月が満ちるまで つばさ 2 | ふんわりシフォン

月が満ちるまで つばさ 2

背中を壁に押し付けるように着替えるちはやを思い出していた。

傷つけられるだけなら、いないほうがいいの

血のつながりだけで、愛情は芽生えないの

目を閉じると、お父さんの背中が浮かんだ。ほんの子供だったのに、その背中から拒絶を感じていた。思い出すのは背中ばかりだ。

わかってる、わかってる…何度も考えた。いまは…自分の考えに溺れていられない。わたし達は、傷をなめあいたいわけじゃない…

親から愛されないことなら、誰よりも分かるだろう。ただ、わたしにはおばあちゃんがいたから。無償の愛なら知っている。わたしは愛を知っている。



「ちはや」

背中をとんとんとたたく。てのひらが、あたためるように。人にふれられると安心するのは、ぬくもりが伝わるからだ。言葉で伝え尽くせない思いも伝わるならいい。

「あたしは父親ってものが、男ってものが信用できない時がある」

ちはやのなめらかな腕を見る目が、無意識に傷を探すようになっていて、自分に嫌気がさす。何を探した?リストカット?折檻のあざ?

「性格もあるんだろうね。親でも言っちゃいけないことがある、やっちゃいけないことがある…それが許せない時がある」

「うん…」
ゆっくり背中をさする。

やってはいけないことだ、そう強く言われたのは人を傷つけることだ。言葉で力で捩じ伏せたら、その人は自分を見失ってしまう。まわりに怯えながら人の顔色をうかがいながら生きていくことになる。

ぎりぎり捩じ伏せられない強さがちはやにはあったのだろう。

「ちはやがちはやでいて良かったよ」

ほんとのちはやで。
人間の性格なんていろんな面があるはずで、弱いちはやも、強がるちはやも、かわいいちはやも、優しいちはやも、泣き虫なちはやも…それこそ沢山あって

そのどのちはやでも良かった。

わたしに見せるちはやなら、どんなちはやでもいい。

わたしは、ちはやが好きだった。そばにいるのは好きだからだ。

とても単純なことだった。