わっちの職場 ー25℃の冷凍倉庫は今日も混沌としていた。
それでも物量が少なかったのでまだマシだったが、
メンタルが疲れる感は否めない。
普段、昼間眠くなったりしないわっちが
今日に限って、遅いお昼を食べて
下のわんこを胡坐の中に収めて身体を温めているうちに
眠くなってきた。
これは…もう、ダメだ。耐え難い。
そのまま、パタリとテーブルに突っ伏して記憶を失った。
はっ、と目を覚ましたとき
今は夜か?朝か?
って思うくらい爆睡していた。約1時間。
時計は16時。
明日は雨予報だった。下のコのお散歩に行かねば。
胡坐の中のわんこを起こして、
部屋着の上にベンチコートを羽織って外に出た。
わんこの歩く様子を、つまづきそうな気配はないかと
注意深く見ながら歩いた。
歩くのもゆっくりになったなぁ。
こうして、あとどのくらい、一緒に散歩できるんだろう。
ヘルニアで足を付けなくなったときもあったけど
今はその足を軸にして足上げてちっこしたりするから
痛みとか違和感はないんだろうな。
だからといって、歩かせていて痛みがぶり返しては
元も子もない。
まだ大丈夫かな、くらいのところで抱っこする。
その抱っこ体勢に入ったら、真後ろから走ってくる足音。
そんなのに気づいたらもう下のコのスイッチが入る。
「ワゥッ‼ワンワン‼」
いかん、子どもか何かか。すぐ抱き上げて歩き出そうとしたら
「すいません、すいませんっ‼」
と、足音の主が声をかけてくる。
振り返ると全力で走って来る、女性。
この団地内に似つかわしくない、ちゃんとしたヨソイキスタイル。
おや、そのピンクベージュのジャケット、いいね
なんて思ってよくよく見たら、なんかマイク持ってる。
「すいません、○○テレビの者なんですけどっ」
うん、わっちの地元のローカル局ね。あんま観ないけど。
全速力で走って来た感じの彼女の後から
テレビカメラを抱えた男性も登場。
かいつまんで言うと、なんか昨夜から今日未明にかけて
まさに我が家のある団地内で3度にわたって
熊の目撃情報があったらしい。
なのでそれに関するインタビュー、いいですか?って話。
うそやん。
こんな機会、一生に1回、あるかないか、やん。
それが、まさかのほぼ寝起き状態のスッピンで
仕事終わりの髪もボッサボサの状態で
電波に乗せて県内に我が身を晒す羽目になるって、
なんの罰ですか。
つっても、確かに今日、人が居なかった。
我が家の目の前の公園にも誰一人いなかったし
何ならパトカーが巡回してた。
最近、火事が多いからかなぁ、とか
年末で空き巣強盗に気をつけてね、とか
そういうことかと思ってたんだが
どうやらクマが原因だったようだ。
あまりにも第一村人と遭わないもんだから
たまたま見かけたわっちを意地でも捕まえようっていう
メディアに関わる人間の必死さを
まざまざと見せつけられてしまったのでは
断るのも申し訳ない。
それっぽく、びっくりしたとか気を付けますとか
そんなようなことを答えて、
この映像が夕方のニュースに間に合うといいね…と思いながら
後ろ姿を見送った。
下のわんこを抱えてとことこ歩きながら
「あんた、トリミング行っといて良かったね…」
なんて話しかけた。
あの伸び放題のワイルドスタイルでは虐待を疑われかねない。
愛情と医療費だけはこれでもかってかけてるんだが。
わっちもたまたま、普段のヨレヨレフリースじゃなくて
PUMAのベンチコート着てて良かった。
まったく、何が起こるかワカラン。
団地内のいつもの散歩コースで
こんな目に遭うとは思ってもみなかった。
帰宅後、鏡の前に立った。
さすがにどんな姿してたんだろう、って思って。
いや、もう、まさかの状態だった。
突っ伏して寝てたから、顔に意味不明の痕がガッツリ付いている。
髪も分け目がグダグダになってて、
オールバックなんだかセンター分けなんだかわかんない状態。
普段のわっちは七三分けなのに。
まぁ放送される時間から言って、倉庫の人間は観ないだろう。
昔の会社の人間も仕事中と思われる時間帯だ。
つかそれ以上に、帰宅して夕食の準備をして
風呂に入ってもなお、顔についた痕が少し残っていた。
お肌のハリ…そりゃ、ないよな。
戻りが遅いことに年齢を感じてしまった。
いや、外見はいい。気持ちだけは若く、前向きに行こう。
ちなみにわっちのインタビュー映像は
ローカルニュースの冒頭に放送されてた。
さすがプロ、それっぽいインタビュー映像に編集・構成されてた。
よく見るニュースの一部分になってたので、一安心である。
それと、ご近所に出没したというクマ。
早く冬眠してしまいなさいな…
身近で、緊急銃猟とか、駆除とか、あんまり
聞きたい話ではない。
