FULL MOON 10
くぐもった轟きが空気をふるわせる。なにかがぶつかる鈍い衝撃。
なにが、どこに?
疑問が頭をもたげ黒猫を見ると、小さく息をついた。
「…もたない。来るよコノハナ」
ドォンと衝撃音がして辻の向こうから、硫黄の煙りをたなびかせた黒い物が現れた。
どう例えたらいいだろう。角のある頭は牛のようで、体は猫科のしなやかさと獰猛さがある。
硫黄を燻らせているのは、なにかやってきたからなのか…
「奴の間合いに入っちゃダメ」
「知らないって、そんなの」
金色の瞳孔はヤギのように横に開いていて、あたりを伺っていた視線がぴたりと照準を合わせる。
間違いない。俺にだ。
手のひらに浮いた汗をジーンズでぬぐい、ジョーカーを盗み見た。腕を組み平然とした様子で獣を見ていた。
「どぉすんだよ…俺になんとかしろっての」
ジョーカーは唇の端をあげて笑う。眼光は鋭くて嫌味とも取れる。
「お手なみ拝見」
咆哮が空気を震わせる。鼓膜を震わせ、衝撃が細かな石粒のように体を打つ。
「朔哉、間合いは5メートルだ。昨日の、試してみよう」
軽くしっぽを揺らしながら明け星が言う。名前で呼ぶことを意識していない。無意識の意識。
「明け星、前に出るなよ。吹っ飛ばされても知らねーから」
覚悟を決める。下腹に力を入れて、足を開く。
ぐるぐると喉を鳴らす獣から、目をそらしたら、ダメだ。頭からかじられたって、おかしくない。
ゆっくり右に移動してみる。追いかけてくる視線から、ターゲット間違いなく俺だとわかった。前脚で土を払い威嚇する姿勢を崩さない。
バン
明け星がたてた物音に、一瞬獣の意識が向く。
その目を狙ってカプセルを投げつけた。
ギャオオオォォ
狂ったように目をこする。
「右目、貰った」
走り寄り、耳の後ろに蹴りを入れる。続けざまに首へと蹴りを入れようとして、特製塩コショウ唐辛子カプセルに潰されていない左目がこちらに向く。
鋭い爪が空を裂く。
いちかばちか至近距離からカプセルを投げつける。
避けようとした前脚で、カプセルは割れ粉塵は獣の顔面を襲う。
狂ったようにのたうつ獣の眉間に向けて、弾みをつけた踵を振り下ろす。
ゴキン
衝撃がかなりの手応えを伝えてくる。これでダメなら嫌だがとどめを刺すしかない。
一瞬の迷いに、ジョーカーの声がかぶる。
「とどめも慈悲だ。殺らなければ寝首をかかれるぞ」
狂ったように転げ回る獣にはかなりなダメージを与えたはずたったが、まだ生きていた。
背中から包丁を取り出す。さらしに巻いて上着の下に背負っていたものだ。刺身包丁で、刃渡りは30センチある。
「背中からでいい。肋の間を狙うんだ」
冷酷だ、明け星。どこからそんなこと知ってくるんだよ。実行は俺なのに。
包丁を持って決心をつけかねていると、ジョーカーがため息をついた。
「………」
腕のひとふりが鞭のようにしなり、無数の見えない刃が獣に振り下ろされた。
「言ったろう?切り札だと」
なにが、どこに?
疑問が頭をもたげ黒猫を見ると、小さく息をついた。
「…もたない。来るよコノハナ」
ドォンと衝撃音がして辻の向こうから、硫黄の煙りをたなびかせた黒い物が現れた。
どう例えたらいいだろう。角のある頭は牛のようで、体は猫科のしなやかさと獰猛さがある。
硫黄を燻らせているのは、なにかやってきたからなのか…
「奴の間合いに入っちゃダメ」
「知らないって、そんなの」
金色の瞳孔はヤギのように横に開いていて、あたりを伺っていた視線がぴたりと照準を合わせる。
間違いない。俺にだ。
手のひらに浮いた汗をジーンズでぬぐい、ジョーカーを盗み見た。腕を組み平然とした様子で獣を見ていた。
「どぉすんだよ…俺になんとかしろっての」
ジョーカーは唇の端をあげて笑う。眼光は鋭くて嫌味とも取れる。
「お手なみ拝見」
咆哮が空気を震わせる。鼓膜を震わせ、衝撃が細かな石粒のように体を打つ。
「朔哉、間合いは5メートルだ。昨日の、試してみよう」
軽くしっぽを揺らしながら明け星が言う。名前で呼ぶことを意識していない。無意識の意識。
「明け星、前に出るなよ。吹っ飛ばされても知らねーから」
覚悟を決める。下腹に力を入れて、足を開く。
ぐるぐると喉を鳴らす獣から、目をそらしたら、ダメだ。頭からかじられたって、おかしくない。
ゆっくり右に移動してみる。追いかけてくる視線から、ターゲット間違いなく俺だとわかった。前脚で土を払い威嚇する姿勢を崩さない。
バン
明け星がたてた物音に、一瞬獣の意識が向く。
その目を狙ってカプセルを投げつけた。
ギャオオオォォ
狂ったように目をこする。
「右目、貰った」
走り寄り、耳の後ろに蹴りを入れる。続けざまに首へと蹴りを入れようとして、特製塩コショウ唐辛子カプセルに潰されていない左目がこちらに向く。
鋭い爪が空を裂く。
いちかばちか至近距離からカプセルを投げつける。
避けようとした前脚で、カプセルは割れ粉塵は獣の顔面を襲う。
狂ったようにのたうつ獣の眉間に向けて、弾みをつけた踵を振り下ろす。
ゴキン
衝撃がかなりの手応えを伝えてくる。これでダメなら嫌だがとどめを刺すしかない。
一瞬の迷いに、ジョーカーの声がかぶる。
「とどめも慈悲だ。殺らなければ寝首をかかれるぞ」
狂ったように転げ回る獣にはかなりなダメージを与えたはずたったが、まだ生きていた。
背中から包丁を取り出す。さらしに巻いて上着の下に背負っていたものだ。刺身包丁で、刃渡りは30センチある。
「背中からでいい。肋の間を狙うんだ」
冷酷だ、明け星。どこからそんなこと知ってくるんだよ。実行は俺なのに。
包丁を持って決心をつけかねていると、ジョーカーがため息をついた。
「………」
腕のひとふりが鞭のようにしなり、無数の見えない刃が獣に振り下ろされた。
「言ったろう?切り札だと」