水無月の空 (珈琲屋と雑貨屋)4 | 瑠璃色の地球(ほし)の青宝玉

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大野君に魅せられ、重症サトシックのおばさんです。
年甲斐もなく智愛叫んでます。
お名前をお借りして腐小説を書いています。
ご理解いただける方のみお入り下さい。

男性の方のご入室はご遠慮下さい。

テーブル置かれた珈琲を

勢いよく口に運ぶから

熱さに負ける雑貨屋

 

「珈琲はそうやって飲むものじゃねえの

 まず香りを楽しんでから

 ゆっくり口に運べって」

 

特別な珈琲を淹れてやったのにと

ちょっと呆れ顔の豆屋

 

「いつもより熱くないです?」

 

バツが悪いのか

それでも文句を言ってしまう

 

「答えに辿り着けないからって

 イライラしてもしょうがないだろう 

 お前はさ、答えの近くに居るの

 まず ・・・ 絵を描く人が持つもの

 だから ・・・ 画伯

 それは正解」

 

「でも画伯じゃないって ・・・」

 

ムスッと口を尖らせて

不満げな顔でゆっくり珈琲を口に運ぶ

雑貨屋を擁護する訳ではないが

本当の持ち主が絵を描く人かどうか

多分、知らないはず

 

「骨董屋はお前が思い浮かべた

 現代の画伯じゃないって言ったんだぞ」

 

「現代の画伯以外の画伯? ・・・

 ああ「蒼の魔術師」ですか?

 それなら付喪神になったのも分かる

 でも、その画伯はもう居ないですよね」

 

「そうなるが

 それを受け継ぐ人がいる」

 

「画伯父ちゃんですよね ・・・

 骨董屋さん、降参します

 教えてください」

 

いきなり白旗をあげて

考えるのを止めた

 

「これを購入したのは画伯父ちゃんだよ」

 

「じゃあ、有ってるじゃないですか」

 

抗議の眼差しを向けるが

骨董屋は小さく頭を振った

 

「これと同じものがもう一つあたんだ

 それは彼の宝物だった

 フランス留学してる時

 翔父が誕生日プレゼントととして

 贈った物だから ・・・

 今は何処にも残っていないよ

 彼奴が持って行ってしまった」

 

遺言で一緒に埋葬して貰ったのだろう

誰かに渡すことで喧嘩になってもいけないから

画伯父ちゃんらしい判断だな ・・・

 

「これは?」

 

「一番末っ子のハルのものだよ

 絵を描くことが好きだったハルは

 画伯父ちゃんの絵の具入れが憧れだった

 いつか自分も同じものが持ちたいと

 自分の進むべき道を決めた時

 画伯父ちゃんがこの絵の具入れを

 ハルに贈ったんだ」

 

「絵描きの仲間入りと言う意味でだな」

 

「そうだな ・・・

 彼奴はハルが描く絵が大好きだったんだ 

 これを手に入れた時は

 本当に嬉しそうだった」

 

「骨董屋さんが手配したんですか?」

 

「同じ物と言われたからな

 色々探し回って見つけた

 ハルは画伯父ちゃんから贈られたこれを持って

 店に来てくれたんだ

 それはそれは嬉しそうだった ・・・

 苦労して探した甲斐があったと

 俺も嬉しかったよ」

 

その時のハル君の顔を思い出したのか

骨董屋は嬉しそうに笑った ・・・

 

「それが行方不明になったのは

 どうしてですか?」

 

「平和な世の中であれば

 絵だけを描いていられたんだが

 時代が許さなかった

 この絵の具入れは ・・・

 彼奴が戦地に行く前

 俺の店に預けに来る途中 ・・・

 駅で盗まれてしまったんだ ・・・

 盗んだのが子どもだったらしく

 その絵の具入れを売って

 生活が出来るのならと

 届を出さなず諦めたんだ 

 あの時代は貧しかったからな ・・・

 寂しそうな顔でこの店に来て

 「父ちゃんなら許すと思う」って笑ってた

 本当に優しい子だったから ・・・

 「必ず見つけてやる」って約束したが

 彼奴が生きている間には探してやれなかった」

 

骨董屋にとっては

辛い思い出でもある

 

「良いじゃないか

 今の彼に渡してやれば

 ハルも喜ぶはずだよ」

 

涙脆いのか

雑貨屋の瞳が潤んでいた

 

「そんな時代だったんですね ・・・

 この子もハル君の所に

 戻りたかったでしょうね ・・・」

 

「だから必死に抵抗して

 静かに隠れ開けられないよう

 自衛してたんだろう

 もし木の箱だったら

 燃やされた可能性もあるな」

 

混乱の時代だ

無傷で残っているのは奇跡に近いと思う

 

「ハルに大事にされていたんだ ・・・

 漸くあの家に帰れる

 良かったな、見つけて貰えて

 雑貨屋から俺の気配を感じて

 急いで表に出てきたらしい」

 

「俺から感じたんですか?」

 

「この子たちはチャンスを逃さないんだ

 その為ならかなりの手を使う(笑)

 雑貨屋が行った骨董屋を

 騙すのはお手の物だよ

 力だけは蓄えていたから」

 

「だから何も憶えていないんだ」

 

「まあ、そうなるな ・・・

 雑貨屋が購入した金額の倍払うよ」

 

「お金は要らないです ・・・

 だって ・・・ 無料(ただ)の隣ですから ・・・」

 

実際に支払って来たのか

自分でも分からないが

領収書には品代が有った

 

「そういう訳には行かないよ

 無料の隣でも支払ってるんだから

 領収書の品代を教えて

 その倍を支払う」

 

「雑貨屋、これは骨董屋の沽券にもかかわるから

 ちゃんと支払って貰え」

 

「はい ・・・ 分かりました

 骨董売屋さんにお譲りします」

 

カバンから領収書を取り出して

テーブルに置いた

 

「交渉成立だな

 代金は振り込ませてもらうよ

 さて、帰るよ

 まずハルに会いに行こうな ・・・」

 

優しそうに囁いて

絵の具入れを布に包んだ 

 

「豆屋、美味しい珈琲ご馳走様

 知らせてくれてありがとう」

 

骨董屋は席を立ち

豆屋からお土産の袋を受け取り帰って行った

 

「豆屋さん ・・・

 あれを受け継ぐ人って誰です?」

 

そう聞かれてポカンとする

 

「え? ・・・ 分かってなかったの?」

 

「はい ・・・ 誰なんですかね ・・・」

 

苦笑いを浮かべて

「てんとう虫の彼だよ」

ぼそっと呟いた

 

 

 

 

 

<続きます>