取りあえず奇蹟を起こそうか 111 | 瑠璃色の地球(ほし)の青宝玉

瑠璃色の地球(ほし)の青宝玉

大野君に魅せられ、重症サトシックのおばさんです。
年甲斐もなく智愛叫んでます。
お名前をお借りして腐小説を書いています。
ご理解いただける方のみお入り下さい。

男性の方のご入室はご遠慮下さい。

電話室の側を通り過ぎる足音と

潤の声が聴こえる

 

「長は ・・・ 長老会と敵対したいのか?」

かなり不機嫌な声

 

その通りなんだけど ・・・

 

「里の改革に取り組まれたのだから

 多少の軋轢は仕方がない」

 

小栗君が宥めるような優しい声だが

俺の言いたいことを答えてくれる

 

「だからと言って、急激な変化は ・・・」

 

 

「急激な変化ってなに?」

 

ドアを開けて潤に向かって訊ねる

 

「長 ・・・ あっ ・・・ 径君」

 

「お久し振りでございます」

小栗君が慌てて頭を下げた

 

話し声が聴こえたらしく

綾野君が部屋から飛び出してきた

 

「お帰りなさいませ」

 

この場合『ませ』は要らないと思うが

一礼して潤を迎える

 

「剛君、和也はまだ部屋に居る?」

 

「ええ、仕事部屋にいらっしゃいます」

 

「じゃあ、少し話をしようか?」

 

「お茶の用意を致します」

 

「それは必要ないよ

 欲しければ自分で淹れれば良い」

 

ポットもお茶も湯呑みまで用意してある

今はプライベートタイムのはず

 

「径君がそう仰るのでしたら

 用意は致しません」

 

敬語も必要ないけど

まあ、仕方がない

 

「潤、小栗君、それでいい?」

 

「はい、差し支えありません」

 

「俺も構わないよ」

 

だから ・・・ 何時まで経っても言葉遣いは変わらない

一番年下の自覚がなさすぎなんだ

 

ジロリと睨み付けても

どこ吹く風の素知らぬ顔

この場合、長に対して文句があるって事か ・・・

まあいいけど ・・・

 

「潤、何時まで我儘なお坊ちゃまでいる気なの?

 目上の人に対しての言葉遣いを勉強しないと

 誰からも相手にされなくなるよ」

 

小栗君が厳しい声で諫めた

此奴が筆頭家当主になったら

長老会は空中分解する

(それはそれで良いのかも ・・・)

 

「いずれ困る時が来る

 その時、気が付いても手遅れ

 小栗君、此奴は長に文句があるんじゃない?

 だから、敢えてのその態度って事かもよ」

 

当たらずとも遠からじって事だろう

全く反省する様子も見受けられないから

 

「長 ・・・ 申し訳ありません」

 

小栗君が申し訳なさそうな顔で謝ってくれる

 

「小栗君が謝る事じゃない

 潤、さっさと部屋に行け」

 

今日の対面を見ても

まだ筆頭家の威厳を信じているなら

相当おめでたい奴だと思う

 

綾野君が二人の背中をそっと押して

部屋に行くように促した

 

「大丈夫ですか?」

 

「ああ、どんな話になる事やら ・・・

 潤の様子だと何か言い含められてきたかもな」

 

「それは長に対してではなく

 私に対してだと思います」

 

それはそうか ・・・

綾野君が長を甘やかしすぎるとか

何とかかんとかって言われたんだろう ・・・

いや、長への不満もあるはず

長老会にとっての当面の課題は

長をどうやって黙らせるかだな

 

「長を黙らせるために

 剛君をこちら側に引き入れるように ・・・

 これが一番妥当な線だな ・・・」

 

「その場合、私は全面的に戦いますが

 それで宜しいでしょうか?」

 

「ああ、一緒に戦ってくれると有難い」

 

「勿論です

 お世話係は長を守るのが一番の仕事ですから」

 

「頼りにしてるよ」

 

綾野君が笑みを浮かべて大きく頷いた

 

 

部屋に入るなりムスッとした顔で椅子に座って

俺の顔を見上げる

 

「何か言いたげだな

 お前がそんなに不機嫌になる事をしたのか?」

 

「長老会を怒らせたらどうなるのか

 長は知らなさすぎなんだよ」

 

吐き捨てるような言葉と

鋭い眼差しは非難と取っていいんだな?

 

「何を言われてきたのか知らないけど

 俺を無きものにする相談でもしてきたのか?」

 

「長、そのような話は出ていません

 潤、誤解を招くようなことを言うものじゃない」

 

小栗君が慌てた顔で取り繕うが

あながち間違っていないような気がする

離れに鍵でも掛けるか?

それとも屋敷から追い出す?

 

「はなから喧嘩腰って事は

 おまえ自身も長老会と同意見と言う事なんだな

 良いよ、長を辞めようか

 お前が代わりに離れで生活をすればいい

 先読みなど必要ない

 長老会が決めた事だけをすればいい」

 

「長 ・・・ 落ち着いてください」

 

「潤君、何を訳の分からない事を言ってるの

 里で一番偉いのは長だよ

 長老会は権力は持っていても長にはなれない

 長に関しては何も出来ないんだ」

 

さっき散々話した和也が

必死で説明を始める

 

「だからって、全く無視しなくても良いだろ

 今回の件、どう考えても長の身勝手

 これが続くのであれば

 長老会は長を補佐できない」

 

自分は間違っていないと言いたげな顔

 

「何の補佐だ?

 自由を取り上げた上での補佐って

 生活させてやってるって意味か?

 じゃあ聞くが、長の先読み料はいくらなんだ?

 その収入は一体どこに消えている

 屋敷の維持費と人件費

 全て賄えるだけの報酬は得てるはずだ」

 

守ってやってる?

違うだろ、閉じ込めてるだけ ・・・

 

「それ等に掛かる費用を差し引いても

 相当なお釣りが出ます

 それは何処に使われているのでしょうか?」

 

綾野君が畳みかけるように訊ねる

 

「潤君 ・・・ 長の先読み料は

 僕たちが考えているより、遥かに上を行くよ

 一番恩恵を受けてるのは、僕たち長老家だよ」

 

「だからだろ?

 長が自由に動かないようにしたのは

 剛君、お話にならない」

 

「長 ・・・ 離れに戻られますか?」

 

「ああ、休ませて貰うよ

 潤、あの質問状全てに納得がいく答

 直ぐに提出するように長老会に伝えろ

 暁殿で言った事は脅しじゃない

 このまま俺が退けば

 この先、長の器を持った人間は生まれない」

 

もしかして ・・・ それが ・・・

長の本当の望み?

里に縛られた長は必要ない

儀式をつかさどるだけなら

長老家でもできる ・・・

 

違うのか?

 

「長、落ち着いてください

 潤も長に対してその言葉遣い

 なぜもっと思慮深くなれない

 考えれば分かる事だろ?」

 

「里に長は必要なのか?

 その質問も加える」

 

「径君、必要に決まってるでしょ」

 

「自分の為に開かれた里にしたいだけでしょ?」

 

憮然とした顔で言い放つ潤

 

 

翔がこっちに来た事が漏れたという事か ・・・

別に構わない ・・・ 事実だから

俺は彼奴と一緒に歩いていきたい

それだけは譲れない

 

「そう来たか ・・・ だったら?

 だったらどうなんだ?

 いつでも代わってやるよ

 昔、筆頭家がしたように

 お前が長になればいい!」

 

今迄の長がどれだけ泣いてきたか ・・・

お前たちにわかる訳がない

絶望の淵を歩き続けた長の気持ちなど

 

 

「剛君 ・・・ 振出しだな

 部屋に戻るよ」

 

 

「僕は長の改革に賛成です

 例え潤君が向こう側についても変わらない」

 

和也が鋭い眼差しで潤を睨み付けて

俺の顔を見た

 

「長、勘違いしないで下さい

 潤は ・・・ 長のお立場を案じて ・・・

 苦言を申しあげただけで ・・・

 決して反旗を翻したわけではございません」

 

小栗君が必死に取りなそうとする

 

「小栗 ・・・ 先程の彼の言葉はそうは取れない

 長が自分だけの為に里を改革すると

 そう非難したことに違いはないよ

 申し訳ないけど、私は長を守るお世話係

 これ以上、話しを続ける必要性を見いだせない

 長、離れにお戻りください」

 

綾野君が冷たい口調で言い放ち

俺の背中にそっと手をやる

 

「小栗君、悪いけど

 潤を家に連れ帰ってくれない

 ここに居ない方が良い ・・・

 本意ではない改革に協力する必要はない」

 

一歩進んだと思うと二歩後退する

そんなに簡単に進まないのは分かっているけど

 

俺は此奴の言葉を信じた ・・・

此奴は俺を信じていなかったって事だ

自分の事だけを考えて良いなら

改革なんて面倒な事しない

さっさと屋敷を逃げ出している

 

 

後ろを振り向くこともせずに部屋を出た

 

 

 

 

 

 

 

<続きます>