しいちゃんは30才の女の子です。
自閉症で知的障害があります。
明るくて笑顔がかわいい女の子です。
木曜日の夕方。
ゲリラ雷雨がありました。
ゲリラ雷雨って最近テレビで、都会に起きているのを観ていたけど、
実際にあうと、その凄まじさはすごいものでした。(都会のゲリラ雷雨みたいに被害が出るほどではなかったけれど)
家に着いたものの、豪雨で車から降りられませんでした。
「しいちゃん、すぐに止むと思うからね、ちょっと待っていようね」
と私は言いました。しいちゃんは、
「わかった!くんしゅ(おりこうになりますのこと)」
と言いました。
久しぶりの大雨。私はしいちゃんと車の中で雨が小降りになるのを待っていました。
でもなかなか雨は止まず、そのうち雷が鳴りはじめました。
「しいちゃん、雷だね、怖いね」
と言いました。しいちゃんは、
「かみなり!ゴロゴロ!」と言いました。
「しいちゃん、雷怖い?」と聞くと、
「かみなり、怖くないよ」と言いました。
「しいちゃん、えらいねえ。おかあさん、雷怖いんだ」
と言いました。私は子どもの頃から雷が苦手です。
雷がだんだん激しくなってきました。
私は思わず悲鳴をあげてしまいました。
するとしいちゃんは、さっと私の左手をつかみました。
しいちゃんの顔を見ると、
しいちゃんは真正面を見て、口を真一文字に結んで、雨空を見ていました。
しばらくして、少しだけ雨が弱くなったとき、
「しいちゃん、おかあさん降りるからね、しいちゃん、濡れちゃうからおかあさんが傘をさすまで、降りちゃだめだよ」
と言いました。
そして大雨の中、玄関前までたどり着きました。
するとまた大きな雷の音がして、
私は「キャー!」と悲鳴をあげてしまいました。
「しいちゃん、おうちに入ろう」
と私は鍵を開けました。するとしいちゃんが、
「おかあさん、お荷物!」と言いました。
私は貴重品が入っているバックは持ったけれど、
他の荷物は車の中に置いてきたのです。
「しいちゃん、あのお荷物はそのままでいいんだよ」
「取りに行ったら、濡れちゃうから」
と言いました。
でもしいちゃんは、「おかあさんのお荷物持ってくるの!」
と言って、傘もささずに車に戻り、
後ろのドアを開けて、荷物を取って戻ってきました。
しいちゃんはずぶ濡れでした。
「しいちゃん、ありがとう!濡れちゃってごめんね」
と言いました。
しいちゃんは大きい荷物を持って、
家の中に入りました。
ずぶ濡れになったしいちゃん。
そして車の中で、口を真一文字に結んで、
空を見ていたしいちゃん。
私はしいちゃんの優しさと強さを感じました。
その時、妹からLINEが来ました。
今、所用でカナダにいる妹が、
お互いの生存確認のように夕方にLINEをくれます。
カナダは多分真夜中。
ゲリラ雷雨としいちゃんの様子を伝えました。
「しいちゃんて、優しいね。しいちゃんといると安心だよね」
と妹。
「しいちゃんは大変なこともあるけど、根っこはすごい子だと思うんだよね」
と私はLINEしました。
「そんなに話せないのに、すごいと思わせるしいちゃんは、本当にすごい子なんだと思うよ」
と妹。
その一言に尽きると思いました。
嵐に立ち向かい、全力で私を守ってくれたしいちゃん。
そこにはしいちゃんの大きな愛がありました。
溢れんばかりの愛を
私はしいちゃんからもらいました。