朝ご飯を頂いた後
御前が家令さんに目配せをすると
家令さんは「お持ちします」と答えて
直ぐに部屋を出ていく
「御前なんですか?」
翔兄が聞くと
御前はにこやかに笑って
「本家として参列するのだから
二人の衣装を新調させてもらった
それを試着して貰おうと思ってな」
話を終えたと同時に
桐の長持ちが運び込まれ
中から取り出したのは
平安時代の貴族が着ていた束帯に近いもの
「これを新調したんですか?」
即位の儀の為だけに作られた装束
それに付随する数々の小物
スケールが大きすぎて目が点になる
「一族にとって重要な儀式
即位の儀に臨む二人の皇子の装束と
それに列席する本家筋の者たち
全員の装束を誂えた」
御前が嬉しそうに話すのを見て
一族の悲願の重みを実感した
「この装束はとても着るのが大変でございます
ぶっつけ本番では手間取ると思いまして
一度身に着けて頂いた方が良いだろうと
御前が仰られましたので」
家令さんが丁寧に話してくれる
「家令さんもご一緒されるのですか?」
「はい、私は
長とお坊ちゃまのお支度の手伝いを
させていただきます」
一番信頼がおける人が
二人の介添え役をする
「本家は長の為の者
言葉通りですね」
翔兄が納得したように呟く
「ええ、本家は長の為に有りますので
ご安心ください
お二人のお支度も本家の者が
手伝わせていただきますので」
「よろしくお願いいたします」
そこから着替えが始まったが
まさかこれほど時間が掛かるとは ・・・
着替えが終わった段階で疲れ果ててしまった
「御前、どうでしょうか?」
翔兄は疲れてないの?
かなり嬉しそうな表情
「見てください!」って顔に書いてある
「お二方ともとても似合ってるな
サクちゃんはお疲れのようだが(笑)」
「面目ないです
ここまで着るのが大変だとは ・・・」
「そんな事で根をあげてはいけませんよ
長はもっと大変です」
即位するのだから当然か ・・・
「そうですね
御前、即位の儀に
立ち合える機会を下さり
ありがとうございます」
「当然ですよ
君たち二人は本家に連なる方々だ
堂々と胸を張って列席ください」
列席と言う言葉に
御前の優しさに触れた気がした
しかしこれだけの装束
(それもかなりの人数)
運ぶのは大変だろうな
「長と皇子の装束は
一緒に運ぶんですか?」
「お二人の帝の装束と
見極める者の装束は
既に里に向かっております」
「帝が身に着ける物は
蒼穹国の作法に則り
特別な式が行われることになっている
その為、本家を出発するのも
陽が昇る時刻と決まっているのでな」
一国の帝が即位する
それくらい細かい決まりがあるのだろうな
考えたら陽の一族は
蒼穹国の儀式全てを
自分たちのものにしたのかもしれない
だから ・・・
対の一族だと言い含めて
暁の一族に儀式を強いたのだろう
「御前、そろそろ脱いでもいいですか?
装束は汚したくないので」
話を聞いてた翔兄
唐突に脱ぎたい宣言をする
(ちゃんと理由をこじつけて)
「ふふ ・・・ 着なれない物を身に着けると
肩が凝るからな
脱がせてあげなさい」
一人で着れないのだから
一人では脱げない
悪戦苦闘しながら
装束を脱ぎ
思わずため息をついた
『翔、確か平緒と石帯が
どこかに有った気がするが ・・・
それを着けて列席するのは
難しいのだろうか ・・・』
平緒と石帯 ・・・
そんなものが残ってたか?
「御前、翔様が
翔様の為の平緒と石帯があると
仰られるのですが
それが存在したら
身に着けても宜しでしょうか?」
「もし残っておるのであれば
それを身に着けることは可能だ
皇子もお喜びになられるだろう」
「サク、どこにあるのか分かってるの?」
翔兄に言われて頭を抱える
さくら美術館の宝物庫に有るのか?
「父に聞いてみます」
「出来れば明日の未明までに届けて欲しいが
難しいのであれば
儀式の前日までには用意して欲しい
間に合わないようであれば
こちらの物を使わせてもらうよ」
「分かりました」
かなり前に貴方が言ってたんだ
それがどこかに残ってると
早々に確認しないと ・・・
<続きます>