とりあえず今も昔も変わらず
美味しいオロナミンCを飲んで
いたら。



「あの。。。」



若い紘ちゃんが口を開いた。




「私、ついに頭がおかしくなって
  しまったのかな?って思って。」




今にも泣き出しそうな暗い顔で
うつむいている。




そうだったよ。
この頃の私は常に不安感に
苛まれていてだいぶデリケート
だったよね。




思わずぎゅうと抱きしめて
あげたい衝動にかられましたが。




そこはぐっと我慢しながらも
何とか元気づけてあげたいと
少し大袈裟なぐらい明るく話しかけた。




「いやいや、私もさっき全く
  おんなじこと思ったよ!あれ?
  私狂ったかな?って(笑)」



紘ちゃんは少し笑ってくれた。




客観的に自分を見るという言葉は
よくあるけれど。



それとは全く別次元の状態が
あまりにも不思議過ぎる。




もっと大人かと思っていたけど
よく見るとまだだいぶ幼い顔を
していることに気がつきました。




  紘ちゃんは私の頭を見ながら
「白髪が生えているね。」と言った。



「そうだね。今41歳だからね」と
  言うと若い紘ちゃんは少しびっくりした
  顔をしていました。



「それに少しだけ痩せたね」




「そうだね。でもダイエットに
  成功してもっと痩せていた時期も
  あるんだよ!55㎏くらいまで
  痩せたんだから!」




だいぶ得意気に言ってしまった。




紘ちゃんの顔がほんのり
ピンク色になりとっても嬉しそうに
笑った。



「そんなに痩せられるの?
  痩せてまた仕事出来るように
  なったりする?」




「うん。社会復帰出来るし
 そこで旦那と出会って結婚するよ。」




またまた得意気になってしまったよ。




すると紘ちゃんはものすごく
びっくりした顔で叫んだ。




「えっ⁉️私、結婚するの?」



うんうんと頷くと。




紘ちゃんは興奮ぎみにとっても
嬉しそうに喜んでくれた。




「私のこと好きになってくれる
   男性がいたの?」




「うん。とっても愛してくれるよ。」




ただ若い紘ちゃんが妄想している
ハリウッド映画みたいなウットリする
ような愛情表現は皆無で
少々毒のあるかなり独特な愛情表現では
あるけれど。。。


ということはあえて言わなかった。




この頃は思春期に
数人の男子に意地悪をされたぐらいで
私に優しくしてくれる男性はきっと
一生いないだろうと深く深く傷ついて
いたのだ。




だから愛してくれる殿方がいると
知っただけで十分だと思った。




「紘ちゃんが生きていてくれて
   良かったよ。
   だって最近ね、アメリカの
   ツインタワーに飛行機が
   突っ込んだんだよ。知ってるでしょ?」




不安げな顔で紘ちゃんが
話し始めた。




ってことはこの紘ちゃんは
ハタチということになる。




「あの飛行機が突っ込むニュース見てね
  世界が終わるんじゃないかって本気で
   怖くなってしまって。」




すぐに暗い顔になってしまう紘ちゃん。




「確かにあれはショックだったよね。
  初めは何かの映画のワンシーンかと
   思ったもんね」



「うん」と浮かない顔で頷く。




「あんな酷い怖いことが
  これからも起きたりするの?」




紘ちゃんは不安げにジッと
私の顔を見た。




「色々なことはあるけど
  今思い出してもそんなに大きな
  ことはなかった気がするよ。
  楽しいことも沢山あるし。
  成人式の振り袖は着られなかった
  だろうけどウェディングドレスは
  着られるよ。」




「そっか。」とあまり興味がない
  様子で頷いた。



確かにウェディングドレスなんか
人生で1度も気にしたことなかったよね。




「成人式には絶対に来いよ」と
  小学生の時の担任だった先生と
  約束をしていたんです。




まさか自分が引きこもりなんて
しかも100kg近くも太るなんて
思ってもいませんでした。




当時は成人式も振り袖も
全く興味なんてねーから!と
すかしていましたが。




本当は綺麗な振り袖を着て
みたかったのです。




着物はいつでも着られても
二十歳の成人式の振り袖って
一生に1度じゃないですか。と
時々思い出しては感傷的に
なっていました。




だからウェディングドレスも
私には一生縁がないと思っていたので
着られて良かったなと今は感じて
いるのです。



そんなことハタチの紘ちゃんには
まだわかりませんよね。



気を取り直して話題を変えました。




「今ね、これから自分は
  どうなるのか不安で不安で
  仕方がないと思うんだけどね。」




紘ちゃんは顔を上げて
真剣に私の方を向き直した。




「1つだけ確信をもって
  言えることがあるんだよ。
  とにかくね絶対に大丈夫だってこと。」




「全て上手くいくし
  これからどんどん良くなっていくし
  絶対に絶対に絶対に大丈夫だってこと。
  だってこの私が言うんだから
  信じられるでしょ?」




紘ちゃんは「うん。」と
強く頷いた。



何だか紘ちゃんが真剣に
聞いてくれるんで、嬉しくなって
熱く語り続けた。




「一見、最悪に思える出来事が
  すごい幸せの前触れだったなんて
  ことがあるんだよ。
  実際の体験談から言ってるんだよ!
  今のあなたの体験がまさにそうだよ
  この引きこもりの時期がね
  今の私の絶対に崩れない精神の
  基盤になっているんだよ」




紘ちゃんは涙をボロボロと
流しながら黙って頷く。




「今のあなたがいてくれたから
   この私がいるんだよ。
   紘ちゃんに感謝の気持ちで
   いっぱいなんだよ。
   沢山泣いて、沢山苦しんで
   沢山恥ずかしい気持ちを感じて
   くれたね。
   本当にありがとうって思ってるよ。」




泣いている紘ちゃんの前で
だいぶ悦に入りながら言ってるなと
自分をちょいちょい客観視しながらも
気がついたら私も泣いていた。




「とにかくね、これから
  どんどんどんどん生きやすくなるし
  あぁ~!生きてて良かったぁーって
  心の中で叫ぶなんてことも何度もあるよ。
  だから絶対に大丈夫だから
  あまり心配しないで。
  そんなに深く考え過ぎないで。」




涙を拭きながら紘ちゃんは
頷いて、そしてまた泣いた。




その後はどんな話をしたのか
あまり覚えていないけど2人で
笑いながら色々なお喋りをしました。




補聴器がだいぶ進化して
防水仕様になったよと言ったら
すごい喜んでくれました。




補聴器はどうしても
湿気に弱くて夏場は故障の原因に
なっていたので暑い夏が
私達は大嫌いでした。




補聴器が防水になったことで
余計なストレスがなくなって
夏を思い切り楽しめるようになったよと
言ったらホッとしてくれました。




ハタチの自分はもっと
生意気で嫌な奴だったと
記憶していたのに。




目の前のハタチの紘ちゃんは
以外にもとっても素直だった。




「大丈夫だよ」ってとにかく
安心させてあげたいと思った。




だから、3 11のことはもちろん
今現在の世の中の様子なども一切
話しませんでした。




気がついたら窓の外が
暗くなっていました。




そろそろ帰りたい気もするけど
果たしてどうやったら帰れるの
だろうか。




再びトイレに入ったら
帰れるのだろうか。




そんな話を2人でしていると。




1階で誰かが帰って来た音がしたと
思ったら2階に上がってくる足音が
聞こえる。




2人で顔を見合わせて
静かにじっとする。




ノックをする音がしてドアが
開きました。




この次元では私が間違いなく
部外者なわけで、この状況を
他の家族が見たらなんて思うか
わからない。




小さな六畳の部屋には
隠れる場所はないので私はただ
じっとイスの上で
若い紘ちゃんはベッドの上で
固まったままになりました。




ドアから顔を出したのは
母上でした。



「ただいま。何か話し声が
   聞こえたから」




私は母上の視界に入る場所に完全に
いるのですが、私のことは全く目には
入ってないようでした。




母上はベッドの上の
若い紘ちゃんにだけ向かって
話しかけていました。




紘ちゃんは少し慌てた声で
歌を歌っていたんだよと答えた。




母上はもう暗くなっているのに
カーテンを閉めないで電気をつけて
いるのに気がつき。




「外から丸見えだからもうカーテン
   閉めなさい。お弁当買ってきたよ。」
  とだけ言ってドアを閉めた。




母上は少しだけ今よりふっくらして
いるが神経質そうな顔は相変わらず。




「相変わらずだね。」と言うと
  紘ちゃんが笑った。




私の姿は他の人には見えないと
いうことは私達はもしかしたら
マジで頭がオカシクなっている
のかもしれない。



でもそんなことはどうだって良いよ。



私は引きこもりの時の自分に
ずっと言いたかったお礼が言えて
しかも彼女を少しだけ励ますことが
出来た。



とっても気分が良かったし
楽しかったのだ。




「なんか時間の経過がおんなじ
  だとするとそろそろ夫が帰って
  来るから私は帰らないと。」




「そうだね。試しにトイレに
  入ってみたら?」




さっそくトイレに入ってみる
ことにしました。




紘ちゃんもトイレまで
ついて来ました。




ドアを閉める直前に紘ちゃんが
手品でも見に来た様な楽しげな顔つきで
軽く手をふったのが見えた。




私も軽く笑顔で手をふり
とりあえずドアを閉めました。





つづく


これは間違いなくフィクション
であります。







これは昨年の紅葉です。