月が満ちるまで つばさ | ふんわりシフォン

月が満ちるまで つばさ

からからと夜道に下駄の音がする。
花火を見て騒いだ余韻で、気持ちがふわふわして気持ちがいい。

「こんなそばで見れたの初めてだよ」

ちはやも、かごバックをぶらぶら揺らしながら機嫌がいい。

「また、見ようね。来年もみんなで」

今日、何度同じことを言っただろう。これから、何度同じことを言うだろう。

それくらい特別だった。




ぽつりぽつり電灯のともる道には人影はなく、開け放した窓から漏れるテレビの音が聞こえてくる。
どこかで風鈴が風に揺れた。
今日は過ごしやすい。エアコンを使わなくても眠りにつけそうだった。





家に着くとおばあちゃんは居間でうちわを使いながら、テレビを見ていた。

「楽しかったみたいだねぇ」
笑いながら飲み物か、アイスどちらがいいか聞いてくる。

「アイスがいいなぁ」

ぱたんと軽い音がして、ガリガリ君が出てきた。夏のガリガリ君はシャリシャリして美味しい。さっきかき氷を食べたのに、歩いて喉のかわいたわたし達は、今日二つ目のアイスを美味しく食べた。

「さ、少し休んだら汗をながしたらいいよ」

どれだけ花火が綺麗だったか話しつかれて、慣れない下駄に歩きつかれていた。

「ちはや、先にシャワー使って。帯、解いてあげるよ」

ちはやの体がわずかに硬くなる。気にせずくるくる帯を解いて浴衣の肩に手をかける。風を入れてあげようと衿を後ろに引くと、思いがけず大きく開いて、なめらかな背中が肩甲骨のあたりまで覗くようになってしまった。

「ごめんやり過ぎ。風を入れてあげようとしたんだよ」

何やってんの、そう返してくると思った。
それなのに。ちはやは強張った顔をしていた。

「…見える?」

なにが、そう聞こうとしてもう一度背中を見た。

右の肩甲骨の上には、さっとほうきでひと掃きしたような形に、そこだけ肌の色が違う。
そこだけまわりより白く、つるりとしていた。やけどだった。

首の後ろをかくようにして、隠す様子が痛々しい。そうだよね、女の子だもんね。

「バカ親父に突き飛ばされた時、ストーブのヤカンにかすってね」

ふうっと大きく息を吐く。

引きすぎた衿を、前でくつろげるように直す。
そういえば、ちはやは背中の開いた服は着なかった。理由をつけてプールも休んでいた。

「ごめんね、ちはや。やけどの事知らなくて…いやな思いをさせちゃったよね」

ひらっと目の前で手を振る。手の平に遮られて、ちはやの表情は見ることができなかった。
少し皮肉っぽい声がする。

「いいよ。背中なんて普段は気にしないのにね」

肩を抱くように撫でている。その姿がホントはすごく気にしてると言っていた。