取りあえず前を向こうか 25 | 瑠璃色の地球(ほし)の青宝玉

瑠璃色の地球(ほし)の青宝玉

大野君に魅せられ、重症サトシックのおばさんです。
年甲斐もなく智愛叫んでます。
お名前をお借りして腐小説を書いています。
ご理解いただける方のみお入り下さい。

男性の方のご入室はご遠慮下さい。

風見鶏の駐車場から海を眺める

海は青ってイメージが強いけど

目の前の海の色は青みがかってるけど

よく目にする絵のような色ではない

 

「今日の海の色は?」

 

不意に声を掛けられて振り向くと

パン屋さんが両手に珈琲を持って

ニヤリと笑う

 

「少しグレーがかったブルーでしょうか ・・・」

 

智君なら簡潔な答えをくれそうだけど

色を表現するって難しい

 

「ナイルブルー ・・・ フローレンスブルー

 どっちだろう?

 まあ、どっちにしても青色ではある」

 

「確かに青の仲間ですね」

 

「その人が青だって思えば青

 海の色は個人の自由だ

 不粋な事を聞いてすまなかったね

 淹れたての珈琲をどうぞ」

 

マグカップから漂う珈琲のいい匂いに

思わず笑みがこぼれて

 

「遠慮なく頂きます」

 

彼の手からマグカップを受け取った

彼は隣に座ることもせず

海を眺めながら珈琲を口にする

 

「どうして此処にパン屋を?」

 

「う~ん ・・・ 偶々かな(笑)」

 

「たまたまですか」

 

「そう、流されてみるのも良いかなって思って」

 

「考えが纏まらない時は

 流れに身を任せてみるのも良いかなって思って」

 

「海外の舞台に立つ有名な方なのに

 どうしてパン屋さんをやろうと思ったんですか?」

 

「そこを聞く?」

 

彼が苦笑いを浮かべる

 

「話したくなければ大丈夫です」

 

「ふふ ・・・ あっさりしてるな

 そこは食い下がらなきゃ

 やっぱりお坊ちゃまだ(笑)」

 

ちょっと失礼だと思うけど

珈琲ご馳走になってるから黙っていた

 

「悪い意味じゃないよ

 詮索をしないって事は

 お育ちが良い証拠だ」

 

「それは褒め言葉ですか?」

 

「勿論、気を悪くしたのなら謝るよ」

 

この人の瞳には全く悪意が感じられなかった

きっと、凄く素直な人なのかも

 

「いいえ、謝らなくて良いです」

 

「子どもの頃パン屋になろうって思った

 パンの焼ける匂いが好きだったから

 大きくなるにつれて夢は変わっていくだろ?

 君は何になりたかった?」

 

「俺は ・・・ 何だろう ・・・

 指揮者でしょうか」

 

ピアノを弾くのが好きだった

好きだったけど続けなかった

やりたい事が沢山あって

その中で選んだのは ・・・

考えて愕然とする

俺は何も選んではいなかった

 

貴方と出逢って

貴方が京都に行くと言った時

初めて自分が何をしたいのかを考えた

それが一緒に居る為の口実だとしても

あの時選んだのは自分の意思

 

「指揮者か ・・・ それは夢で終わったの?」

 

「ええ、子どもの頃の朧げな夢

 そんな実力もなければ努力もしなかった

 貴方がなりたかったのはどっちなんですか?

 ダンサー?それともパン屋?」

 

「う~ん ・・・ 高校の頃からダンスを始めた

 その頃の将来の夢はイラストレーターだったかな

 だから、進学先もそっち関係の専門学校に行った」

 

「お店の中の絵は貴方のですか?」

 

「ああ、俺の絵だよ

 卒業してアニメーターになった」

 

「就職されてたんですか?」

 

意外だった、直ぐに渡米したものだとばかり

 

「ああ、結構長く勤めてたよ ・・・

 その間もダンスは続けてたけど」

 

「ダンスを諦められなかった?」

 

「ダンスを極めたいのと

 日本にいる理由がなくなった

 その二つだな ・・・」

 

日本にいる理由がなくなった?

それはどういう意味だろう?

怪訝な顔をするとクスクス笑う

 

「で、パン屋なんですか?」

 

ダンサーとして活躍してるのにパン屋?

 

「約束したから

 パン屋になるって(笑)

 だから、意地でもパン屋にはならなきゃって思った

 まあ、足のケガも有ったから

 いずれ踊れなくなるかもって思って」

 

ダンサーにとって足は命と聞く

この人はそれを乗り越えてパン屋になったって事?

 

「パンを食べる時って笑顔になるじゃん

 ならない?」

 

「それはなります

 焼きたてなら尚の事です」

 

智君が焼いてくれたパンは

それはそれは美味しかった

思いだしただけで笑みがこぼれる

 

「今の顏 ・・・ 凄い良い顔してた

 俺の大事な奴も、同じように嬉しそうに笑う

 それが見たいからだな

 昔、俺がパン屋になりたいって言ったら

 一生懸命、パン屋になる方法を調べてくれた

 だから、ダンサーだけどパン屋(笑)」

 

「その人はダンサーになれとは言わなかったの?」

 

「人の背中を押すって簡単じゃない

 人生を左右する事なら尚の事

 誰かに選ばされたんじゃない

 自分で選んだことが重要

 ダンサーになりたいとは言わなかったから ・・・

 そこは俺のプライドかな」

 

何となくだけど

この人の人となりが見えてくる

自分が歩く道は自分で切り開く

画伯や翔兄 ・・・ そして貴方に似てる  

 

最後は自分で選ぶ  ・・・

 

「海は正直だ

 自分の心を移す鏡でもある

 泣いてるように見えたら

 それは自分の姿 ・・・

 君にはどう見えてる?」

 

「泣いてはいません

 凪いではいませんが

 荒れてもいません

 自分の進む道は自分で決める ・・・

 ありがとうございました

 光が見えた気がします」

 

パン屋さんはマグカップの珈琲を飲み干して

にっこり笑って

 

「それが見えたのなら大丈夫

 帰りに焼き立てのパンを持って行って

 画伯から電話が有ったから」

 

「分かりました

 もう少しだけ海を眺めて

 画伯の家に戻ります」

 

「了解、ごゆっくり」

 

パン屋さんは小さくステップを踏みながら

駐車場まで行き

軽やかな舞を見せてくれた

まるで羽が生えたようだった

 

「今度の公演、招待するから

 君の大切な人と観に来て」

 

「是非」

 

彼は俺のマグカップを受け取って

ゆっくり中に戻って言った

 

 

翔兄も画伯もマスターも

そして ・・・ 貴方も ・・・

決して背中を押さなかった

 

そう言うことなんだよね

 

全ては俺が選ぶ事 ・・・

 

 

智君、明日実家に戻り

当主になる覚悟が出来たことを伝える

一族間の蟠りを解くために

後継者としてできる事はあるはず

光は見えてるから ・・・

そこに貴方が居る事も

だから立ち止まらずに歩き始める

 

 

 

 

 

 

 

<続きます>