月が満ちるまで つばさ 3 | ふんわりシフォン

月が満ちるまで つばさ 3

ぽろりと涙がこぼれた。

ちはやの背中がちいさく震えている。

「泣いたっていいじゃない。我慢しなくていいよ」

しゃくりあげるような声。
分かるんだ。泣くのを堪えたら、喉や鼻が傷つく。飲み込む嗚咽は涙とともに鼻血になる。ちはやにはそんな泣きかたをして欲しくなかった。布団に潜って声を殺して泣いても、心は救われない。

何度、隠れて泣いただろう。

人によって傷ついたものは、自分で癒すのだと思っていた。時間がたてば忘れてしまうものだと思った。

でも、違う。
時折思いだすと、やはり苦しい。満たされないものがあるから、暗い穴を覗き込むようだ。

人に傷つけられても、それを癒すのは自分でなく他の誰かなんだ。自分ひとりでぐるぐる解決しない思いは話して楽になったらいい。

「いいよ。なんでも聞くから。今日はとことん付き合うからね」

うんうんと、ちはやがうなづく。右肩を撫でても、やけどの跡は分からない。

「なんだかね、羽根みたいだったよ。ちはやのやけど。片方だけの天使のつばさだね」

わたしたちは、まだまだ未熟で、片方の羽根だけで飛ぶ天使の見習いみたいだ。

片翼だけでも風はおこせる。完全ではなくても、きっと何かできるはずだ。

そばにいるだけでも、話を聞くだけでもいい…わたしにも出来る何かがきっとあるはずだから。