが、まるで嘘だったかのように。
たとえ、害をなすだけの生き物だとしても殺すことに胸が痛む。
「空に還ってゆくね」
鼻をならした明け星が、見上げる。黒い粒子が硫黄の煙りに混じり立ち昇る。
透けて見える程影が薄くなっていく。
ビルの影から昇る月に、黒い粒子は向かっていく。風でたなびくように見えるけれど、風はすべて止まっている。
「私と来るかね」
ジョーカーが体を半分こちらに向けて問い掛ける。
「……聞きたいことがある。まだまだたくさん」
もう一度、獣のあった場所を振りかえる。薄れてしまった影はもう形を見分けることが出来ないほど闇に紛れてしまう。
ただアスファルトに存在した形跡だけを残して。
「いこうか。明け星」
黒い猫はにゃあとないた。