月が満ちるまで ナツのハナ 12 | ふんわりシフォン

月が満ちるまで ナツのハナ 12

「……ちはやちゃん、オレのこと避けてない」

「なに言ってんだよ、会うだろこれから」

「だってさ、七夕で逃げたよ?追いかけて約束したけど、乗り気じゃなかった」

ゆらっと吊り革が動く。ゆらりゆらり動いているのは、腕だけじゃない。一番揺れているのは、その心で…無意識のうちに腕も動いてる。

「バカ言うなよ。橘さんに聞いたんだ。浦川はハルのこと意識してるってよ。…すっごく気にしてるってさ」

鼻をすする音がした。乱暴に顔をこすって、その顔をあげた。

「やっぱさ、好きなんだ」

ぽつりとこぼれる。
聞かないふりをしよう。それは俺が聞く言葉じゃないから。





アナウンスが連結の終了を告げる。ドアの前には乗客が待っている。いったいどの座席を狙うのだろう。

ドアが開き夏の空気が押し寄せる。

冷房にさらされていると、心地いい温度の気がしてくる。体温と変わらないほど暑くなるから。



行く先と時間が読み上げられ発車のベルが鳴る。

「夏休みに入ってから、ずっと会いたかった。海斗だってそうだろ。なんかさ、理由がなくちゃ会えないんだよなぁ…まださ」



理由、会いたいから



まだそんな理由は使えなくて。俺達は必死に理由を探すんだ。気負わずに誘えるような理由とデートプラン。





みんな、みんな君のため

君の見せてくれる笑顔のために。









出発のアナウンス。
行く先と出発時刻が読み上げられる。上りは男性の声だ。発車のベルが鳴り、ドアが閉まりだす。

プシュっとエアーの出る音。中央からほんの数十センチから動きが遅くなる。

安全確認。

ドアでさえ気持ちがあるかのようにプログラムされ、動いている。



そして俺は

隣で小さく笑った。