月が満ちるまで ともしび 6 | ふんわりシフォン

月が満ちるまで ともしび 6

どこを歩いたのか、よく覚えていない。
とぼとぼ重い足をはこんで、いつしか迷子のような気持ちがしていた。



もう、帰りたくても帰れないんじゃないか



帰っても、もう誰も知らない人ばかりになっているんじゃないか








甘い匂いがした。

懐かしい気がした。換気扇からゆらゆら湯気があがっているようだった。






ぼんやり 眺めていた。

どんな人がこの家にいるんだろう。

やっぱり泣いたり笑ったりして、ご飯をたべたりテレビを見たりしているんだろうな…

なんだか離れられなくて窓の外に立っていた。



ふいに窓が開いた。

ふわりと湯気と甘い匂いが強くなる。

「おばあちゃん湯気すごいから、換気するよ」

大きな目をこぼれそうなほど見開いた女の子だった。


まずい、変な奴だと思われる



走って逃げた背中に声がかかる。

「柊也お兄ちゃん…」



その声は足を止めるのに十分だった。

どうして、僕の名前を知っているのか…

ここは通っている小学校の学区ではなかった。違う小学校まで名前を覚えてもらえるような特技もない。

考えていたら玄関の引き戸の開く音がして人が出てきた。

おばあちゃんと孫の組み合わせ。



「柊、逃げなさんな。追いかけたら、ばあちゃんは骨を折っちまうよ」



暗がりで確認するのは難しかった。

そう思ったら、自分から街灯の光の輪に入った。

後ろに女の子がくっついている。



優しげな顔だった。

しわというしわが笑いじわのようで、なんだか安心できた。



「ご無沙汰しているからね。この前会ったのはジイさまの法事だったかねぇ…」