■ケーブルテレビで失敗
売却対象となったのは、台湾の大衆紙「蘋果(ひんか)日報」(アップル・デイリー)とフリーペーパー「爽報」、週刊誌「壱週刊」、ケーブルテレビの「壱電視」。
壱伝媒は香港で成功したのち、2001年以降、壱週刊、蘋果日報などを順次台湾に進出させた。民主、自由を軸にした中国への批判的な視点や、社会的に関心の高い事件や政界、芸能界の醜聞報道などに力を入れて人気を博し、蘋果日報は発行部数43万と、台湾紙第2位に成長していた。
しかし、09年に設立した壱電視は、業界参入に手間取るなどで多額の資金を浪費。本格的な事業展開に乗り出せないまま、12年3月期の赤字は11億香港ドル(約120億円)を超え、経営全体を圧迫。台湾でのメディア事業を総額約175億台湾元(約500億円)で売却することになった。
共同出資で引き継ぐのは台湾の化学最大手の台湾塑膠工業(台湾プラスチック)集団(王文淵総裁)▽メディア大手、旺旺中時媒体集団の蔡衍明会長の長男、蔡紹中氏(旺旺中時媒体集団社長)▽大手金融グループ、中国信託金融控股(チャイナトラスト)創業者、辜濂松会長(6日に死去)の長男、辜仲諒氏(中信慈善基金会理事長)▽葬祭会社最大手、龍巌人本の李世聡会長▽損害保険大手、台湾産物保険公司の李泰宏会長。
蘋果日報、爽報、壱週刊の活字メディアは、台湾塑膠工業集団が34%、蔡紹中氏が32%、辜仲諒氏が20%、李世聡会長が14%の株式を取得。また壱電視については、王文淵総裁の家族が34%、李泰宏会長が32%、辜仲諒氏が20%、李世聡会長が14%を取得する。
当初は辜仲諒氏が一括出資に動いていたが、台湾当局の金融産業分離の方針で、辜氏の持ち株比は20%を上限とされた。
■しのびよる中国の影
この売却契約で台湾社会が懸念したのは、活字メディアの第2株主となった蔡紹中氏。後ろ盾の蔡衍明会長は、2007年以降、台湾のメディアの買収に乗り出し、09年までに保守系有力紙「中国時報」や経済紙「工商時報」など活字メディアをはじめ、中国電視、中天電視などテレビ局を傘下におさめた人物。もとは台湾北東部・宜蘭県の食品会社の経営者だったが、日本の米菓会社との技術提携を機に、米菓の製造・販売で「台湾一の富豪」と呼ばれるまでに大成功した旺旺集団の創業者だ。
90年代に中国市場で成功し、その後は拠点を上海に置くなど中国要人との関係も深い。沖縄県・尖閣諸島の日本政府の国有化では、台湾も尖閣諸島への主権を主張しているが、懸案の日台漁業協議の準備が進む中、9月25日に宜蘭県の漁民らが抗議漁船団を組んで尖閣の日本領海に侵入した。その際、燃料費補助を断った県政府に代わり、500万台湾元(約1450万円)を寄付した。
蔡会長は日ごろから「中国と台湾の統一を見たい」と発言するなど、物議をかもしているだけに、傘下メディアの中国寄りの視点も目立つようになり、「私物化」批判の中でベテラン記者や編集者の退職も相次いでいる。
■広がる反発の中で
蔡会長は、別にケーブルテレビ大手、中嘉網路の買収にも乗り出しており、壱電視の業界参入では妨害工作を展開したとも目されている。このためメディアの一極支配や報道の自由の後退に対する懸念は台湾社会に広がり、旺旺中時媒体集団傘下の中国時報などの不買運動にまで発展していた。
今回の売却契約の締結では「中国が台湾メディアを支配し、台湾世論を操作する憂慮が現実になった」との批判が識者を中心に展開され、抗議の学生が治安当局と衝突する場面も。
売却契約は2カ月以内をめどに公正取引委員会と通信伝播委員会、経済部(経産省に相当)投資審議委員会で審査されるが、蘋果日報の記者らは「今から流れが変わるとは思えない」と悲観的だ。
(よしむら・たけし 台北支局)
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